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第2話 《彼》について
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「ようこそ、我が根城へ。」
案内されて辿り着いたのは、外観がややみすぼらしい家だった。
大きい窓と小さい窓が1つずつ。
屋根からちょこんとはみ出した煙突。
傍から見れば、人が住んでいるのか不思議な位。
でも入ってみると、隅々まで整頓と掃除がなされている。
本棚の様な物には、判読が難しい文字で書かれた本がぎっしり。
外からは想像も付かない生活臭。
不思議な感覚が漂っている。
「適当に座って。」
案内されて、高級そうなソファに腰かけるマリーとエリー。
きょろきょろ見回して、落ち着かないマリー。
対照的に、彼をジッと目で追い駆けるエリー。
「さて、何処まで話したっけな。」
ここに着くまでに、この若き錬金術師に付いて語られた事。
名は【クライス・G・ベルナルド】。
数ある錬金術師の名家を束ねる、宗主家の出身。
幼い頃から、非凡な才能を発揮。
難読文字をスラスラと読み書きし、10年は掛かるであろう知識の習得を1か月でマスター。
そして、金の錬成。
それも【賢者の石】と呼ばれる物体を用いずに。
その才能は、すぐに国中へ知れ渡る。
『彼を寄越せ』と脅す領主や、『名誉ある地位を与えるから、部下になって金を生み出せ』と迫る領主も現れた。
一方で。
その技術を悪用されない様、匿おうと言う領主も。
この子の為にも。
一族の為にも。
何処かで隠匿した方が良い。
両親からそう判断された彼は。
或る領主の申し出を受けて、この様な辺ぴな所に隠れ住む事となった。
「そうそう、そこまでだったね。」
「結構大変な身の上の様ね。生活は辛くないの?」
ちょっと踏み込んだ質問かも知れないが、マリーは聞かずにはいられなかった。
「俺より大変な人はたくさん居るからね。まあ色々やってるよ。」
近くの町に降りては、両替商に金を渡してお金に替えている事。
医学や科学の心得が有るので。
換金の帰りに、困っている町の人を助けている事。
そうして、町の人達と良好な関係を保っている事。
週に1度、実家から《妹》が錬金術に関する道具などを持って来てくれる事。
錬金術師の情報網のお陰で、最近の大体の情勢は掴んでいる事。
淡々と説明すると。
「君達を助けたのは偶然だけどね。町に降りた帰りだったから。」
「なら、その尊い偶然に感謝せねば。ねえ、マリー様?」
「そ、そうね。……ありがと。」
エリーに促され、ボソッと呟くマリー。
でも、何かが頭に引っ掛かっていた。
取り敢えず尋ねてみる。
「あなた、年は?」
「【クライス】で良いよ。成人前、これで答えになるかな?」
「結構よ。私達に近いわね。」
モヤモヤを取り払いたかったマリーは、更に尋ねる。
「一応錬金術師なのよね?」
「まあね。」
「《金以外の錬成》は?」
引っ掛かっていたのは、そこだった。
稀代の天才だ。
金を生み出せる程の。
なのに、他の物質の錬成に関しては何も言わない。
部屋の中にも、錬成で生み出したそれらしき物体の痕跡も無い。
どうして……?
