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24好意の花
しおりを挟む王宮に帰って来てから、レオポルドは実に活動的であった。兄たちの公務を支え、あるいは貴族たちの仕事に積極的に介入していく。
王や王妃が怠慢で、外からの使者が来ても王宮側が動けないことがあった。これをレオポルドが改善しようと、三王子たちでも使者の対応ができるように尽力した。その結果、王国憲法の条文を改めることが全会一致で議決される。
また王へ届けられる文書の内覧(先にあらかじめ見ること)も、三王子が持ち回りで務めることが許された。
まだ成人すらしていない末っ子の王子が、手につくところから制度を次々と変えていく。これが痛快なほどに王宮中に影響を及ぼしていた。
(気づいたらすごいことになってる……)
ルイの身の回りでも、たくさんの変化を見ることができる。いつもの日課をこなしている日中のことであった。自室にあふれ返る、赤青黄緑の花束の飾り。天井までを覆い尽くすほどの花々をレオポルドが用意したとのことだった。
「花の楽園みたいになってる」
「これは……虫がすごいことになりそうですね」
さすがの侍女たちも呆れてしまい、片付けるのが面倒そうだと顔に文字が表れていた。いつも掃除をしてぴかぴかの部屋を保ってくれている彼女からしたら、迷惑この上ないことだろう。
どの花にも意味があるのかもしれないが、ルイは直接確認していくことはしなかった。ぜんぶ追っていたら日が暮れてしまう。というか、こんな量の飾りをいつ取り付けたのであろうか。
「湖畔にいた時にでも取り付けたのでしょうか。それにしても途方もない数の花ですね」
「このまま一日過ごすのは無理かも。目がチカチカする」
せっかく王子が気を利かせて用意してくれたのだろうが、あまりに実用的でない。
卓に花瓶を置くのはまだいい。燭台を置くすき間がないほど、手を広げれば左右に花が満たされている。これは単純に動きづらい。足もとにも花が敷き詰められているのはルイもさすがにどうかと思った。
侍女が邪魔くさそうにしているのがわかり、ルイはすぐに取り外しにかかった。王子が不憫にならないように、いちおう花束の一部は残しておく。花の名前も調べるように従者に命じておき、彼の面目を潰さないように心がけた。
「とんでもない愛情の示し方ですね」
ララは驚きを越えて、恐怖を顔に滲ませながらルイに耳打ちした。
「ルイ様、私はこのような人の気を引くやり方、初めて見ましたよ」
「レオポルド様は昔から意外と不器用なんだよな」
「そういう次元の話ではないと思うのですが……」
「子どもの時の延長だと思えば可愛いものでしょう」
「いや~~」とララは同意しかねるといった口ぶりだった。
ルイは言葉のとおりあまり大したことと考えていなかった。子どもが目についたものを気に入った大人に渡すように、今回は花束の飾りを自分に贈ってくれたのだろうと。
レオポルド本人からの言及は、すぐにはこなかった。花をあれだけ敷き詰めた側はことのほか忙しかった。
侍女たちは訝しんでいたが、ルイだけは次に会ってからお礼を言おうという程度に留め、飄々としていた。「殿下は並々ならない想いがある」というララの意見も取り合わず、ルイは自分の日課にいそしむだけだった。
王宮の表世界では、レオポルドがついに役職を授かったという話で持ちきりだった。なんでも、軍事司令官のガルシア閣下のもとに呼ばれたらしい。司令部が直々に王子へと、補佐官という職位を願い授けたという。
「シオン王国の司令部補佐といったら!!華の騎士様たちのまとめ役でございますよ!!」
「そ、そうなんだ」
侍女たちの食いつき方が過去一番に強い。ルイは職業や位階をよく知らなかったが、彼女たちの興奮ぶりからレオポルドは名誉ある役職につけたのだとわかった。それを知れただけでも、彼に近しい間柄としては嬉しいことだった。
「そんなにすごいんだ」
「はい、これもルイ様が殿下を支えてきた功績でございますね」
この件に関してはルイはほとんど関与していない。だから自分の手柄のように言うことは当たり前だが決してない。ともあれ、これで王子全員が晴れて職持ちとなった。
長男は外務へ、次男は内務、そして三男は軍務の重役筆頭に据えられたことになる。輝かしい出世を果たしている兄弟だなとルイはぼんやり思った。
彼らの躍進の裏には、貴族たちの手助けがあったという。王国の宰相をはじめとした現国王に失望した人が、若き王子の後ろ盾となっていた。
「レオポルド様と接触したガルシア閣下というのは、どのような人物だろう」
「さぁ見当もつきません。王宮では厳格で鬼のように恐ろしい方だと噂がありますが、これも眉唾な話です」
ルイは、レオポルドのこの先を案じていた。世界が大きく広がっていく一方で、意見の異なる相手も増えていくだろう。
彼らとの関係が平和であり続けてほしいと願う。目下のところはルイにはそれしかできなかった。
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