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46君が手に届く➀
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会場にはそれから数刻は居続けた。アランを初めとした、数多くの学友との再会に、王子は心踊らせている。
その間でも彼が妻であるルイのもとから離れることはなかった。
(あちらで皆と談笑すればいいのに)
晩さん会の末席に座っていたルイは、隣で頑なに動かない夫の姿を見て、そう思った。
気の良い仲間たちが通りかかると、楽しそうにしゃべる王子の顔は幸せそうだ。横顔だけでそれがわかる。やれ「これからの進路」とか「結婚相手」といった話題が彼らから挙がっていく。そのたびに、ルイは耳を敏感に反応せざるを得なかった。
若者の本音。自分の知らないレオポルドの姿。6年間の成長の一部分をかき集めたようで、傾聴している時間は有意義なものだった。若者らしい勢いとノリがあることが新鮮だった。
「来月はどこに狩りに行こうか。レオポルドが行き先を決めてくれていいぜ」
「そうだなぁ。今度はもっと山林に入ってみるか」
「内地のあいつらも呼ぼう。人数が多ければ盛り上がるだろう」
「うん。大所帯で行ってみても、ずいぶん楽しそうだ」
友人との掛け合いが、青臭い風景を想わせる。活発で知的なことである。
狩りや学芸会について、昨今の政治の話ものぼっていく。内でも外でも関係がないのか、レオポルドと学友の会話は多種多様で飽きることがない。
「あの……ルイ殿下ですよね?」
そのようにルイに気さくに声をかけてくる人もいた。絡んでくるのはすべて女性で、男性はアラン以外に気配すらない。レオポルドの目配りがあるのだからそれも当然かもしれないが。
「わたくし大好きなんです……。湖畔で子どもたちを集めて、青空教室!!とてもお美しいことをしてらっしゃいますよね」
「美しいなんてとんでもない。ただ暇を持て余して、なんとなく始めてみたに過ぎないのですから」
「およそ4年間。休まずほぼ毎日の授業をなさっていると聞きます。そんな胆力をわたくしも見習いたいですわ」
淑女の目の輝きに、ルイは恐縮した。幼いレオポルドを忘れないようにと思い立って始めた趣味だから、褒められるとひどく恥ずかしい。
「ルイ殿下は、レオポルドにはもったいなき御人ですわ」
「どういうところで貴女はそう思ったのですか?」
何人かはそのように言葉を漏らすことがあった。彼女らも王子と親しいらしく、彼についての物言いがはっきりとしていた。
「レオポルドは恋愛や人脈よりも、自らの肉体づくりに精を尽くしますでしょう?それは宮殿でも同じなのではないですか?」
「う~ん、確かに?」
わかるようでわからない。ルイは思い返してみれば、レオポルドがひたすら鍛えていたり、鍛錬している様子を見たことがない。王宮のどこかで励んでいるのであろうが、夫婦でそれを共有したことは一度もなかった。
「面白みがないのですよ、あの男は」
女性は隣に聞こえないように、わざとらしく耳打ちしてくる。
なんだか心にチクりと棘が刺さった気分だったが、ルイは黙っておくことにした。気の置ける仲間からはそのように認められているのだと解釈が進む。それだけでルイの心は満足だった。
その間でも彼が妻であるルイのもとから離れることはなかった。
(あちらで皆と談笑すればいいのに)
晩さん会の末席に座っていたルイは、隣で頑なに動かない夫の姿を見て、そう思った。
気の良い仲間たちが通りかかると、楽しそうにしゃべる王子の顔は幸せそうだ。横顔だけでそれがわかる。やれ「これからの進路」とか「結婚相手」といった話題が彼らから挙がっていく。そのたびに、ルイは耳を敏感に反応せざるを得なかった。
若者の本音。自分の知らないレオポルドの姿。6年間の成長の一部分をかき集めたようで、傾聴している時間は有意義なものだった。若者らしい勢いとノリがあることが新鮮だった。
「来月はどこに狩りに行こうか。レオポルドが行き先を決めてくれていいぜ」
「そうだなぁ。今度はもっと山林に入ってみるか」
「内地のあいつらも呼ぼう。人数が多ければ盛り上がるだろう」
「うん。大所帯で行ってみても、ずいぶん楽しそうだ」
友人との掛け合いが、青臭い風景を想わせる。活発で知的なことである。
狩りや学芸会について、昨今の政治の話ものぼっていく。内でも外でも関係がないのか、レオポルドと学友の会話は多種多様で飽きることがない。
「あの……ルイ殿下ですよね?」
そのようにルイに気さくに声をかけてくる人もいた。絡んでくるのはすべて女性で、男性はアラン以外に気配すらない。レオポルドの目配りがあるのだからそれも当然かもしれないが。
「わたくし大好きなんです……。湖畔で子どもたちを集めて、青空教室!!とてもお美しいことをしてらっしゃいますよね」
「美しいなんてとんでもない。ただ暇を持て余して、なんとなく始めてみたに過ぎないのですから」
「およそ4年間。休まずほぼ毎日の授業をなさっていると聞きます。そんな胆力をわたくしも見習いたいですわ」
淑女の目の輝きに、ルイは恐縮した。幼いレオポルドを忘れないようにと思い立って始めた趣味だから、褒められるとひどく恥ずかしい。
「ルイ殿下は、レオポルドにはもったいなき御人ですわ」
「どういうところで貴女はそう思ったのですか?」
何人かはそのように言葉を漏らすことがあった。彼女らも王子と親しいらしく、彼についての物言いがはっきりとしていた。
「レオポルドは恋愛や人脈よりも、自らの肉体づくりに精を尽くしますでしょう?それは宮殿でも同じなのではないですか?」
「う~ん、確かに?」
わかるようでわからない。ルイは思い返してみれば、レオポルドがひたすら鍛えていたり、鍛錬している様子を見たことがない。王宮のどこかで励んでいるのであろうが、夫婦でそれを共有したことは一度もなかった。
「面白みがないのですよ、あの男は」
女性は隣に聞こえないように、わざとらしく耳打ちしてくる。
なんだか心にチクりと棘が刺さった気分だったが、ルイは黙っておくことにした。気の置ける仲間からはそのように認められているのだと解釈が進む。それだけでルイの心は満足だった。
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