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第27話 約束の《金のリンゴ》と、分断された町
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クライスがズベート卿の心を動かした。
その後の説得はラヴィの役目。
どう切り出すかはラヴィに任せている。
交渉の出だしはこうだった。
「初めまして、ズベート卿。私はアウラル2世の娘、マリアンナ・グスタ・アウラルと申します。」
何の捻りも無く直球で。
正直に誠意を持って。
これが最善と考えた。
「ま、まさか!王女様が何故この様な所に……!」
「あなたがこの町で籠っている間に、国境付近で国を揺るがす事態が起こっているのです。」
そして、事の顛末を話し始める。
無理に嫁がされる所をクライスに助けられた事。
逃避行の途中で、敵国のヘルメシア帝国から侵略を受けていると知った事。
それはメインダリーの裏切りによる物である事。
セントリアを守る為にサファイ・レンドと訪れ、協力を取り付けた事。
そして、モッタにも協力して欲しい事。
何より。
モッテジンでの揉め事も、敵国が仕掛けた罠である事。
包み隠さず話した。
冷静に、しかし情熱の心を込めて。
ズベート卿と3人の配下は、それを黙って聞いていた。
初めは半信半疑だったが。
自分達がここに来る原因まで絡んでいると知ると、顔を高揚させて怒り始める。
「おのれ……!」
「我等まで愚弄するとは!」
「何と卑劣な……!」
三者三様の反応。
じっと考え込むズベート卿。
そして、ゆっくり口を開いた。
「なるほど、良く出来た話。しかし、すぐにそれを信じろと申されても……。」
この辺一帯を国王から預かる身。
軽はずみな判断は出来ない。
何より、信用に足る人物かどうか見極めたい。
ズベート卿の気持ちは、痛い程良く分かる。
「ですから正直に申し上げたのです。ここで《待っていて下さる》為に。」
「待つ……ですと?」
「はい。ズベート卿が今首都にお戻りになっても、恐らくこじれるだけ。私達が争いを解決しましょう。」
「何か策がお有りで?」
「幸いにも、こちらには《幻の錬金術師》が居ります。彼が局面を打開してくれるでしょう。」
セレナはそう言って、右手でクライスを差す。
クライスは、右手のひらの上で金のリンゴを生成し。
ズベート卿へ差し出す。
「これを、約束の証と思って受け取って頂きたい。これが有る限り、モッタの平和を保障しましょう。」
驚きの余り、金のリンゴを落としそうになるズベート卿。
文字通りの錬金に、目を見張る3人の家臣。
特にジンジェは、鮮やかな技裁きに感嘆の声を上げた。
『これだ!これが追い求める頂点だ!』とばかりに。
「金銀のリンゴはまだ利用価値が有りそうなので、金のみで我慢頂きたい。」
「滅相も無い!これ以上の証など存在せぬよ。」
「ありがとうございます。これで心置き無く、首都へ向かえます。」
「済まぬ、力不足で……。」
「いいえ。そのお優しいお心で、民をお守り下さい。あなたが真の領主である事を、今こそ民にお示ししましょう。」
ズベート卿とラヴィ、クライスは固く握手を交わした。
その光景を見るセレナとアンは、満足気だった。
「もう行かれるのですか?」
家の前まで、ジンジェが見送りに来た。
セレナが答える。
「思いの外早くご理解頂けたので。事は急を要しますから。」
「あなたも良い御君主をお持ちで。」
「ジンジェ様こそ。後は、宜しくお願いします。」
「ええ。首都に戻ってすぐに立て直しを図れる様、我等で準備致します。」
お辞儀をして、モッテジンへ向かう一行に加わるセレナ。
見えなくなるまで、手を振るジンジェ。
『これから忙しくなるな』と心を引き締め、家の中へと戻って行った。
「無事に信頼を得られたわね。」
「今の所、な。」
ズベート卿から真の信頼を得るには、すったもんだのごたごたを解決しなくてはならない。
そこで初めて、改めての協力要請が出来るのだ。
モッタの未来は、これからの働きに掛かっている。
それが、あの名も無き村の。
そして、この国全体の未来に繋がっている事。
ラヴィは前を見据えて歩いていた。
その頃、モッテジンでは何やら始まる兆し。
フチルベとエプドモ、それぞれ町の改造が終わり。
街中での人民大移動の号令が、双方から出される。
どちらがより権力者に相応しいか、人口の入出で決めようと言うのだ。
町の住民は、変な具合に真ん中を縦断している壁に戸惑っていた。
様々な反応が出た。
住み慣れた町を脱出する者。
これを機会に取り入ろうとする者。
しかし号令が出ても、町民の殆どは《すぐに動かず静観する者》だった。
誰もが待ち望んでいた。
両者では無い、救世主を。
領主でも無い、救いの手を。
誰かが何とかしてくれる。
他力本願は不本意だが、そう思わずにはいられなかった。
