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第23話 会談の後に

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「お、来たか。」

指定した集合場所で、クライスとエミルが待っていた。

「遅いよー。」

エミルが、戻って来た3人の周りをくるくる飛び回る。
ねえお土産は?ねえ?
せっつくエミルをセレナに押し付けて、ラヴィはクライスに一部始終を報告。

「流石ね。あなたの読み通りだったわ。」

「こいつも居たからね。」

クライスの肩には。
シウェで待っていた金の小人が、ちょこんと座っている。

「例の怪しい影は、随分と行動範囲が広いらしい。」

「年季が入ってるわね。敵にしては。」

「それだけ向こうは、こちらを占領したいって事だろう。魅力的なんだな。」

他人事の様に、自分の住処を分析するクライス。
まあ、流浪の身なので仕方無いのは確かだが。
もうちょっと親身になって欲しい、ラヴィだった。

「それで?あの坊ちゃんの印象は変わったか?」

「多少はね。構って貰えない気持ちは、私も同じだから。」

しみじみとした顔をするラヴィ。

「すぐに変わるとは思わないけど。市場のせいでは無い事がはっきりしたから、プラスにはなるんじゃない?」

「だと良いな。」

2人は、この町が良い方向に変わる事を願った。
そこで、クライスは思い出した様に言う。

「あれを渡すなら、今が……。」



「あのね、受け取って欲しい物が有るの。」

エミルがアンの所へ移った隙に。
ラヴィはセレナを呼んで、両手を差し出す。

「今まで何もあげられなかったから。これ。」

それは、金と銀が網状に組み合わさったネックレスだった。

「真剣に選んだのよ。私とお揃い。」

そう言って、ラヴィは首に下げていたネックレスを見せる。
セレナは急にその場にしゃがみ込んで、両手で顔を隠す。
手の下からは、嗚咽が聞こえて来た。
ラヴィと同じ物を他人から貰った事は有るが、《ラヴィから》同じ物を貰った事は無かった。
それがとても嬉しかったのだ。

「勿体無いお心遣い……。」

やっと泣き止んで、セレナはラヴィの手から贈り物を受け取る。
それを首に下げると、ニコッと笑った。
セレナにとっては、まぎれも無い宝物となった。



「そうそう、ラヴィ。あれ持ってるか?賢者の石。」

セレナの頭を撫で撫でしているラヴィに、クライスが話し掛ける。
丁度良いと思ったのだろう。

「ここに持ってるわよ。大事に。」

服の胸ポケットから黒い球を取り出す。
領地リッティで、買い物のおまけで貰った物。
でも大切な思いが込められた物。
ある錬金術師が泣く泣く手放した賢者の石。
それをどうしようと言うのだろう?

「後、ネックレスも出してくれるか?」

言われるままに差し出すラヴィ。

「これは金が使われてるから、こう言う事が出来る……。」

クライスが2つを手の中に包むと、手の中が光り。
ブローチの様に、賢者の石がネックレスの飾りとしてぶら下がった。

「それをラヴィが選んだ時、思い付いたんだ。余計なおせっかいだったか?」

ラヴィは横に首を振り、それを受け取ると。
クライスはセレナの方を向いた。
『済まない』と言った感じで。
セレナは静かに頷く。
これで賢者の石は、ラヴィの心臓辺りで常に存在する事となる。
すなわち、『自分は民衆の心と共にある』と言う象徴。
ラヴィにとって相応しい事だと感じたセレナは。
お揃いでは無くなったけど、それはそれで良い。
そう納得した。



「さて。次に行くのは、首都のモッテジンね。」

ラヴィは、当然そうだと思っていた。
揉め事の中心。
早くそこに駆け付けないと。
しかし、クライスは違った。

「いや、領主に会うのが先だ。」

「何で?仲裁するのが先じゃないの?」

「『領主のズベート卿が一番偉い』、それを示しておかないと意味が無い。今回止めても、また次が現れるだろう。」

「それはそうだけど……。」

「それに、ズベート卿には優秀な部下が付いているんだろう?実権を取り戻した後協力を願うには、まずそちらを味方に付けるべきだ。」

「確かにその方が早いわね、兄様。」

いつの間にか、アンが参加していた。

「私も居るんだからね?忘れちゃ駄目よ?」

そう言って、クライスの頬を摘まんで引っ張る。
『イタタタ!』と相変わらずの反応。

「私も、それが良いと思います。」

セレナも賛成。
エミルはただ飛び回るだけ。
『クライスを信じてる』と言う、暗黙の了解の行動だった。

「決まりだな。」

「まあ良いわ、その辺は優秀な助手に任せるから。」

「ちょっと!兄様は仲間だって言ったでしょ!」

「まあまあ。」

四者四様のリアクション。
それが面白いエミル。
一行は休む間も無く、ズベート卿の居る《首都の隣町ヨーセ》へと向かうのだった。
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