ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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45若さゆえ②

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 困り顔に一面囲まれながら、ルイとレオポルドは会場に舞い戻ってきた。
 異国情緒に包まれたルイを見て、どの面下げて入ってくるのかと疑う者も中にはいた。だがそれらの侮蔑の視線を、気にしている場合ではない。

 祭典は、すでに晩さん会の席の空気が漂ってきている。堅苦しい礼節のころは終わり、タイを緩めても許されようかという時分であった。

「おい、レオポルド!!」

 夫妻の歩みの途上で、大きく明るい男の声がする。兄王子たちかとルイは首を振ったが、彼らの姿はない。かわりに目に入ってきたのは、屈強そうな長身の若者だった。

「アランか?」

「そうだよ。お前、騒ぎの原因はお前だったのか!!はははっ」

 笑いかけながらレオポルドの肩を叩く、黒髪の青年。ルイにとっては初めて見る顔で、彼がどのような立場の人間かは定かでなかった。

「見ない間にずいぶん肌が焼けたな、アラン」

「戦争帰りはみんなこんなもんさ。皮膚を気にしている暇なんか無論無い。王子様こそ、宮殿にいて肉体が鈍っているんじゃないだろうな?」

「まさか。前みたいに、ここで闘ってやってもいいんだぜ」

「やめろやめろ、今日は許嫁も来ているんだ。本気のやつは勘弁してくれ」

 気の知れた仲のようで、互いに冗談が交わされていく。ルイはその様子を見て、自分の独断専行に間違いはなかったと安堵した。「アラン・テューダー」だと軽く王子からは名前だけ紹介がされる。よくわからないが、無礼にならないようにルイは自然体でお辞儀をした。

「おいまさか。そちらの美しい御方は?」

「妻のルイだ。説明はいらないだろ」

 アラン・テューダーと、ルイは名前を反芻していた。名門テューダー家の男性ということになるが、彼がまたとんでもない美丈夫だった。レオポルドには敵わないが背が高く、大人びた顔貌をしている。笑うと口元が甘い雰囲気を添えるので、女子受けのしそうな人だと印象に残る。

「はじめまして、エスペランサの華やかな御仁よ。お噂はよく耳にしています」

「え、ええ。もったいないことですよ」

 紳士らしく足腰を曲げて、恭順を示す。さながら騎士が主にするような礼の仕方に、ルイはたじたじになってしまう。

「アラン・テューダー、レオポルドとは学友です。どうぞよしなにお願いいたします」

「ルイ・シオンと申します。あの……夫がいつもお世話になっています」

 ほとんど使ったことの無い口上のせいで、舌を噛みそうになる。改めてレオポルドを前にして、夫と言いきるのは恥ずかしかった。ルイが目を伏せていると、アランという男はぱっと瞳を輝かせて、高揚感を浮かべた。

 じろじろとルイの全身の隅々を、男は眺めている。

「こりゃあ。あぁ、そうか。なるほどなるほどレオポルドが惚気るのもわかる」

 沈黙していたレオポルドのすさまじい威圧感に、従者一同がぎょっとした。隣で立つ第三王子から、あふれ出る殺気のようなものを感じていたからだ。

「おいアラン。ルイに……少しでも色目を使ったら叩き潰すぞ」

「ちょっとレオポルド様……!!」

 表情が冗談で済まされないほど鋭く尖っている。赤い瞳の色合いが暗くくすみがかって恐ろしい。

「あははっ、忠告がなければ危なかったな。一歩遅ければ口説いてたところだったよ」

「許嫁がいてもその色狂いか……アラン、俺はお前を極めて軽蔑するよ」

「何度も言っているが勘違いするな。俺は素晴らしい恋がしたいだけだ」

「そうか、さっさと妻をもらってこっぴどく怒られてしまえ」

 ただならぬ空気感が突風のように通り過ぎていく。彼らの会話には迫真と緩和が同居している。ひどく若々しさや危うさを、ルイは覚えていた。
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