ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

文字の大きさ
上 下
16 / 62

16長い月日 6年後

しおりを挟む
 季節がはてしなく移っていき、また何度目かの春がせまって来る。
 シオン王国はこの上ない平和のなかにある。豊かな食べ物と潤沢な資源にめぐまれて、国内外の秩序は乱されることがない。

 幸せな民衆。善良な貴族たちと、尊敬できるシオン王家。傍から見ればすべてが揃っていた。
 煙突からの煙がもくもくと上がる民家に、わだちの音を散らす荷馬車。シオンの星をかかげるラッパ隊がリズムを奏でる。シオン軍の騎士が道を横切れば、老若男女が群れのように集まりだす。人里はさらに賑わい湧き上がっていく。

 憧れの騎士様のご尊顔を拝みたいと大勢が狂喜乱舞する。この国では騎士ほどの輝きを放つ職業人も、ほとんどない。


「おう乗るのかい?どこまで行こう?」

「王都にあるシオン王宮前まで頼む」

「もちろんいいが、あの辺は王侯貴族の私有地ですな」

 とある男が乗合馬車に乗りこんできて、行き先を口にする。御者はまじまじと男を見ながら確認をとった。
 平民でも見たらわかる紳士帽を脱ぐと、金糸のような髪があらわになる。生涯でも二度と会えないような上級身分の人物だと直感でうかがえる。

「問題ない。王宮の前ならどこで降ろしてくれてもいい」

「これは……どうも、うちの景気がとんでもなく上がっていきそうだ」

 先から乗っていた乗客は、軽いパニック状態になりながらも一人ぶんのすき間を空けていった。

「ありがとう」

 男の低い声質は、腹の底にまで響いていくかのようだ。長丈のスーツを身にまとった彼は運賃を手渡しつつ、車窓の方に首を傾けた。そしてこの街の何気ない姿を目におさめていく。「ようやく帰れるな」と紳士は小さく呟き、わずかに口角を上げた。

 色濃い紅玉のような瞳。笑うと子どものように、あどけない表情が見え隠れする。
 レオポルド・シオンは約6年ぶりに王都の土を踏もうとしていた。その容姿はただただ煌めくばかりであり、輝きと華やかさは人並みを外れている。強靭な肉体は男らしい無骨さを含み、均一のとれた優れた体躯をあらわしていた。

 17歳だと年齢を告げたら、いったい何人が信じるだろう。王族の力強さや雄々しさをも、若きレオポルドが体現している。
 洗練された貴人の立ち振る舞いは、彼によって完成されていた。

「そら着きましたよ。言われたようにシオン王宮前、ダンテ通りの一番地だ」

「助かった、恩に着るよ」

 ぎゅうぎゅう詰めの馬車から抜けて、レオポルドは道の端に降り立った。
 温い風が懐かしさをのせて、いっぱいの花の匂いを送ってくる。まぶしい太陽のもと、青年は大きな身体を柔軟に伸ばした。

「ついに戻ってきたぞ……」

 念願を叶えたレオポルドは拳を握りしめた。ここまでの年月を思い返してみるだけでも、感無量といった気持ちになる。

「レオポルド殿下~~~~」

「おう。ここだ、ここにいる」

 彼の到着を待ちわびていたように衛兵が続々とやって来る。挨拶の後にいっせいに膝を折りまげ、輝かしい王子の帰還を祝った。

「学校へ迎えの兵を向かわせていたと思いますが、他の者はどうされましたか?」

「荷物を積み込むのに手間取っていたからな。俺だけ先に帰ってきたのだ」

「なんと豪胆な。では先ほどの馬車は民間のものでございましたか」

 我慢できなかったんだと正直に答えると、周りの衛兵は大笑いした。学校からここまで2日はかかるものだ。それを乗り継ぎなしで王子は半日のみで、急行してきたというのだった。どれほど焦っているのかと突っ込みが入ってもおかしくはない。

「では改めてこちらへお乗りください。宮殿までは、どうぞごゆるりと」

「あぁ。ありがとう」

 レオポルドは招かれながら王族用の馬車に乗りこんでいった。光沢で磨きのかかった車体と、雄々しい馬の具合がレオポルドにこれでもかと似合っている。衛兵たちは第三王子の成長ぶりに、一人ずつ感嘆の声を漏らしていった。


 王宮までの短い道のりで、レオポルドはルイからもらった多くの手紙を読み返していた。6年の歳月が過ぎても、自身の妻であり、最高の理解者でもある、美しい彼のことを忘れたことは一瞬たりともない。

 少年時代、ルイが隣で尽くしてくれたことをレオポルドは昨日のことのように思い出せる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...