ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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33清らなり

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 編みこまれた銀糸の髪束、宝玉を垂らした大ぶりの耳飾り。布を結びつなげるのは羊の産毛、祈りと魔除けを込めた3本の金環が腕に通される。
 首にかけられた光り物は世界中から贈られてきた舶来品だという。鉄の指輪も多少高価だが、ルイの身を固めるもののなかだと安く感じられる。

 頭に巻かれた厚手の布には、盛れるだけの刺繍が施されている。植物のツタと花弁の舞い散る様子が、色とりどりに象られ、一族の繁栄を謳う。花鳥風月を好むルイにとっても、申し分のないデザインであった。

 深紅に塗られた唇と、眉のはっきりした濃淡が見る者の情緒を引き立たせる。儚そうな美貌に積み増しされた生命感。精霊を宿していそうな瞳の色、肌の細かさ、まつ毛の長さは人間のものとは思えないほどに優美だった。

 幾重にも折り重ねられた布の重さ。首元から覗くのはエスペランサ家の紋章と、薄く透けた煽情的な下着の陰影。

「お綺麗です……」

 従者がうっかり口に出す。指南役というよりも、初夜を迎える新妻を着飾っている気分。胸のときめきを感じた女官や召使いも感情を隠すことはしない。

「いささか派手すぎませんか?」

「これでも抑えめなほうです。過去の指南役はもっと注文が多いものでしたから」

 新緑色と桜色が織り交ぜられた極上の装い。華美すぎず埋もれすぎず、繊細な色合いは早春の若々しい日差しを想わせる。着ている人が冷たい冬の花弁のような見た目であるから、絶妙な春と冬の塩梅であった。

「いちころです」

「ララ……?」

 侍女のガッツポーズに気づいてしまったルイは、手を動かす人々を訝し気に眺めた。女性たちは達成感に満ちた顔であふれている。まだ儀礼は始まってもいないのに、暢気なことである。

「不具合はございませんか?どこか安定しないところとか」

「重すぎること以外は、まぁ……」

「承知しました。ではこちらにゆっくり来てください」

 ララの手を支えにして、ずりずりと床を擦るようにして歩く。
 先導者がいてくれないと、衣装に足がもつれて倒れそうになってしまう。ぷらぷらと顔の前を振り子のようにアクセサリーが揺れ動く。暑くて重くて、頭の軸が定まらない。脱いでいいのなら喜んで脱ぎ捨てる。高価な小物、宝石の類も投げ捨ててやりたい。

「廊下の先が見えますか?」

 首をゆっくりと回す。女官が指を向けた長い道の彼方に、開けた空間があった。

「儀礼はいつでも、ルイ様があちらに向かわれたらすぐにでも始めることができます」

「レオポルド様は?」

「もうおられますよ。お覚悟を決められたら、先を行きましょう」

 覚悟という言葉に力を込めながら女官が告げてくる。ルイはあまり良い気持ちを感じずに、それでも前を進んでいった。重たい目線の下、靴を脱いで裸足にされたことを今さらに気づく。

 ふぅと息をついた。ルイはこれから起こることに十分な決心をしているつもりだ。夫婦として、年長者として、教え授ける立場としての意志を強く心に宿していく。
 あとはぐらつきに耐えながら、床を踏んでいくだけであった。
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