メランコリア色模様

音成アオイ

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美月

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美月は小学生の頃、とてもおとなしい子だった。
大きな目と綺麗な黒髪という外見で目立つことはあったが、恥ずかしがりやで口数も少なく「真帆ちゃん、真帆ちゃん」といつも私にくっついてきた。
美月の複雑な家庭事情は、お父さんは昔不倫して出て行った、5歳年上のお姉ちゃんとは全然喋らないし何してるかわからない、と中学の時にポツポツと本人が教えてくれて知ったが、その分母親とは仲が良さそうで私はふーんと聞いていた。
高校やお互いの進路が別れても私と美月はいつもたくさん話をした。ファーストフードで、ケーキ屋で、カフェで居酒屋で。美月はますます美人になっていき私以外に一緒に遊ぶ友達も何人かはできたようだが、「気を遣っちゃって疲れる」「真帆ちゃんといるのが一番楽しい」と結局私の側にいる。私も学校やバイト先に友達は大勢いたが、素直に私を慕ってくる美月が大好きだったし人付き合いがうまくできない彼女をもどかしいような愛しいような感覚で見守っていた。
私達が20歳くらいの頃だろうか「母親がちょっと過干渉なんだよね、あの人私に何を期待してるんだろう」美月は時々そんな事を言うようになる。その内に母親は、美月の彼氏に勝手に電話をして『娘をたぶらかすな、別れろ』と言ったり、美月を殴ったり、自殺すると騒いだり、泣きながら『みっちゃんお母さんのそばにいてね』と言ったり、明らかにおかしい状態になった。
美月自身も小さなことで落ち込んだり自分の将来を悲観したり、元々周りとうまく溶け込めないせいもあり大学をやめて心が不安定になることが増えてきた。
私はできるだけ彼女の助けになりたいと、話を聞いたり遊びに連れだしたり、母親とのトラブルで警察や病院に付き添うこともあった。「しばらくお母さんと距離を置いた方がいいんじゃない?」と何度かすすめたが、結局美月の結論はかわらなかった。「あの人も病気で苦しんでる。ムカつくんだけど、かわいそうだから側にいてあげたい」
美月の歌がある時いきなりSNSで話題になり、ちょっとした有名人になりかけた時も、頭の良い彼女は浮かれず冷静に自分の生き方を模索していた。
母親との関係を脱したかったのかもしれないし、もしかしたら逆に母親を喜ばしたかったのかもしれない。
サブカル的な人気を一定数集めて、若い美月はたくさんの大人と仕事をする環境に夢中で対応していたのだと思う。
苦手な人付き合いを1人でこなしながら、プレッシャーや責任もある中で、必死に不安定な心と付き合いながら。泣きながら電話してくる美月に夜中に会いに行ったことも何度もある。
このままでは美月が壊れてしまう、どうにか助けなきゃと思うものの、のんびり大学生をしている私とは世界が違い過ぎて、歌うことが好きな彼女に「仕事やめちゃいなよ」と言っていいものか。堂々巡りの「母親と連絡とるのしばらくやめなよ」と言い続けていいものか。どうしたら美月が幸せに生きられるのか。過食嘔吐がやめられなかったり上機嫌でお酒を飲んだり落ち込んだりする美月がいたたまれなかった。
そんな時、美月は影山さんと出会ったのだ。

「真帆ちゃん、私好きな人ができたよ」「すごい大人で優しい人」「今度真帆ちゃんにも会ってほしい」そう言って紹介された影山さんは確かに私達より年齢もずっと上で、穏やかで、美月のことをとても可愛く大切に思ってくれている事が伝わった。
きっとこの人は美月の不安定な心を理解して受け止めてくれる。
私はまるで親心のように安心して、幸せそうに婚姻届けを出す2人を心の底から祝福した。その結婚生活は4年で終わってしまったけれど、あの時影山さんがいなかったら美月は生きることをやめていたかもしれない。
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