ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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58カッコ悪いあなたが好き➀

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 レオポルドの血と汗をぬぐう。彼の顔を傷つける汚れを、ルイは念入りに拭き取っていった。

「ルイ、もういいよ」

「だめです。まだレオ様の顔に傷が残っているかも」

「大した喧嘩じゃないから、心配しないで」

 手拭いの表と裏を使っても、まだ足りない。
 手で制止が入っても、ルイはレオポルドの顔に手を置き続けていた。王子の大切な顔に、もしものことがあってはいけない。深い傷であれば医師を呼ぶことだって考えるべきである。だって、仕事でも日常生活でも、清廉な見た目は欠かすことはできないはずだ。

「頭蓋は?殴られた部分は痛くないですか?足や手に違和感はありませんか?」

「ないよ。すり傷だから」

 ルイは騒動直後で、かつてないほど気が高ぶっている。従者を差し置いて、自ら夫の手当てをこなしていった。

「見落としている可能性だってありますし……」

「ありがとう、ルイ。でも俺はこの見た目どおり丈夫だからさ」

 レオポルドの顔を両手で包みながら、ルイは悲しみに満ちた顔でいた。大丈夫だとへらへら笑う夫に、そうとうな心労を抱えながら。ルイは苦しい胸中を告げていった。

「じょ……丈夫なら!!あんなに簡単に倒れないでくださいよっ!!」

 兄王子と取っ組み合って、痛い思いをして、あまりに無様なことだった。レオポルドは実力を隠すどころか、敵意を相手に見せただけで荒っぽく実力行使をすることはしなかった。
 彼がやったことといえば、せいぜい兄に殺気をぶちまけて、襟を掴みあげたことくらいだ。反撃はすれども、彼から仕掛けたところをルイは見なかった。
挑発にのって挑んだのはレオポルドだが、殴るも蹴るもマルクスが主犯であった。

「ルイ」

「なんで。なんで兄君に真っ向から挑んだんですか!!全力で挑むわけでもなく、殴られっぱなしで、言葉に釣られ続けて。何もかもが中途半端で……お粗末な」

「中途半端じゃない。俺がそうしたいと思ったからだ」

「何がしたかったのですか。レオ様、あなたの目的がわからない」

 ルイたちの婚礼が、マルクスや王妃によって破綻させられそうになっていた。それを夫のレオポルドが拒み、妻側の立場を守り続けていた。幼い頃からルイに執着し、互いに離れることがないよう配慮を重ねていた。
 言葉にしてそれだけ。たったそれだけのことだった。乱闘も喧嘩もいらないではないか。

 庭を荒らすだけ荒らして、手に入れたものは何だったか。レオポルドに何か得はあっただろうか。

「本気で殺そうと思っていたからだ」

「だれ……を」

「兄を」

 レオポルドはそうとう頭にきていたらしい。それに加えてルイとの婚約破棄という突拍子もないことを命じられては、彼が次に取る行動は限られていた。
 若気の至りというには強烈すぎる台詞であろう。しかし彼の本音はそれだった。
 あの瞬間。気を窺って、マルクスの首を斬ってやろうかという意志があった。剣の柄を持つ手は間違いなく、決闘で振るうそれだった。

「あいつはルイのことを侮辱した」

「言い方に気をつけて、実の兄でしょう」

「殴るだけじゃ物足りないと思ったんだ、俺は」

 そう言うレオポルドの表情は、真面目そのものである。まったく悪びれることはしない。あまりに清々しいから、ルイは自分の尋ねたことが何だったかを見失うところだった。
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