「お恥ずかしい。天才でも何でも無いんだよ、俺は。」
「と言うと?」
「俺は【金しか生み出せない】んだ。操る事もね。だから落第生なんだ。妹の方が余程優秀だよ。」
「「えーーーーーーーーっ!」」
驚く2人。
「ど、どうして?」
目を丸くするマリー。
『そう言われても、ねえ』と返すしか無いクライス。
エリーが尋ねる。
「『全てを引き換えにして、その技を得た』と仰るのですか?」
「かも知れないね。家は、妹が継いでくれるから良いんだけどね。ただ……。」
普通に、人として暮らしたかった。
ポツリと呟いた、クライスの一言。
マリーの心に強く響く。
ああ、同じ境遇の人が居たんだ。
この人なら、自分の野望を叶えてくれるかも知れない。
何故かそう思えた。
その時。
ドンドン。
ドンドン。
『兄様、居る?私よ、【アン】よ。』
「おっと、今日だったか。今開けるよ。」
おもむろに立ち上がり、玄関のドアを開ける。
そこには、可愛らしい少女が立っていた。
見た目、兄より2・3才程年下だろうか。
「お客さんなんて珍しいわね。」
「まあ、成り行きでね。」
「「初めまして。」」
2人は立ち上がってお辞儀をする。
「妹の【アンナ】です。ゆっくりしていって下さいね。」
少女はペコリと頭を下げた。
服装はクライスと同様、狩人の格好に近い。
山の中でも動き易そうな、軽くて丈夫な材質に見える。
こげ茶色のショートヘアは、ふんわりと膨らんで頭部を包んでいる。
まだあどけなさが残るその顔付きは、正に少女。
しかし目に宿る意志は、燃える物が有る様に感じられる。
何かしらの覚悟を持って生きているのだろう、2人にそう思わせた。
アンがしっかりとした口調で、クライスに告げる。
「そう言えば、兄様。国のお姫様が、嫁入り途中で行方不明になったそうよ。」
「彼女達が、その御一行だよ。」
「あらまあ!それはそれは。」
少し畏まるアンに、マリーは手を横に振る。
「あなたのお兄さんに助けられたのよ。『そのままだと危ないから』って、ここに連れて来てくれたの。だから気を楽にして。」
「はあ……。それで、これからどうするおつもりで?」
アンにそう問われるマリー。
どうしよう?
マリーはまだ迷っていた。
この人達を巻き込んでも良いのかな?
避けられるだろうか?
呆れられるだろうか?
その時、エリーに背中をポンと叩かれる。
それで決心し、思い切って告げる。
「あのー、こんな事差し出がましいとは思うんだけど。私達と……。」
ここまで言いかけた、その時。
『ドーン!』と言う音と共に、『ズシン』と言う振動が家全体を揺らした。
ここから大きく動く事となる。
この世界が。
案内されて辿り着いたのは、外観がややみすぼらしい家だった。
大きい窓と小さい窓が1つずつ。
屋根からちょこんとはみ出した煙突。
傍から見れば、人が住んでいるのか不思議な位。
でも入ってみると、隅々まで整頓と掃除がなされている。
本棚の様な物には、判読が難しい文字で書かれた本がぎっしり。
外からは想像も付かない生活臭。
不思議な感覚が漂っている。
「適当に座って。」
案内されて、高級そうなソファに腰かけるマリーとエリー。
きょろきょろ見回して、落ち着かないマリー。
対照的に、彼をジッと目で追い駆けるエリー。
「さて、何処まで話したっけな。」
ここに着くまでに、この若き錬金術師に付いて語られた事。
名は【クライス・G・ベルナルド】。
数ある錬金術師の名家を束ねる、宗主家の出身。
幼い頃から、非凡な才能を発揮。
難読文字をスラスラと読み書きし、10年は掛かるであろう知識の習得を1か月でマスター。
そして、金の錬成。
それも【賢者の石】と呼ばれる物体を用いずに。
その才能は、すぐに国中へ知れ渡る。
『彼を寄越せ』と脅す領主や、『名誉ある地位を与えるから、部下になって金を生み出せ』と迫る領主も現れた。
一方で。
その技術を悪用されない様、匿おうと言う領主も。
この子の為にも。
一族の為にも。
何処かで隠匿した方が良い。
両親からそう判断された彼は。
或る領主の申し出を受けて、この様な辺ぴな所に隠れ住む事となった。
「そうそう、そこまでだったね。」
「結構大変な身の上の様ね。生活は辛くないの?」
ちょっと踏み込んだ質問かも知れないが、マリーは聞かずにはいられなかった。
「俺より大変な人はたくさん居るからね。まあ色々やってるよ。」
近くの町に降りては、両替商に金を渡してお金に替えている事。
医学や科学の心得が有るので。
換金の帰りに、困っている町の人を助けている事。
そうして、町の人達と良好な関係を保っている事。
週に1度、実家から《妹》が錬金術に関する道具などを持って来てくれる事。
錬金術師の情報網のお陰で、最近の大体の情勢は掴んでいる事。
淡々と説明すると。
「君達を助けたのは偶然だけどね。町に降りた帰りだったから。」
「なら、その尊い偶然に感謝せねば。ねえ、マリー様?」
「そ、そうね。……ありがと。」
エリーに促され、ボソッと呟くマリー。
でも、何かが頭に引っ掛かっていた。
取り敢えず尋ねてみる。
「あなた、年は?」
「【クライス】で良いよ。成人前、これで答えになるかな?」
「結構よ。私達に近いわね。」
モヤモヤを取り払いたかったマリーは、更に尋ねる。
「一応錬金術師なのよね?」
「まあね。」
「《金以外の錬成》は?」
引っ掛かっていたのは、そこだった。
稀代の天才だ。
金を生み出せる程の。
なのに、他の物質の錬成に関しては何も言わない。
部屋の中にも、錬成で生み出したそれらしき物体の痕跡も無い。
どうして……?
