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10決闘大会①
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「シオン決闘大会」は最も規模の大きな王国の慣行行事である。貴族の力比べはもちろん、若い騎士の死闘とドラマが繰り広げられる男たちの憧れの舞台だった。
王宮前の誉れある闘技場。そこに立てるのは10歳以上の男からで、少年部門、騎士部門、貴族部門の3つから構成された勝ち抜き戦となる。
いちばんの花形はやはり18~29歳の騎士部門で、観戦者が無限のように押し寄せてくる。円形の闘技場を二重にも三重にも覆うような人だかりが、熱気を物語っていた。
ルイは朝早くからこの場を訪れていた。彼が来る前からすでに試合が始まっていて、応援の声が外からでもうるさかった。弾幕のように繰り返される声援には、思いのほか女性の声も多く含まれている。さすがは伝統行事だなと人気ぶりをルイは感心していた。
「おはようございます。ルイ様」
ロイド王子が騎士の鎧をまとって現れた。ガチャガチャと重たそうな鉄の塊は、これから戦いに赴く男子にぴったりであった。
「殿下も参加されるのですね」
「はい。ですがいまだ少年部門なので、絶対に負けるわけにはいきません」
こんなにたくましい鎧をつけているが、そういえば16歳だった。こんなに大きな相手をなぎ倒せる他の子どもがいるだろうかと、ルイは苦笑いした。
「兄も騎士部門に出場しているので、格好悪いところは見せられません」
「マルクス殿下のことですね」
こくりとロイドは頷いた。王子三人が全員そろっているのだと、ルイはこの時点で気づくことができた。王子が言うように、ここは男としての集大成を見せる場でもある。王族として恥ずべき醜態は許されないのだろう。
大歓声のなかでルイは注意深く周りを見ていた。次の試合に出るであろう鎧の男が、女性に何かを手渡しているのがわかる。それをもらった女性の顔は紅潮して、周りの友人にはやし立てられていた。
「あのように自家の紋章を渡すこともあるのです。理由はさまざまですが」
「あぁ……。なるほど」
侍女が先日言っていた、騎士の願いごとの正体があれか。あのように男が恋する相手に紋章入りの刺繍を託して、求愛するのが醍醐味となっているらしい。
「レオポルドからはもらったのですか?」
「いやまさか」
冗談でしょうとルイは笑う。18歳の自分が、10歳の少年に求愛される姿は、まったく想像もつかなかった。
やはり騎士どうしの戦いはすさまじい。
同性のルイすら度肝を抜かれる。1年間、己を鍛え磨いてきた男たちの雄たけびが轟く。血は出ないが、殴打の音や金属音が生々しい。武器で競り合っても倒れない男たちの根比べに、誰もが手に汗握った。
左右からロングソードを突き立てあって、激しい剣幕のうちに勝敗は喫する。素晴らしい戦いを見せてくれた両者に、場内は最大級の賛辞を贈っていった。
「今の試合すごかったな――」
ひらひらと紙のように薄い体のレオポルドが、ルイのもとに駆けてきた。こちらの少年は自信だけは誰よりもある。実戦練習も重ねて、小さな手のひらにまめができるほど。戦いへの備えも万全だ。
「ええ。どちらも一歩も引きませんでした」
「俺もあんなふうに戦ってくる!ぜったいに勝つ!」
「応援していますからね」
「うん。見ててくれ」
レオポルドも兄王子みたいな一回り小さな甲冑を着込んでいる。場内の中心に向かうために、手前の丘をゆっくりと上がっていった。
王宮前の誉れある闘技場。そこに立てるのは10歳以上の男からで、少年部門、騎士部門、貴族部門の3つから構成された勝ち抜き戦となる。
いちばんの花形はやはり18~29歳の騎士部門で、観戦者が無限のように押し寄せてくる。円形の闘技場を二重にも三重にも覆うような人だかりが、熱気を物語っていた。
ルイは朝早くからこの場を訪れていた。彼が来る前からすでに試合が始まっていて、応援の声が外からでもうるさかった。弾幕のように繰り返される声援には、思いのほか女性の声も多く含まれている。さすがは伝統行事だなと人気ぶりをルイは感心していた。
「おはようございます。ルイ様」
ロイド王子が騎士の鎧をまとって現れた。ガチャガチャと重たそうな鉄の塊は、これから戦いに赴く男子にぴったりであった。
「殿下も参加されるのですね」
「はい。ですがいまだ少年部門なので、絶対に負けるわけにはいきません」
こんなにたくましい鎧をつけているが、そういえば16歳だった。こんなに大きな相手をなぎ倒せる他の子どもがいるだろうかと、ルイは苦笑いした。
「兄も騎士部門に出場しているので、格好悪いところは見せられません」
「マルクス殿下のことですね」
こくりとロイドは頷いた。王子三人が全員そろっているのだと、ルイはこの時点で気づくことができた。王子が言うように、ここは男としての集大成を見せる場でもある。王族として恥ずべき醜態は許されないのだろう。
大歓声のなかでルイは注意深く周りを見ていた。次の試合に出るであろう鎧の男が、女性に何かを手渡しているのがわかる。それをもらった女性の顔は紅潮して、周りの友人にはやし立てられていた。
「あのように自家の紋章を渡すこともあるのです。理由はさまざまですが」
「あぁ……。なるほど」
侍女が先日言っていた、騎士の願いごとの正体があれか。あのように男が恋する相手に紋章入りの刺繍を託して、求愛するのが醍醐味となっているらしい。
「レオポルドからはもらったのですか?」
「いやまさか」
冗談でしょうとルイは笑う。18歳の自分が、10歳の少年に求愛される姿は、まったく想像もつかなかった。
やはり騎士どうしの戦いはすさまじい。
同性のルイすら度肝を抜かれる。1年間、己を鍛え磨いてきた男たちの雄たけびが轟く。血は出ないが、殴打の音や金属音が生々しい。武器で競り合っても倒れない男たちの根比べに、誰もが手に汗握った。
左右からロングソードを突き立てあって、激しい剣幕のうちに勝敗は喫する。素晴らしい戦いを見せてくれた両者に、場内は最大級の賛辞を贈っていった。
「今の試合すごかったな――」
ひらひらと紙のように薄い体のレオポルドが、ルイのもとに駆けてきた。こちらの少年は自信だけは誰よりもある。実戦練習も重ねて、小さな手のひらにまめができるほど。戦いへの備えも万全だ。
「ええ。どちらも一歩も引きませんでした」
「俺もあんなふうに戦ってくる!ぜったいに勝つ!」
「応援していますからね」
「うん。見ててくれ」
レオポルドも兄王子みたいな一回り小さな甲冑を着込んでいる。場内の中心に向かうために、手前の丘をゆっくりと上がっていった。
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