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47扉を叩いて③
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こちら、急きょ加筆した部分です。編集を何度か加えることをご了承ください。
~~~~~
侍女たちの震える手指が、緊張を伝播させていく。この瞬間も目の前の状態が変わり続けている。すべてを把握することは困難だったが、はっきりとこれだけは言える。
皇太子の一言をみんなが待ち望んでいた。
貴人の次の言動を期待したし、恐れた。どのような仮の未来も容易く想像ができてしまったから。どのような場面の対応をしても手遅れに感じたのである。
踏みとどまったアルベールのすらりとした足も、腕もそうとうに脱力しきっている。顔は扉に傾けたままで、体重を預けている。だから、どんな表情をつくっているのかわからない。
アルベールは扉越しを確かめながら、自分の声の出しどころを探っているようであった。
今しがた泣いているハヤセのことを心配するあまり、声を出せなかったのかもしれない。どちらにせよアルベールは石のように固まって、ゆっくりと息をするだけ。
「俺は……」とアルベールが口を開いた時、誰もが息をのんだ。
「俺は……、俺はずっと。お前のことしか考えてこなかったんだぞ」
高ぶるものを抑えながら。歯を食いしばり、声を絞り出していく。ゆっくりと、頭のなかから取り出すような丁寧さで。アルベールはハヤセに恋を抱いたばかりの頃を思い出していた。
「愛してくれるかだって?そんなの当たり前だろっ……!!どれほど、どれだけ俺がお前のことを恋しいと思っているか」
ハヤセには、この不器用な自分の気持ちが伝わらないのだろうか。それとも分かり辛かっただろうか。あれほど想っていたというのに。ひたすら晒して、恋という心の痛みにも耐えてきたというのに。
どうか気づいてほしい。すぐにでも自分の想いを受け取ってほしい。
アルベールのひたむきな気持ちが、扉越しに放たれていく。すべての感情をぶつけても、その相手には届きそうにないかもしれないが。
「愛している。愛しているんだよっ、俺は。俺はハヤセのことを」
喉の奥底から出た言葉を、言わずにはいられなかった。皇太子としての体裁なんかここではいらない。今は、昔と同じでいい。「愛している」と連呼すれば彼に届くかと思って、もう無心だった。
ハヤセはまだ泣いているかもしれない。呆れているかもしれないし、情けない自分に笑っているかもしれない。相手の反応をうかがう暇もないくらい、切羽詰まっている。どうしても彼を引き留めたくて、扉に張りついている。少しでも近づきたくて。
「離れないでくれ。俺と一緒にいて……もう居なくならないでほしい」
泣き言が続く。彼をこのまま抱きしめたい。
でも、2人の間には、この扉のように大きな隔たりが残されている。愛を求めているというのなら、ハヤセはこの扉を叩いてでも開けているに違いない。だが依然として、ハヤセは部屋に隠されたままだった。
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侍女たちの震える手指が、緊張を伝播させていく。この瞬間も目の前の状態が変わり続けている。すべてを把握することは困難だったが、はっきりとこれだけは言える。
皇太子の一言をみんなが待ち望んでいた。
貴人の次の言動を期待したし、恐れた。どのような仮の未来も容易く想像ができてしまったから。どのような場面の対応をしても手遅れに感じたのである。
踏みとどまったアルベールのすらりとした足も、腕もそうとうに脱力しきっている。顔は扉に傾けたままで、体重を預けている。だから、どんな表情をつくっているのかわからない。
アルベールは扉越しを確かめながら、自分の声の出しどころを探っているようであった。
今しがた泣いているハヤセのことを心配するあまり、声を出せなかったのかもしれない。どちらにせよアルベールは石のように固まって、ゆっくりと息をするだけ。
「俺は……」とアルベールが口を開いた時、誰もが息をのんだ。
「俺は……、俺はずっと。お前のことしか考えてこなかったんだぞ」
高ぶるものを抑えながら。歯を食いしばり、声を絞り出していく。ゆっくりと、頭のなかから取り出すような丁寧さで。アルベールはハヤセに恋を抱いたばかりの頃を思い出していた。
「愛してくれるかだって?そんなの当たり前だろっ……!!どれほど、どれだけ俺がお前のことを恋しいと思っているか」
ハヤセには、この不器用な自分の気持ちが伝わらないのだろうか。それとも分かり辛かっただろうか。あれほど想っていたというのに。ひたすら晒して、恋という心の痛みにも耐えてきたというのに。
どうか気づいてほしい。すぐにでも自分の想いを受け取ってほしい。
アルベールのひたむきな気持ちが、扉越しに放たれていく。すべての感情をぶつけても、その相手には届きそうにないかもしれないが。
「愛している。愛しているんだよっ、俺は。俺はハヤセのことを」
喉の奥底から出た言葉を、言わずにはいられなかった。皇太子としての体裁なんかここではいらない。今は、昔と同じでいい。「愛している」と連呼すれば彼に届くかと思って、もう無心だった。
ハヤセはまだ泣いているかもしれない。呆れているかもしれないし、情けない自分に笑っているかもしれない。相手の反応をうかがう暇もないくらい、切羽詰まっている。どうしても彼を引き留めたくて、扉に張りついている。少しでも近づきたくて。
「離れないでくれ。俺と一緒にいて……もう居なくならないでほしい」
泣き言が続く。彼をこのまま抱きしめたい。
でも、2人の間には、この扉のように大きな隔たりが残されている。愛を求めているというのなら、ハヤセはこの扉を叩いてでも開けているに違いない。だが依然として、ハヤセは部屋に隠されたままだった。
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