メランコリア色模様

音成アオイ

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メランコリア

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家に帰ってからも、ずっと美月のことを考えていた。
あの後サンドイッチを食べながら、影山さんと話したのは40分ほどだった。途中で沈黙があったりお互いの仕事のことを世間話程度に話したり。
結局何が離婚の理由だったのかは影山さんは言わなかったし私も聞かなかった。
ただ想像するに、例えばきっかけは小さな事だったとしても美月の変な思考回路が暴走してまた勝手に周りをはねのけて、よくない結論を勝手に出したんじゃないのかな。
『1人で生きてるみたいに思わせてしまった』
美月は影山さんが側にいるのにそんな風に思ってしまう自分にショックを受けたのかもしれない。私にも何一つ相談してくれることなく、きっと影山さんの説得も耳に入らず、別れたのかもしれない。


それから3年間、美月は仕事を減らしあまり外にも出なかった。食事のかわりにお酒の量がどんどん増えて、交通事故を起こしたことをきっかけにアルコール依存症のカウンセリングを受けたりしていた。心無い誹謗中傷に対して「思ったより気にならないよ。図太くなってきたのかな」と笑うけれど、痩せて骨ばった手足をみると切なかった。
それでも不定期ながら発信する歌は評価されていたし、私も美月が歌い続けることで社会と繋がること、楽しそうに仕事をしている姿を喜んだ。
私たちは20代後半の独身女子らしく、お互いの家で人生のことも語り合った。「人といれば飲みすぎないから。とくに真帆ちゃんとなら何か万が一があっても止めてくれるしね」「万が一ってなによ、やめてよ。1杯でおしまいだからね」
お菓子とノンアルビールを片手に、私の会社のくだらない愚痴や出会いの話、同級生の結婚報告なんかで盛り上がったりした。痩せると太るを繰り返す美月でも、やはり外見はキレイを保っていて、美月の恋の話はないの?とからかうついでに影山さんとの離婚理由を尋ねたことがある。
美月は何っていう訳じゃないんだけど…と少し考えて、「若かったからなぁ、私。今よりもっとね、バカだと思うよ」と言った。え、後悔してるの?連絡とれるの?久しぶりに影山さんに会いたいとか思う?と私が矢継ぎ早に聞くと、「何そんな興奮してんの真帆ちゃん。ないない、正人さんとヨリ戻したいとかはないよ。連絡もしないし会うこともないって」と笑っていた。私は影山さんと別れてしまったことがすごく悲しかったし、彼は私が美月に思う気持ちと同じものを持って彼女の側にいてくれていたのだと思っていた。2人の事情は2人にしかわからないけれど、もしも美月がもう一度影山さんといたいと思うならば私はこんなに嬉しいことはないのに。

時々やってくる、美月からの連絡の返事が遅くなったり約束を断ったりする時期は、調子が悪い可能性が高い。昔と違って彼女は自分からハッキリとSOSを言ってくれなくなった。私の生活を邪魔しちゃいけないという配慮なのかもしれないが、泣きながら電話をしてくることは一切なくなった。大人になった今、そして色んな事があった今、いよいよ美月が思い付きで死を選ぶんじゃないかとの思いが私の頭をよぎるようになる。私がいきなり会いにいくといつも「ごめんね心配かけて。大丈夫だから」と全然大丈夫じゃない程痩せた体で笑う。「サプリと水で生き延びてる」
「美月、ちゃんと食べて。食べれるものだけ少しずつでいいから」と私が泣きながら言っても「なんか生きることを体が抵抗してる感じ。食べる気がどうしても起きないの。本当に喉を通そうと思うと気持ち悪くて吐いちゃうの。食べれなくなっちゃうんだよ。でも大丈夫、死なないから」と信じていいのかどうかわからない答えを言うのだった。
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