「お恥ずかしい。天才でも何でも無いんだよ、俺は。」
「と言うと?」
「俺は【金しか生み出せない】んだ。操る事もね。だから落第生なんだ。妹の方が余程優秀だよ。」
「「えーーーーーーーーっ!」」
驚く2人。
「ど、どうして?」
目を丸くするマリー。
『そう言われても、ねえ』と返すしか無いクライス。
エリーが尋ねる。
「『全てを引き換えにして、その技を得た』と仰るのですか?」
「かも知れないね。家は、妹が継いでくれるから良いんだけどね。ただ……。」
普通に、人として暮らしたかった。
ポツリと呟いた、クライスの一言。
マリーの心に強く響く。
ああ、同じ境遇の人が居たんだ。
この人なら、自分の野望を叶えてくれるかも知れない。
何故かそう思えた。
その時。
ドンドン。
ドンドン。
『兄様、居る?私よ、【アン】よ。』
「おっと、今日だったか。今開けるよ。」
おもむろに立ち上がり、玄関のドアを開ける。
そこには、可愛らしい少女が立っていた。
見た目、兄より2・3才程年下だろうか。
「お客さんなんて珍しいわね。」
「まあ、成り行きでね。」
「「初めまして。」」
2人は立ち上がってお辞儀をする。
「妹の【アンナ】です。ゆっくりしていって下さいね。」
少女はペコリと頭を下げた。
服装はクライスと同様、狩人の格好に近い。
山の中でも動き易そうな、軽くて丈夫な材質に見える。
こげ茶色のショートヘアは、ふんわりと膨らんで頭部を包んでいる。
まだあどけなさが残るその顔付きは、正に少女。
しかし目に宿る意志は、燃える物が有る様に感じられる。
何かしらの覚悟を持って生きているのだろう、2人にそう思わせた。
アンがしっかりとした口調で、クライスに告げる。
「そう言えば、兄様。国のお姫様が、嫁入り途中で行方不明になったそうよ。」
「彼女達が、その御一行だよ。」
「あらまあ!それはそれは。」
少し畏まるアンに、マリーは手を横に振る。
「あなたのお兄さんに助けられたのよ。『そのままだと危ないから』って、ここに連れて来てくれたの。だから気を楽にして。」
「はあ……。それで、これからどうするおつもりで?」
アンにそう問われるマリー。
どうしよう?
マリーはまだ迷っていた。
この人達を巻き込んでも良いのかな?
避けられるだろうか?
呆れられるだろうか?
その時、エリーに背中をポンと叩かれる。
それで決心し、思い切って告げる。
「あのー、こんな事差し出がましいとは思うんだけど。私達と……。」
ここまで言いかけた、その時。
『ドーン!』と言う音と共に、『ズシン』と言う振動が家全体を揺らした。
ここから大きく動く事となる。
この世界が。
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