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08彼女の正体
しおりを挟む出仕してからわずか半年足らずで、宮廷幹部の女官長にまで昇進。正式には女官長代理というが役職の差はこれといってない。その美しき存在は、突如として社交の世界に台頭してきた。
いや待て。
レイフィールド家にそもそも娘がいただろうか。ある一定の爵位を持った貴族ならば、そこで思考を立ち止まらせることができた。
噂の女は出仕する前、社交場に影かたちもなかったはず。いかにデイナイン公が押せ押せであったとしても、皇帝陛下が受け入れるには、その女性本人が持つ功績だって考慮されるはずである。社交の場にいないこと、これすなわち何の功績も人脈もないに等しいのだ。
ハヤセ・レイフィールド大抜擢の話は、前提から既に眉唾ものであるという帰結になりかねないわけである。このように貴族層では噂の出処を冷静に分析し、「ハヤセなどという女性はいないのではないか」という着地点を見つけるのだった。
一方で女性陣はどうかというと、様相はこれまた異質なものであった。
ハヤセ・レイフィールドの詳細なところまで知っている人はいない。だが、概要だけならば帝国の貴婦人、令嬢、女児にいたるまでもが嗅ぎつけている。なにせハヤセが、文字通りの前代未聞な女性と取り沙汰されているからだ。一般官職を飛び越えて長官に任じられた人間など、聞いたことが無い。しかもそれがうら若き乙女ときた。
噂によると、なるほど才女であるらしく家柄も申し分ないと聞く。しかし、二十歳の女性が本当に宮廷を取りまとめることが現実的にできようか。
令嬢たちの見解はどれも、「女性の躍進は嬉しいことだが、ハヤセは若干盛られている節がある」という絶妙な塩梅で落ち着いていた。
宮廷はハヤセを熱狂をもって迎え入れた。レイフィールド家は美女をずいぶんと深窓に隠していたものだと、公務員の誰もが目を瞠るのだ。噂の出処にもなった侍従職の人々は、みな口を揃えて「ハヤセはレイフィールドの至宝」と褒め称えるのである。巷間では最も受けが悪い解釈だった。
とにかく話題尽くめの人だ。
女官に言わせれば、かの人への評価はすこぶる高い。規律と道理を弁えた良い女性だという見識と、帝国を代表する美貌の持ち主という風説はどこも似たり寄ったり。
年功を重んじられる女官長の地位に就いたハヤセに敬意を抱く人だっている。どんな年増女かと陰口を叩いてみても、実際に会ってみると自身の高慢ぶりを恥じる女官の多いことだった。ハヤセにプライドをへし折られる女性は少なくないし、ハヤセに憧れを抱く女官もまた数多くあったのだ。
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