ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

文字の大きさ
上 下
10 / 62

10決闘大会①

しおりを挟む
 「シオン決闘大会」は最も規模の大きな王国の慣行行事である。貴族の力比べはもちろん、若い騎士の死闘とドラマが繰り広げられる男たちの憧れの舞台だった。

 王宮前の誉れある闘技場。そこに立てるのは10歳以上の男からで、少年部門、騎士部門、貴族部門の3つから構成された勝ち抜き戦となる。
 いちばんの花形はやはり18~29歳の騎士部門で、観戦者が無限のように押し寄せてくる。円形の闘技場を二重にも三重にも覆うような人だかりが、熱気を物語っていた。

 ルイは朝早くからこの場を訪れていた。彼が来る前からすでに試合が始まっていて、応援の声が外からでもうるさかった。弾幕のように繰り返される声援には、思いのほか女性の声も多く含まれている。さすがは伝統行事だなと人気ぶりをルイは感心していた。

「おはようございます。ルイ様」

 ロイド王子が騎士の鎧をまとって現れた。ガチャガチャと重たそうな鉄の塊は、これから戦いに赴く男子にぴったりであった。

「殿下も参加されるのですね」

「はい。ですがいまだ少年部門なので、絶対に負けるわけにはいきません」

 こんなにたくましい鎧をつけているが、そういえば16歳だった。こんなに大きな相手をなぎ倒せる他の子どもがいるだろうかと、ルイは苦笑いした。

「兄も騎士部門に出場しているので、格好悪いところは見せられません」

「マルクス殿下のことですね」

 こくりとロイドは頷いた。王子三人が全員そろっているのだと、ルイはこの時点で気づくことができた。王子が言うように、ここは男としての集大成を見せる場でもある。王族として恥ずべき醜態は許されないのだろう。


 大歓声のなかでルイは注意深く周りを見ていた。次の試合に出るであろう鎧の男が、女性に何かを手渡しているのがわかる。それをもらった女性の顔は紅潮して、周りの友人にはやし立てられていた。

「あのように自家の紋章を渡すこともあるのです。理由はさまざまですが」

「あぁ……。なるほど」

 侍女が先日言っていた、騎士の願いごとの正体があれか。あのように男が恋する相手に紋章入りの刺繍を託して、求愛するのが醍醐味となっているらしい。

「レオポルドからはもらったのですか?」

「いやまさか」

 冗談でしょうとルイは笑う。18歳の自分が、10歳の少年に求愛される姿は、まったく想像もつかなかった。



 やはり騎士どうしの戦いはすさまじい。
 同性のルイすら度肝を抜かれる。1年間、己を鍛え磨いてきた男たちの雄たけびが轟く。血は出ないが、殴打の音や金属音が生々しい。武器で競り合っても倒れない男たちの根比べに、誰もが手に汗握った。

 左右からロングソードを突き立てあって、激しい剣幕のうちに勝敗は喫する。素晴らしい戦いを見せてくれた両者に、場内は最大級の賛辞を贈っていった。

「今の試合すごかったな――」

 ひらひらと紙のように薄い体のレオポルドが、ルイのもとに駆けてきた。こちらの少年は自信だけは誰よりもある。実戦練習も重ねて、小さな手のひらにまめができるほど。戦いへの備えも万全だ。

「ええ。どちらも一歩も引きませんでした」

「俺もあんなふうに戦ってくる!ぜったいに勝つ!」

「応援していますからね」

「うん。見ててくれ」

 レオポルドも兄王子みたいな一回り小さな甲冑を着込んでいる。場内の中心に向かうために、手前の丘をゆっくりと上がっていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

追放系治癒術師は今日も無能

リラックス@ピロー
BL
「エディ、お前もうパーティ抜けろ」ある夜、幼馴染でパーティを組むイーノックは唐突にそう言った。剣術に優れているわけでも、秀でた魔術が使える訳でもない。治癒術師を名乗っているが、それも実力が伴わない半人前。完全にパーティのお荷物。そんな俺では共に旅が出来るわけも無く。 追放されたその日から、俺の生活は一変した。しかし一人街に降りた先で出会ったのは、かつて俺とイーノックがパーティを組むきっかけとなった冒険者、グレアムだった。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

処理中です...