ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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18大人の準備

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 人探しの先、廊下ではレオポルドは母ミランダとすれ違った。ばったり目が合ってしまい、出鼻をくじかれた。レオポルドは内心舌打ちをする思いだった。

 王妃と対面してしまっては、声をかけないわけにはいかない。彼は重苦しそうに口を開いた。

「これは……母上。お久しぶりです」

「あら、ええと。どなただったかしら?」

 冗談なのか。いや、もう長いこと会っていないからそんなものなのか。
 レオポルドは母から好かれていないことは、幼少期から理解していた。自分に無関心で特に何も考えていない。もはやこういうものだと、今は衝撃よりも諦めに似た気持ちが湧いてくる。

「レオポルドです。あなたの三男坊をお忘れですか?」

 できるだけ丁寧に。母を逆撫でしないように気をつける。そうでなければ、どのような辛辣な言葉を吐かれるか予想もつかない。

「あぁレオポルド……、もう帰ってきたのね」

 後ろの従者たちが戦々恐々としている。王妃と息子の会話があらぬ方向へいくのを心配して、青ざめている。主をそうとう恐れている周りの反応がレオポルドにはいけ好かなかった。

「これから人探しに行くところなのです。俺はこれで失礼を」

「ちょっと待ちなさい」

 ぱっと行く手を止めてくる母に驚き、王子の方は受け身の姿勢を作っていた。咄嗟の自分の動きになんとなくたじろいでしまう。昔の癖がいまだに抜けていない。母の暴力から身を守るための、虚しい手癖が、数年経っても身体に沁みついていたのだった。

「あなた。王宮での閨教育はまだでしたね?」

「は、はい?」

「だから閨教育。成人前の通過儀礼でしょう」

 尋ねられたレオポルドも、もちろん存在は知っていた。王族に限らず貴族の令息すらも、婚前には性知識を学ぶのだと。特にシオン家では指南役を立てて、最初から最後までを経験することとなっていた。

「マルクスもロイドもやりました。あと済ませていないのはレオポルドだけでしたね」

 レオポルドは自分には関係のないものだと思っていた。王宮では両親から遠ざけられ、味方が少なかったから。それに第三王子には妻がすでにある。そのような場を設けることは、ふさわしくないことだと気が引けた。

「相手役は誰にしようかしらね。この宮殿では、あなたほどの年齢の女子はいなかったはずだし」

「母上、私はそのようなことは」

 会ってから仏頂面だった母の顔が、心外そうに難色を示した。

「シオン家の男児は必ずこなすものですよ」

 先ほどまで子の存在すら気づけていなかったのに、よくもそう易々と言える。レオポルドは母に向かって怒鳴りそうになった。
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