ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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57かりそめの妃④

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 情に流されるな、悪魔のささやきに惑わされるな。ルイは心のなかで何度も唱えていた。誰よりも大切な人のためなら、自分は悪魔だってきっと殺せるだろう。

「レオ様のそんな顔は見たくありません」

 だがレオポルドが狂気を込める顔なんて見たくない。いつもの笑っている顔でいてほしいから、そのために自分は生きているから。地面にひれ伏してでも彼に求めるのである。

「ルイ、俺は」

「わかってます。あなたはやさしいって、見てましたから」

 だからどうか、はやまらないで。剣の柄を握るのはやめて。その手を前にふり下ろしたら、もう後がなくなってしまう。王太子に刃を向けたと言われて、不名誉ばかりを被ってしまう。輝かしい第三王子に汚点が残るのは本当にいけない。

「あなたが剣を握る時は、決闘大会だけで良いのです」

「……」

「私たちのために鎮めてください、レオ様」

 懇願が届いたのか、レオポルドは手足をだらりと垂らし、その場で尻もちをついた。やや間を空けてから、対峙する相手もちょうどよく距離をとり下がっていく。
 改めて見てみると、兄弟そろって顔の傷はひどいものだった。これで武器も使っていないのだから、止める人がいなければもっと凄惨なことになっていたかもしれない。

「レオさま……だと?」

 目線の先からにわかに驚嘆の声があがってくる。ルイは気が抜けたように、しばらく夫の背中に寄りかかっていた。向こうの貴人に受け答えする気にはなれなかった。

「お前らは、そうか。たいそう仲を育んでいるらしい」

 マルクス王子は続けて、失望に満ちたため息をこぼしていった。身構えていた王子たちの調子が崩れるにつれ、全員の警戒心も緩んでいく。ゆっくりとだが従者も頭数を増やしていった。

「わかったら婚約破棄なんて、二度と言わないでくれ」

「いや言いたいことは言わせてもらう。お前はやっぱり普通の女と結ばれるべきだった」

「ぐっ、まだそんなことを」

 立ち上がろうとするレオポルドを、ルイはどうどうとなだめていく。
 ルイはできることなら、夫の意見にすべて同調していたかった。でも「黙って認めろ」と示せるだけの発言力が、彼には無い。ことの成り行きはどうしても、王族直系の男たちの手によって紡がれていく。

「婚礼の誓約書もしかり。まだお前は結婚自体を無かったことにできるんだ、俺たちのおかげでな」

「恩着せがましく偉そうなだけじゃなくて、屁理屈までこねる気か。兄上」

 レオポルドがぎろりと鋭くにらんだ。8年前に終わった婚礼のことを持ち出されて、ルイも動きを止めている。頑なに引き下がろうとしない王子たちに、うんざりという気持ちが周りから漂っていた。

「選択を見誤るなよ?王族にとって何が重要か、お前はもう一度考えるべきだ」

 長男の方はそう言うと、宮の出入り口に足を向けていった。その退場に従うように、庭にいた半分以上の人間が彼を追っていった。
 残ったルイと他の付き人は、レオポルドを介抱するためと動きだした。
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