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2、下心はないけれど

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今日も性懲りもなく、シャンディガフを頼もうか。
前回飲んだ時、このお店のシャンディガフは辛みが効いていて美味しかったし。でもここはバーで、ましてや今日はカウンターに座っているのだから、従業員の人に「さっぱり系の飲みやすいカクテルを」とか注文すればその場で作ってくれるのだろう。でもそしたら感想とか言わなきゃいけないのかな、そんな注文をすることさえも逆にツウぶってる感じが出たら嫌だな、あぁ別にお酒が飲みたくて来た訳じゃないのに、はるおに会えるかもってたったそれだけの気持ちで、どうして来ちゃったのだろう。
あまり最初の注文が遅いのも変な客って思われるかな…とごちゃごちゃ考えだしたところで「シャンディガフください」と無意識に口走った。

真希ちゃんと来た時、はるおはお店にいなかった。平日だったし、私たちは22時にはお店を出てしまったから、もしかしたらその後の深夜にはいたのかもしれない。店長なのかオーナーなのか、とにかくそんな立場の人間だからいつでもいる訳ではないのかもしれない。
会いたくてお店まで行ったくせにいざ会ったら、私は何を話すつもりだったのか。真希ちゃんもいて、混んでいる店内ではるおを捕まえてじっくり話し込めるわけでもないだろう。
ただ会って、私を覚えてくれていたらいいな。かわいい人懐っこい笑顔で「久しぶりじゃん」って言ってほしいだけだった気もする。
テーブル席に座ってカウンターをチラチラ見る真希ちゃんに「はるおくんいる?」と聞かれて「いないっぽい」と答えながら、残念な気持ちと少しホッとした気持ちと半々だった。その後はどこかで従業員とお客さんの笑い声が聞こえる度に、カウンターから人が出てくる度に、はるおじゃないかな?と気にはなったけど、真希ちゃんとの久しぶりのお酒にすっかり楽しくなっていた。
帰り際に「はるおくんには会えなかったね」と言われた時も「うん、まぁ会ったところで何を話すんだ、って感じだしね。」と言ったのは本心だった。
私とはるおの昔の関係をそこまで深く知らない真希ちゃんは「そっか。ついでで誘った私でご満足頂けたでしょうかね」と笑っていた。


今日1人で飲みに行くことは旦那には内緒にしている。子供が生まれて以降、友達と夜遊びに行くなんてほとんどなかったから、真希ちゃんと10年振りに飲みに行くと話した時は「めずらしいね、久しぶりだね。何でまた急に」と驚いていた。
この前もそして今回も、はるおという人に会いたいからとはさすがに言えない。別に率先して話すような過去じゃないから、旦那ははるおを知らない。
今、15年振りにはるおに会いたいと思う気持ちが私自身もよくわからない。下心とかじゃない。ときめいている訳でもない。私のことなんて忘れているかもしれない。
それでもやっぱり旦那には言いずらくて、今日の予定は会社の付き合いの飲み会ということにしている。「部長の都合でいきなり決まったんだよね」「なんか今回は流れで2次会とか行ってくるかも」と説明したが、ちょうど旦那も来週友達と遊びに出かける予定があったからか、至って普通に了承してくれた。
実際のところ子供が成長してきて、最近は少しずつ家庭の生活スタイルは変化してきている。ご飯を食べさせたり、お風呂に入れたり体をふいてあげたり寝かしつけたり、そういう時間がなくなった事で私には物理的に自分の時間が増えてきたし、そうして自分と向き合いだすと、くだらないくせに私を苦しめる思考回路がまた顕著に表れてきていた。
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