メランコリア色模様

音成アオイ

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無償の愛は何色

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「美月のお母さんも、孫…祐介がかわいいみたいで、昔よりは関係も良好ぽいです」
「そうなの?そうか…うん、お母さんとうまくやれているなら、良かった、のかな」
歯切れの悪い影山さんの気持ちはわかる。
例え周りの人間があの母親が美月を苦しめていると思っても、美月にとってはそう簡単な問題ではないのだろう。共依存なのかもしれないし、憎らしさと大切さと煩わしさと関わっていたい気持ちと、たくさんの中で揺れ動いているのだろうし、単純に母親が大好きなのかもしれない。
完全に疎遠になったらそれはそれで美月がより不安定になる気もするし、美月自身で確立してしまった不健康な思考回路と生活はもはや母親がいるかいないかは大きな問題でなくなった気もする。
「僕が出会った時は特に、なんていうかボロボロで、かわいそうだったな」
ノートパソコンを閉じながら、影山さんは頭を掻く。
でも、そんな美月を助けてくれたのはあなたなんです、わかっていると思うのだけど言わずにはいられなかった。
「美月は影山さんに救われていたと思います。あの、私が言うのも変な話なんですが」
当事者を目の前にして、偉そうな言い方になってしまったら失礼だ。
そんなこと言われなくてもわかっていると思われるかもしれない。
「そうだったら、安心だよ」
影山さんは優しく笑って眼鏡を触り、ホットコーヒーをひとくち飲んだ。
「もちろん美月をとても大切にしていたつもりだし、彼女の助けになれていた自負はあるんだけどね。そうは言っても結局別れちゃったわけだからさ。最後の方は彼女が僕に対してどんな感情だったのか、わからなかったしね」
まだ20代前半の頃の若く幼い顔の美月を思い出す。
「『何があったって絶対に自分のことを見捨てない人』って影山さんのこと言ってました。別れてしまったのは、それは2人にしかわからない色々な事情があったのだと思うし、影山さんが見捨てたとかそういう意味では全然ないのですけど」優しく小さく2回頷きながら影山さんは聞いている。
「初めてだったと思うんです。母親もあんな感じだし、家庭も複雑だったし、いつも人に気を遣って嫌われないようにって生きてる子だから。よく『今日正人さんにめちゃめちゃ八つ当たりしてきてやった。意味もなく何回か蹴ってきた』って笑ったり、『何もかも嫌になってね、大事な仕事に行くのやめちゃって家で1人で泣いてたの。そしたら正人さんが帰ってきて何にも聞かずにずっとぎゅーてしてくれて、大丈夫だよって言ってくれるの』って話してましたよ」
「確かによく意味もなく蹴られてたね。かわいいもんだったよ。って、こんなの言うの恥ずかしいな」照れながらまた眼鏡を触る。
あぁそうだ、影山さんといた時期の美月はその年齢に相応しくちゃんと元気だった。
「すごく楽しそうに、美月が本当に穏やかに暮らせていた時期もあったんだよ。僕としてはどれだけでも甘えてくれてよかったんだけどね。だけど最後までどうしても、1人で生きてるみたいに思わせてしまったのかなって」
話してても悲しくなってきちゃうね、という影山さんの言葉は、結婚当初の美月を思い出すと切なくなってしまう。
2人だけで撮ったウェディング写真を見せてくれながら美月は言っていた。
『真帆ちゃん、無償の愛だよ無償の愛!言葉にすると恥ずかしいけどね、自分が愛されるために生まれてきたんだって思えるの。無償の愛を知ったよ』

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