上 下
52 / 62

52あくまで平和な①

しおりを挟む
 成人になってもレオポルドの務めは変わらない。
 軍務と王宮での執務が巡るようにやって来て、いつも動き回っている。加速する王宮の変わりぶりに、むしろレオポルドの奮励は際立つようになっていった。働きすぎて、その内身体を壊すのではないかと心配されるほど。懸命な取り組みは見ている側の心も震わせた。

 ルイは忙しそうにしている夫のため、できる限りの援助をしていった。湖畔に集まる貴族諸侯、子どもたちの父母を呼び出して、王宮の雑事を手伝ってほしいと願い出る。すべては夫のレオポルドのためだと潔く伝えると、彼らは重い腰を上げてくれた。

「王子のためなら仕方ない」

「ルイ様には恩がある」

 子どもたちを養うことで得た交流が、レオポルドを支える力となる。ルイは貴族への感謝を忘れず、また後日お礼をしたいという旨の伝書を飛ばしまくった。

 さて貴族や従者が庶務にあたってくれるようになると、レオポルドの手が空くことになる。当然、この余暇でたらたら休むような彼ではない。いつだって何かをしていなければ落ち着かない彼は、もっぱら鍛錬をして時間を過ごすようになる。

「ルイ、模擬戦に付き合ってくれ」

 ちょうどルイの日課が終わるころに、絶妙な流れで顔を出してくる。レオポルドの特訓には、妻側は必ずといっていいほど呼ばれている。剣術や棒術の相手としてではなく、あくまで助言や戦術を話し合うため。「客観的な意見がほしい」というレオポルドの意向によるものだ。

「俺も騎士として大会に出られるぞ」

 レオポルドの嬉しそうな顔を見れば、手放しで支えたくなってしまう。18歳のみなぎる彼。いっさい仕事などせず、決闘大会のことだけに集中してほしいと言ってやりたいぐらいだった。
 ルイはひとまず、自分よりも実戦経験のあるベテランをかき集めた。のべ60人の王宮の手練れを、王子の練習相手として召し出す。またロイド王子の臣下たちにも接近し、夫の技能を引き上げてほしいと求めた。実費はすべてルイの嫁入りの金を注ぎ込んだので誰にも文句は言わせない。

「臣下が一人もいない王子」

 そうやって呼ばれていた第三王子の周りには、いつしか多くの人間が行き来するようになっていた。

「レオ様には圧倒的に経験が足りていませんから。だからもっと多くの人の支えが必要だと思うんです」

「俺だけでは心許ないって?」

「そうです。レオ様が兄君たちを超える時は、彼らにないものを勝ち得た時でしょう」

 剣を振るいながら、ほのかに笑う。レオポルドの汗ばんだ顔が夕暮れに照り輝いていた。庭を埋め尽くす人だかりで、それでも目に映るのは彼のみである。

「俺にはルイがいるんだ」

 熱情を込めて、さも当たり前のように告げてくる。

「だから負けないさ」

「まったく、油断はいけませんよ」

「俺たちなら無敵だ」

 根拠のない言葉が、これほど力強い説得力を持つなんて。彼以外に言っていたら笑ってしまうような文言であろう。ルイは、レオポルドに心酔する気分で、月日を刻むように過ごしていく。あらゆる物事が軌道にのり始めている。
 充実した毎日。近づいてくる大会の日まで、力を出し惜しみするつもりはない。
 レオポルドが兄王子と揉め事を起こしたのは、そんな普段通りの日々でのことであった。

~~~~~

下書きからわずかに加筆しています。52~55話は編集(手直し)が増えるかと思います、ご了承ください
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

処理中です...