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第11話 交渉 at サファイ

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地図を頼って、領主の屋敷が在る場所まで来た一行。
そこに建っていたのは、周りを何故か鉄条網で覆われた屋敷だった。
大きな門が正面に在り、軽い防具を身に纏った警備員と思しき4人が傍に立っていて。
こちらに気付いたのか、一行をジッと見た後。
1人が声を張り上げて、こちらに向かって来る。

「お嬢様!どちらにいらっしゃったんですか!」

もう1人、剣を構えながら注意深く寄って来る。
『人質に取られているのかも知れない』と警戒しているのだろう。

「ただいま!このお兄ちゃん達に送って貰ったんだ!」

笑顔で手を振りながら、一行の元を離れて警備員に駆け寄るダイアナ。
その仕草から、少なくとも誘拐犯では無いと判断した様だ。

「申し訳無い。町の様子をご覧になられたと思いますが、何しろ物騒なもので。」

「いえ。こちらへ伺おうと向かっている途中で、偶然出会ったものですから。」

「改めて、お礼申し上げます。お嬢様を連れて来て下さり、ありがとうございました。私はお嬢様をお守りしている【ケリー】と申します。」

ダイアナに抱き付かれた警備員が、クライスに深々と頭を下げた。
ケリーは、余程ダイアナに気に入られているのだろう。
お礼の言葉に、親しい間柄の重みを感じた。

「ところで、こちらに御用とは?」

「はい、俺達は旅の行商人でして。御領主様に、取って置きのお話が有って参りました。」

「そうでしたか。お嬢様の恩人でも有りますし、【エレメン卿】もお会いになるでしょう。ささ、こちらへ。」

一行はまんまと屋敷の中に通された。
中は、外とは打って変わって平穏そのもの。
立派な庭園と噴水があり。
門から玄関までの道の両側には、立派な石像が配置されている。
権威を感じさせるその風貌。
果たして領主は、如何いかなる人物か?
緊張が高まって行った。



「ここで、今暫くお待ち下さい。」

屋敷内の客室に通された一行。
『中を探って来るねー』と、エミルは出て行く。
手持無沙汰の一行。
調度品も、中々手に入らない立派な物ばかり。
ラヴィとセレナは目が肥えていたので、大体の価値は分かり感心していたが。
錬金術師には興味をそそられない物だらけだった。
そうして待つ事10数分。
ガチャッとドアが開き、立派な口髭を生やした大男が入って来る。

「待たせて済まなかったな。ここの所、立て込んでいるものでな。」

「いえ、お構いなく。」

この男が領主のエレメン卿か。
中々手強そうだ。
ここからの交渉はクライスの役目。
両替商との換金のやり取りで慣れているからだ。

「まずは娘が世話になった事に礼を言う。感謝するよ。」

「いえ、滅相も無い。」

「それで?余り時間が無いので、手短に頼む。」

「はい、実は或る商談を持って参りました。」

「ほう、何かね?」

「それは、今この町で起こっている騒乱とも関連が有ります。」

「何と!」

「まずはこれを見て頂きたい。」

そう言って、クライスはエレメン卿に取引の証を差し出す。

「俺達は、シルフェニアと懇意にする者です。希少な物を優先的に取り扱わせて頂いています。」

「ほう、それは素晴らしい。ここにある印も、妖精ならではの透かしがある。本物の様だな。」

まじまじと見るエレメン卿に、クライスは声を低くして言う。

「ところが、最近妙な噂が立っておりまして。」

「何?」

「国境付近の混乱がこの領地を通してシルフェニアになだれ込む、と。」

「いやいやいや!あれはセントリアからの避難民が勝手に騒いでいるだけで、その様な事は……。」

「しかし妖精は、そうとは考えていない様子。現に、サファイから追い出そうとなさっているでしょう?」

「こ、これは領地内の安全を考えて……。」

「セントリアでは無くシルフェニアに行く、と言う事は無い保証は?」

「そ、それは……。」

「俺達も、妖精の怒りを買って取引が出来なくなると不味いもので。仲裁役を引き受けた次第です。」

「うーむ……。」

「この事態を収拾するには。サファイがセントリアからの避難民を受け入れ、シルフェニアに来ない様引き留めるのが一番かと。勿論、ただでとは申しません。」

「……。」

「シルフェニアからの珍品をこちらに優先的に取引してくれる様、取り計らいましょう。どうです?悪くないと思いませんか?」

「確かに、長い目で見ればそうだが……うーん……。」

考え込むエレメン卿。
その時。



「それ以上、お父さんを困らせないで!」



ドアの向こうで聞き耳を立てていたのか。
我慢出来なくなったダイアナが、勢い良く入って来た。

「お父さんが怒っているのって、逃げて来た人が一杯居るからなんでしょう?」

「これ、ダイアナ!」

「難しくて良く分かんないけど……お兄ちゃん達、良い人だよ!その通りにした方が良いよ!だって……。」

そう言って、ダイアナは悲しい顔をした。

「怒ってるお父さん、もう見たくないもん!笑ってる方が好きなんだもん!」

「ダイアナ……。」

そうか。
こんな小さい娘に、そんな思いをさせていたのか。
確かに、ここ最近は笑っていない気がする。
この行商人とやらの話ももっともだし。
愛娘の後押しで、エレメン卿は決断した。

