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5、屋上の先端のその先へ
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1階のバーはこじゃれているけれど、ビル自体はとても古い。5階まで続く階段は陽も入らなくて薄暗くて、はるおは私の手を取って進んでいく。屋上の鍵とか空いてるのかな?とふと思ったけど、最後の重たい扉はすんなりと開いて景色のひらけた屋上に出た。
人の出入りがよくあるのか、地面には吸い殻がたくさん落ちている。突き当たりの錆びたフェンスは少し反動をつければまたげる高さで、その先には人が座れるくらいのスペースがあり、更にその先は落ちていく先だった。
今までここから飛び降りた人っているのかな。その人もあの薄暗い階段を上がってきたのだろう。どんな気持ちでこの景色を見たのだろうか。私も屋上から飛び降りたことはなかったから、最後にどのくらい勇気が必要なのか、想像できなかった。
はるおは1人でフェンスまで近づき、「これ、またがなきゃ下見えないな」とひとりごとのように言う。
「フェンス越えてみる?」私は自然に言った。煽る訳でもなく、怖がる訳でもなく。
はるおは私の方を振り返らないまま手を伸ばし、フェンスをつかみ、軽々と向こう側に降り立った。
あぁ本当にはるおは死ぬ気なのかな。このままためらいなく飛び降りてしまう?ちょっと待ってよ。私の目の前で自殺を成功させないで。呼び出しといて1人だけ勝手に飛び降りれるなんてズルい。待って、先に死なないで。
「待ってよ」思わず口に出た。あなたの自殺を止めるつもりはないから。私も便乗させて。
フェンスを掴み、私もよじのぼる。はるおが手を貸してくれて、ギリギリのスペースに2人並んで膝を抱えて座った。
少し顔を覗き込めば、吸い込まれるように遥か先に地面がある。
はるおは「怖っ!上からみると怖いね」と笑った。ふざけた延長のように、ノリで言っているように、機嫌のよいかわいい笑顔。はるおにとっては、ほろ酔い気分で勢いで飛び降りるつもりだったのかもしれない。
私は、そういえば今日は大学のゼミで発表する日だったな、色々レポートまとめてたけど死ぬから行けないや、とまるで今日バイトだからご飯行けないや、という感覚でいた。
私にとってはそれくらい死が日常にあって、いつ成功できるのか、その勇気を出せるタイミングはどこなのか、を探していたのだと思う。
今、手も繋いでいない、体も触れていないはるおが隣にいるだけで、いける気がする。お先にって飛び降りれる気がする。
「奈々子、首吊る時と今と、どっちが怖い?」いつの間にか酔いも笑いも醒めた顔ではるおが聞く。
「首吊る時は意識朦朧だったからあんまり覚えてないかな。でもやっぱ怖かったのかもね、すごい泣いてた。今は全然怖くないよ。飛び降りれるよ」「遺書とか要らないかな?」「私は要らないけど。はるおは必要なら書く?ノートもペンもあるよ」「ノートとか持ってんの、さすが大学生だね」「ここで飛び降りなかったら普通に学校に行くだろうからね」「そっか」会話が途切れて、2人とも真っすぐ前を見ていた。
もしかしてやっぱり飛び降りないでおこうと思ってるかもしれないな、どうしても最後の勇気が出ない気持ちは全くもって理解できる。今はるおが迷っているとして、私は急かすことも誘導することもしてはいけない。
人の出入りがよくあるのか、地面には吸い殻がたくさん落ちている。突き当たりの錆びたフェンスは少し反動をつければまたげる高さで、その先には人が座れるくらいのスペースがあり、更にその先は落ちていく先だった。
今までここから飛び降りた人っているのかな。その人もあの薄暗い階段を上がってきたのだろう。どんな気持ちでこの景色を見たのだろうか。私も屋上から飛び降りたことはなかったから、最後にどのくらい勇気が必要なのか、想像できなかった。
はるおは1人でフェンスまで近づき、「これ、またがなきゃ下見えないな」とひとりごとのように言う。
「フェンス越えてみる?」私は自然に言った。煽る訳でもなく、怖がる訳でもなく。
はるおは私の方を振り返らないまま手を伸ばし、フェンスをつかみ、軽々と向こう側に降り立った。
あぁ本当にはるおは死ぬ気なのかな。このままためらいなく飛び降りてしまう?ちょっと待ってよ。私の目の前で自殺を成功させないで。呼び出しといて1人だけ勝手に飛び降りれるなんてズルい。待って、先に死なないで。
「待ってよ」思わず口に出た。あなたの自殺を止めるつもりはないから。私も便乗させて。
フェンスを掴み、私もよじのぼる。はるおが手を貸してくれて、ギリギリのスペースに2人並んで膝を抱えて座った。
少し顔を覗き込めば、吸い込まれるように遥か先に地面がある。
はるおは「怖っ!上からみると怖いね」と笑った。ふざけた延長のように、ノリで言っているように、機嫌のよいかわいい笑顔。はるおにとっては、ほろ酔い気分で勢いで飛び降りるつもりだったのかもしれない。
私は、そういえば今日は大学のゼミで発表する日だったな、色々レポートまとめてたけど死ぬから行けないや、とまるで今日バイトだからご飯行けないや、という感覚でいた。
私にとってはそれくらい死が日常にあって、いつ成功できるのか、その勇気を出せるタイミングはどこなのか、を探していたのだと思う。
今、手も繋いでいない、体も触れていないはるおが隣にいるだけで、いける気がする。お先にって飛び降りれる気がする。
「奈々子、首吊る時と今と、どっちが怖い?」いつの間にか酔いも笑いも醒めた顔ではるおが聞く。
「首吊る時は意識朦朧だったからあんまり覚えてないかな。でもやっぱ怖かったのかもね、すごい泣いてた。今は全然怖くないよ。飛び降りれるよ」「遺書とか要らないかな?」「私は要らないけど。はるおは必要なら書く?ノートもペンもあるよ」「ノートとか持ってんの、さすが大学生だね」「ここで飛び降りなかったら普通に学校に行くだろうからね」「そっか」会話が途切れて、2人とも真っすぐ前を見ていた。
もしかしてやっぱり飛び降りないでおこうと思ってるかもしれないな、どうしても最後の勇気が出ない気持ちは全くもって理解できる。今はるおが迷っているとして、私は急かすことも誘導することもしてはいけない。
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