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第42話 老婆、その秘密は

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イーソの町を出たその日の夜。
テントを張って休む一行。
ラヴィは夢を見た。


あれ?
丸いテーブルの周りに椅子が3つ。
それぞれ誰かが座ってる。
1つはちっちゃいゾウの様な……バクバックンのキーリだ。
1つは……クライス!
残りは薄茶色の……犬?キツネ?
まあ良いや。
キツネ犬にしようっと。
キーリとキツネ犬が談笑してる……。
クライスは嫌々応じてるみたい。
え?私も来い?
いや、それはちょっと……。


と言う所で目が覚めた。
あれは何だったんだろう?
クライスに聞こうにも、イーソから機嫌が悪いので少し近寄り難かった。



急がないといけない筈なのに、クライスはゆっくり歩く。
それは老婆の体調を考慮してでは無く。
何かタイミングを計っている様だ。
そして、気になる影。
町からずっと付けて来ている。
ラヴィでも感付く。
町から十分離れたと思われた時。
クライスが立ち止まる。

「出て来いよ!付けてるのは分かってるんだ!」

『ヒッ!』と木陰から声がして、弱々しい少年が出て来る。
年はアンより下だろうか。
若干痩せ気味、体力も余り無さそう。
そんな少年が何故付いて来たのか。
すると少年は、ゴクリと息を呑んだ後叫んだ。

「お婆ちゃんを連れてかないで!お願い!」

ロールはたまげる。

「何だい!付いて来ちまったのかい!さっさとお帰り!」

シッシッと手で追い払う。
その腕をガシッと掴むクライス。

「もう良いだろう。《開放》してやれ。」

「何を言って……!」

ロールは、クライスの冷たい目にギョッとした。
少年はウルウル目に涙を溜めている。
何の事か分からない残り3人。
大きくため息を付いた後、ロールは呟いた。

「しょうがないねえ。でもまた《借りに来る》よ。」

ロールは力が抜けた様に崩れ落ちた。
咄嗟とっさにその体を支えるセレナ。
ロールの体から、ポウッと丸い光が抜けるのを見たラヴィ。
『お婆ちゃーーーん!』と叫びながら駆け寄る少年。
丸い光は、グルグルクライスの周りを周る。
鬱陶うっとうしいな』といった感じで、手を振り回すクライス。
やがて諦めたのか、クライスの左肩に光が止まる。
しっかり!
大丈夫ですか!
ロールに声を掛ける、セレナとアン。
少年も声を掛けると。
ようやく気が付いたのか、ロールはゆっくり起き上がる。
すると、口調がまるで変っていた。


「済みません、ご迷惑をお掛けしました。」


丁寧な挨拶に驚く3人。
抱き付く少年。
その頭を愛しい眼差しで撫でるロール。
そして、クライスの左肩に向かって話し掛ける。

「もう宜しいので?」

一同が振り向くと、光は犬の様なキツネの様な姿をしていた。
手乗りキツネ犬。
ラヴィは思った。
キツネ犬から声が聞こえる。

「今はね。こいつがうるさくてさあ。」

鼻でクライスの顔をつつく。
ギロッと睨むクライス。
そこでアンが気付く。

「なるほど、そう言う事ね。」

「どう言う事?」

ラヴィの質問にクライスが答える。

「前に、金の小人について説明した時の事を覚えてるか?」

「え、ええ。確か、《魔法使いに対する使い魔のようなもん》だっけ?」

「こいつがその使い魔さ。」

キツネ犬を指差すクライス。



「「え?」」



「「えーーーーーっ!」」



ラヴィとセレナが腰を抜かす。
それは、このキツネ犬の正体が使い魔だと言う事だけでは無い。
使い魔が居る、即ち魔法使いも居るという事。
おとぎ話とばかり思っていた。
それが存在するとは……。

「そんなに驚くなよ。こいつみたいなのも居るんだぜ。」

また鼻でクライスの顔を突く。

「だから止めろって!本当にしょうがない奴だな、お前は!」

不機嫌になるクライス。
イーソでロ-ルに近付かなかったのも。
ずっと機嫌が悪かったのも。
原因はこれか。
ラヴィとセレナは漸く納得した。
そこにしずしずと、ロールが口を挟む。

「ありがとうございました。体もこの通り、良くなりました。」

礼を言うロール。
少年も頭を下げる。

「それが契約だからな。当たり前だ。」

偉そうな口振り。
『しょうがない』と、キツネ犬の代わりにクライスが解説し出す。



使い魔はその名の通り、魔法使いの先兵だ。
探ったり、騙したり。
成りが小さいから、出来る事は限られる。
でもたまに、人間に乗り移って諜報活動をする事もあるんだ。
このお婆さんの様な、立場の強い人にね。
その方がより情報を集められる。
身体を借りるその代わり、ある契約をするんだ。
『1つだけ望みを叶える』ってね。
そうしないと出来ない様に、主に定められてるんだ。
意識は共有してるけど、その間宿主は思う様な行動を取れない。
宿主に迷惑を掛けない為に、行動制限もある。
こいつは少し調子に乗り過ぎたがな。
それ程叶えたい願いが大きかったか、或いは宿主が許容していたか。
俺は知らないがね。
まあそんなとこだ。



「責めないであげて下さい。私の願いを叶えて下さったのです。」

「お婆ちゃんは病気で寝込んでたんだ。長い間。それを直してくれたんだ。」

少年も助け船を出す。
乗り移りは、ロールと孫の少年の2人だけしか知らない。
キツネ犬も、少年の口の堅さには正直感謝していた。
それに、ロールの〔孫達の為に体を治したい〕と言う強い思いも感じていた。
契約が達成されたのは、それはそれで満足だった。

「責めてはいないですよ。迷惑でなければ、それで良いのです。」

クライスは慌ててフォロー。
そして、少年の肩に手を置いて言った。

「お婆ちゃんはお返しするよ。陳情書は俺達が持って行くから。」

少年は頷いた。
ロールから陳情書を受け取り、大事に仕舞うセレナ。
そしてロールの手を握り、『必ずお届けします』と誓った。
その光景を見た時だけ、クライスの顔が緩んだ。



ロールと孫に手を振られ、一行はスピードを上げて進み始める。

「そういや、あなた名前は?」

ラヴィがキツネ犬に尋ねる。

「良いよ、こいつまた調子に乗るから。」

『放っとけよ』と言いた気なクライス。
でもこれから不便だ。
名前位……。

「名前は有るぜ。ご主人様が付けて下さった素敵な名前だ。【オズ】ってんだ。宜しくな。」

名乗りを上げた後、ラヴィの耳元でぼそぼそ囁いた。
それを聞いて、顔が真っ赤になるラヴィ。

「キツネ犬じゃないぞ、お嬢ちゃん。いや、キーリの宿主と言った方が良いか?夢の中の事は内緒な。お互いの為にさ。」
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