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第33話 フチルベ、商魂を出すも……

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「どうぞ!そこへお座りになって!」

広間に通された3人。
長方形のテーブルを挟んで、長いソファが1対。
その片方に左からアン、ラヴィ、セレナの順で着席。
向かいにはフチルベ。
後ろの出入り口には、召使いらしき者が立っている。



そして、商談開始。
まず、フチルベが切り出す。

「いやあ、まさか噂が本当だったとは。私も一杯食わされましたよ。」

自分はまだまだ商魂が足りない。
そうアピールする事で3人を立て、した手に出た。
相手を評価し持ち上げる事で、心を許すのを待つ。
こちらに有利な条件へと持って行く為に。
しかし、駆け引きはアンも慣れている。
『そう来るか』と、こちらもはぐらかしに掛かる。

「いやいや。私共にも、これにその様な価値が有るとは存じませんで。あなたに会えて良かった。」

絶対評価を与えたフチルベを褒める。
権威有る者が認めれば、ガラクタ同然だったそれは立派な貴重品に変わるからだ。
あなたに比べれば、私達は小物。
『そう印象付ける事で、有利な条件を引き出す』という《振り》をした。
そう、アンにとってこれは〈商売〉ではなく〈取引〉なのだ。
〈幾らで売買するか〉では無く、〈これにどれ程の価値を付与してくれるのか〉が重要。
その意識の差を相手に感じ取らせる。
『あなたに売らなくても良い、顧客は他にも居る』と実感させる。
商人はそれに敏感だ。
きっと具体的な数字を挙げて、自分達を取り込もうとする筈。
そこが突け所だ。
案の定フチルベは、実際に金額を提示して来た。

「これ程で如何いかがでしょう?」

数字を書かれた紙をテーブルへ差し出す。
顔を曇らせる演技をするアン。

「販売権は、そんなに小さな額で買える程の価値なのですか?」

わざと煽るアン。
実際、提示された金額は大きくは無かった。
家3軒が買える程度。
舐めて貰っては困る。
こちらもそんなちっぽけな金では、『はいそうですか』と言えない。
そう言う態度を取る。
ラヴィはアンに対してうんうん頷くだけ。
セレナはジッと静観している。
商売事には不向きな2人は、アンにおんぶにだっこ。
その行為が、反ってアンの交渉上手を浮き立たせていた。



これは手強い。
見かけ以上に、修羅場をくぐっている。
フチルベはそう考える。
こちらの想定を、〔歴戦の猛者〕クラスにセットし直さなければ。
眉がぎゅっと真ん中に寄ったと思うと、差し出した紙を引っ込める。

「そうですよね、今のはそちらを試させて頂いただけでして……。」

「試す……?」

「いえ、何でも有りません。……ではこれでどうでしょう?」

改めて紙を差し出す。
先程よりは金額が多めだが、家15軒分の土地が買える程度だった。

「安く見られたものですね。そうですね……これ位は出して頂かないと。」

アンは紙を取り、金額に横線を引き上に数字を書く。
フチルベに突っ返された紙には、市場町シウェの年間売り上げの半分近くが記載されていた。

「そ、そんな!これは余りに過ぎる!」

フチルベは焦る。

「そうですか?私達の見立てでは、これの10倍以上は有る筈ですよ。」

「何がでしょう……?」

フチルベはとぼける。
そこを遠慮無く突くアン。

「リンゴの年間売り上げですよ。使い方によっては薬代わりになりますからね。フルーツの中でも抜きん出ていると考えますが?」

アンの言う通り。
リンゴは、ミカンやブドウよりもこの世界では重宝されていた。
価値が段違いなのだ。
だからこそ、フチルベも求めている訳で。

「悪くないと思ったのですが……仕方ありませんね。」

「ではそれより安く……!」

値下げをしてくれると思い、ガタっと立ち上がるフチルベ。
しかし、アンも同時に立ち上がる。



「交渉決裂、ですね。」



吐き捨てる様な台詞せりふのアン。
『ちょ、ちょっと!』と戸惑った顔のラヴィ。
アンに続いてスッと立つセレナ。
それを見て『分かったわよ』と言った顔になり、立ち上がるラヴィ。

「残念ですが……。」

戸惑ったが故に、本当に残念そうに聞こえるラヴィの言葉。
それがフチルベの心に刺さったのだろう。
必死の形相で3人を止めに掛かる。

「もし!お待ちを!まだ交渉の余地が……。」

「有りません。」

冷酷なアンの言葉。
がっくりするフチルベ。
そこを助けようと、召使いが割って入る。

「そうだ!取って置きの菓子が有ります。それを召し上がっては……。」

そう言いかける召使いをギロッと睨むセレナ。
自分の立ち位置が分かったらしい。
『口を挟ませないよ』とばかりに威圧する。
思わずたじろぎ、ペタンと座り込む召使い。
その横をすり抜け、店を後にしようとする3人。



そこに待ち構えていたのは。
フチルベに合図を送られ待機していた、店主達だった。

「それを渡してくれ!頼む!」
「フチルベ様は悪く無い!俺達のせいなんだ!」
「無理に奪う気は無い!お願いだ、町の未来の為に!」

それ等は全部、町の住民としての本音。
フチルベは、自分の金稼ぎや権力欲しさに動いているのでは無いという事。
この町この領地を思っての事。
それだけを、ただ訴え続けた。
その間、アンはわざと顔を背ける。
後の2人も下を向く。

「もう良い!良いんだ!」

這い出す様に、奥から現れたフチルベ。
それに駆け寄る店主達。
皆泣いていた。

「済まない、もうこの町を守れそうに無い……。」

ひたすら謝るフチルベ。
店主達も『申し訳無い』と謝る。
そこへ。



「やっとですね。」



アンが口を開いた。

「その《覚悟》を知りたかったんです。あなたは、権力者になるには優し過ぎる。」

え……?
呆然とするフチルベ達。

「全く、今の姿をブラウニーが見たら何て言うか……。」

ラヴィも口をこぼす。

「まあ、優しいお父様像が守られただけでも良かったじゃありませんか。」

にっこりするセレナ。

「ブ、ブラウニーと面識が……?」

わなわなと震え出すフチルベ。

「ええ。ちょっとね。」

そう言って、右手を差し出すラヴィ。
その手を取り、起こされるフチルベ。

「皆さんの想いは分かりました。私達はそれを解決する為、領主ズベート卿の代理として参りました。」

ふふんとした顔で言うラヴィ。
やっと本題に入る事が出来て嬉しいのだ。
面倒臭いのは嫌い。
やはり直球でないと。

「ズベート卿の代理、ですと?」

「そうです。あなたがグズ呼ばわりした領主様です。」

再びペタンと座り込むフチルベ。
目の前にしゃがむラヴィ。

「ごめんなさいね。町がこうなった事情を知らない事には、動き様が無いもので……。」

フチルベの肩に手を付き、今までの苦労を察し優しく労うラヴィ。
すぐに後ろを振り返り、アンを怒る。

「やり過ぎじゃないの?ここまでしなくても……。」

「でもすんなり出て来たでしょ、隠された事情が。」

逆にしてやったりのアン。
意固地な人間は、ここまでやらないと本音を吐けない。
それを知っていたのだ。



さあ、下地は整った。
これから本当の交渉。
こうなったこの町の顛末を、全て聞かせてくれる事となった。
再び店の奥に入るフチルベとアン、セレナ。
あっちは上手くやってるかしら……。
クライスの事を気に掛け。
レンガ壁の向こうを見やりながら、ラヴィも入って行った。
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