「分かった。その商談を受けよう。だが、受け入れようにも反対派の説得と資金が……。」

「ちょっと失礼。」

そう言って席を立ったクライスは。
ダイアナが勢い良く開けたせいで壊れてしまった、ドア。
その前に立つ。

「これ、もう使いませんよね?」

「ええ。取り替えないといけませんので、そうなるかと……。」

ケリーが答えると、クライスはドアにそっと触れた。
すると。



ブンッ!



「……!」

一行以外の全員が絶句した。
確かドアは木製だった筈。
それが一瞬で黄金に変わった。
それでエレメン卿は思い出した。
或る錬金術師の噂を。

「まさか、そなたが……!」

「他に何か要らない物があれば、どんどん変換して資金に出来ますが?」

「え、ええ。おいケリー、この方をご案内しろ!」

「は、はい!どうぞ、こちらへ!」

「待ってー!あたしも行くー!」

ケリーとダイアナは少し躊躇しながら、屋敷を案内。

『結構、金に替えられる物有りそうだよ。無駄にいろんな物置いてあったし。』

ぐるりと屋敷を見て回って来たエミルは、クライスにそう耳打ちする。
コクンと頷いて、クライスとエミルは奥に消えていった。



部屋に残された者で、相談が始まった。

「あれが《幻の錬金術師》とは……。」

「ああ、皆さんはそうお呼びでしたね。」

アンはそう答えた。
隠れ家などを転々として人前に中々姿を現さなかったので、半ば都市伝説の様になっていたのだ。

「でも。こちらの人達も、相当な方々ですよ。きっと混乱を収めて下さるでしょう。」

「ええ。王家の者として、この状況は看過出来ませんから。」

「良くぞ仰いました。」

あの光景を見て、『自分が体を張って止めるべきだ』とラヴィは考えていた。
それが責務で有り、これ位出来ないと野望には到底及ばない。
そうと決まれば、善は急げだ。

「あなた方は一体……?」

頭が混乱しているエレメン卿を置き去りにして。
残る3人は、揉めている群衆へと向かった。



中央広場では、避難民と反対派が押し問答。
このままでは怪我人が大勢出る。
一触即発。
ぎりぎりのタイミングだった。

「静まりなさい!」

群衆に向かってラヴィが叫ぶ。
アンが錬金術で作り出した拡声器を使って。

「アウラル2世の第1王女、マリアンナ・グスタ・アウラルの名において命じます!双方拳を収めなさい!」

びっくりする一同。
行方不明ではなかったのか!
何故こんな辺ぴな所に……!

「国境が侵攻さていれると聞き、ここに馳せ参じました!我々が何とか致します!」

セレナも続いた。

「資金は宗主である私共が用意します!争う事はもう無いのです!」

そう言ってアンは。
賢者の石がめられている指輪、【アンリミテッド】をした左手を地面に付ける。
ズウアアアアッ!
群衆の傍に、高い高い銀の塔が現れる。
それは錬金術師宗主のベルナルド家である事を証明する、最も効果的な方法だった。

「間違い無い!宗主様だ!」
「すると、王女も本物か!」
「恐れ多い事だ……!」

皆その場にひれ伏した。

「顔をお上げ下さい。そして事態収拾の為、私に協力して下さい。」

『ははーーーっ』とひれ伏したままの群衆。

「皆等しく、私の大事な人達です。傷付け合う事無く、助け合って下さい。その為には、私は助力を惜しみません。」

その言葉が心に沁みたのか、泣き出す者も居た。
良かった、これで取り敢えず収まった。
安堵の心が広がるラヴィ。

「それと、私達の事は全て解決するまでどうか内密に。良いですね?」

そう言ってラヴィは。
母親に無理やりひれ伏させられている男の子の傍へ行き、優しく抱き上げた。
男の子は戸惑い、照れながらもニコッと笑った。
その姿を見て母親も笑った。
そこから笑顔が、いつの間にか群衆中に広がっていた。
それを見て、セレナは思った。
やはりこの人なら、世界を平和にしてくれる。
私もしっかりお支えしないと。



一行の力によって町の混乱は収まり、平穏を取り戻しかけていた。
でもまだ気は抜けない。
攻略は始まったばかりなのだから。
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