それに付け込もうとする黒い影。
民を救おうと到来する眩い光。
双方が交わろうとしていた。
この《分断の町》で。
その後の説得はラヴィの役目。
どう切り出すかはラヴィに任せている。
交渉の出だしはこうだった。
「初めまして、ズベート卿。私はアウラル2世の娘、マリアンナ・グスタ・アウラルと申します。」
何の捻りも無く直球で。
正直に誠意を持って。
これが最善と考えた。
「ま、まさか!王女様が何故この様な所に……!」
「あなたがこの町で籠っている間に、国境付近で国を揺るがす事態が起こっているのです。」
そして、事の顛末を話し始める。
無理に嫁がされる所をクライスに助けられた事。
逃避行の途中で、敵国のヘルメシア帝国から侵略を受けていると知った事。
それはメインダリーの裏切りによる物である事。
セントリアを守る為にサファイ・レンドと訪れ、協力を取り付けた事。
そして、モッタにも協力して欲しい事。
何より。
モッテジンでの揉め事も、敵国が仕掛けた罠である事。
包み隠さず話した。
冷静に、しかし情熱の心を込めて。
ズベート卿と3人の配下は、それを黙って聞いていた。
初めは半信半疑だったが。
自分達がここに来る原因まで絡んでいると知ると、顔を高揚させて怒り始める。
「おのれ……!」
「我等まで愚弄するとは!」
「何と卑劣な……!」
三者三様の反応。
じっと考え込むズベート卿。
そして、ゆっくり口を開いた。
「なるほど、良く出来た話。しかし、すぐにそれを信じろと申されても……。」
この辺一帯を国王から預かる身。
軽はずみな判断は出来ない。
何より、信用に足る人物かどうか見極めたい。
ズベート卿の気持ちは、痛い程良く分かる。
「ですから正直に申し上げたのです。ここで《待っていて下さる》為に。」
「待つ……ですと?」
「はい。ズベート卿が今首都にお戻りになっても、恐らくこじれるだけ。私達が争いを解決しましょう。」
「何か策がお有りで?」
「幸いにも、こちらには《幻の錬金術師》が居ります。彼が局面を打開してくれるでしょう。」
セレナはそう言って、右手でクライスを差す。
クライスは、右手のひらの上で金のリンゴを生成し。
ズベート卿へ差し出す。
「これを、約束の証と思って受け取って頂きたい。これが有る限り、モッタの平和を保障しましょう。」
驚きの余り、金のリンゴを落としそうになるズベート卿。
文字通りの錬金に、目を見張る3人の家臣。
特にジンジェは、鮮やかな技裁きに感嘆の声を上げた。
『これだ!これが追い求める頂点だ!』とばかりに。
「金銀のリンゴはまだ利用価値が有りそうなので、金のみで我慢頂きたい。」
「滅相も無い!これ以上の証など存在せぬよ。」
「ありがとうございます。これで心置き無く、首都へ向かえます。」
「済まぬ、力不足で……。」
「いいえ。そのお優しいお心で、民をお守り下さい。あなたが真の領主である事を、今こそ民にお示ししましょう。」
ズベート卿とラヴィ、クライスは固く握手を交わした。
その光景を見るセレナとアンは、満足気だった。
「もう行かれるのですか?」
家の前まで、ジンジェが見送りに来た。
セレナが答える。
「思いの外早くご理解頂けたので。事は急を要しますから。」
「あなたも良い御君主をお持ちで。」
「ジンジェ様こそ。後は、宜しくお願いします。」
「ええ。首都に戻ってすぐに立て直しを図れる様、我等で準備致します。」
お辞儀をして、モッテジンへ向かう一行に加わるセレナ。
見えなくなるまで、手を振るジンジェ。
『これから忙しくなるな』と心を引き締め、家の中へと戻って行った。
「無事に信頼を得られたわね。」
「今の所、な。」
ズベート卿から真の信頼を得るには、すったもんだのごたごたを解決しなくてはならない。
そこで初めて、改めての協力要請が出来るのだ。
モッタの未来は、これからの働きに掛かっている。
それが、あの名も無き村の。
そして、この国全体の未来に繋がっている事。
ラヴィは前を見据えて歩いていた。
その頃、モッテジンでは何やら始まる兆し。
フチルベとエプドモ、それぞれ町の改造が終わり。
街中での人民大移動の号令が、双方から出される。
どちらがより権力者に相応しいか、人口の入出で決めようと言うのだ。
町の住民は、変な具合に真ん中を縦断している壁に戸惑っていた。
様々な反応が出た。
住み慣れた町を脱出する者。
これを機会に取り入ろうとする者。
しかし号令が出ても、町民の殆どは《すぐに動かず静観する者》だった。
誰もが待ち望んでいた。
両者では無い、救世主を。
領主でも無い、救いの手を。
誰かが何とかしてくれる。
他力本願は不本意だが、そう思わずにはいられなかった。
それに付け込もうとする黒い影。
民を救おうと到来する眩い光。
双方が交わろうとしていた。
この《分断の町》で。
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