7 / 62
07さいきょうを目指して②
しおりを挟む
いつからか。
ルイの自室はレオポルドのお気に入りの場所のひとつとなっている。彼は辛い勉強や剣術指南から逃げ出すときの避難先としてここを選んでいる。ちなみに今日は嫌いな家庭教師の授業から逃げ出してきたという。
退屈な日中には、お菓子を求めるように訪ねてくることもあった。
「ちぇ……ルイが俺に授業をしてくれたらいいんだよ」
駄々をこねるように声を上ずらせる。やんちゃで気ままなレオポルドが机に座り続けているところをルイは想像できない。彼ならむしろ、外で自由に見聞を広めてくるほうが性に合っている気がする。
「ねぇ。俺に勉強をおしえてよ。ルイはたくさん文字がよめるって聞いたぞ?」
「私なんてまだまだでございます。シオンに来てまだ3カ月で教えろだなんて、そんな無茶なこと言わないでください」
がっくりと少年は肩を落とした。
王家筋である長男のマルクス王子がよく学ぶ真面目人間だとしたら、次男のロイドは何でもできる秀才。そして目の前の三男レオポルドは天才肌。王宮ではそのように噂されているが、ルイはどうも腑に落ちなかった。
「ううぅ。もっと俺が本をよめるようになるしかないのか……」
レオポルドはご覧のとおり、苦しみながらも懸命に力をつけようともがいている。地道にではあるが課題とひとりで向き合い、努力している。
少なくともこの部屋では、自分のすべきことに取り組む愚直な努力家に見える。
彼には夢があるらしく、「いつか兄上たちを越える!!」と意気揚々と先日も語っていた。どうやら、彼は自分磨きや勉強が本質的に嫌いなわけではなさそうだ。
「ルイ。そろそろ外で遊びたい」
「そしたらお兄様たちのようにはなれませんよ?」
「なんだと」
「マルクス様も、ロイド様も凄まじい努力をなさっているのをご存知でしょう?」
このように発破をかけると少年は燃え上がる。兄たちに追いつけ追い越せと、勝手にやる気で満ちあふれてくれる。
「そうだ!!ぜったいに俺は兄上たちより天才になってやる!!それに力もさいきょうになるんだ。あと兄上たちよりめちゃくちゃデカくなってやるぞ」
椅子の上に立ち、王子は勢いよく言い放つ。決め台詞だけは一丁前である。
まだまだ単純な子ども、と言ってしまえばそれまでだが、素直で可愛らしいなとルイは思った。
彼がどれだけ成長するかルイは心底楽しみだった。「頑張ってください」と言おうとしたけど途中でやめた。それだと他人行儀な台詞な気がしたからだ。これでもレオポルドとルイは夫婦という関係になっているわけで、彼の成長を支えるのは妻の務めであろう。
「…………」
「俺が一番すごいってところをいつかみせてやる!!楽しみにしておけ」
そう言いきってから、レオポルドは山積みになった課題とにらめっこを再開した。わかる問題、わからない問題、彼の表情を見ているだけで必死さが丸わかりだった。
ルイの自室はレオポルドのお気に入りの場所のひとつとなっている。彼は辛い勉強や剣術指南から逃げ出すときの避難先としてここを選んでいる。ちなみに今日は嫌いな家庭教師の授業から逃げ出してきたという。
退屈な日中には、お菓子を求めるように訪ねてくることもあった。
「ちぇ……ルイが俺に授業をしてくれたらいいんだよ」
駄々をこねるように声を上ずらせる。やんちゃで気ままなレオポルドが机に座り続けているところをルイは想像できない。彼ならむしろ、外で自由に見聞を広めてくるほうが性に合っている気がする。
「ねぇ。俺に勉強をおしえてよ。ルイはたくさん文字がよめるって聞いたぞ?」
「私なんてまだまだでございます。シオンに来てまだ3カ月で教えろだなんて、そんな無茶なこと言わないでください」
がっくりと少年は肩を落とした。
王家筋である長男のマルクス王子がよく学ぶ真面目人間だとしたら、次男のロイドは何でもできる秀才。そして目の前の三男レオポルドは天才肌。王宮ではそのように噂されているが、ルイはどうも腑に落ちなかった。
「ううぅ。もっと俺が本をよめるようになるしかないのか……」
レオポルドはご覧のとおり、苦しみながらも懸命に力をつけようともがいている。地道にではあるが課題とひとりで向き合い、努力している。
少なくともこの部屋では、自分のすべきことに取り組む愚直な努力家に見える。
彼には夢があるらしく、「いつか兄上たちを越える!!」と意気揚々と先日も語っていた。どうやら、彼は自分磨きや勉強が本質的に嫌いなわけではなさそうだ。
「ルイ。そろそろ外で遊びたい」
「そしたらお兄様たちのようにはなれませんよ?」
「なんだと」
「マルクス様も、ロイド様も凄まじい努力をなさっているのをご存知でしょう?」
このように発破をかけると少年は燃え上がる。兄たちに追いつけ追い越せと、勝手にやる気で満ちあふれてくれる。
「そうだ!!ぜったいに俺は兄上たちより天才になってやる!!それに力もさいきょうになるんだ。あと兄上たちよりめちゃくちゃデカくなってやるぞ」
椅子の上に立ち、王子は勢いよく言い放つ。決め台詞だけは一丁前である。
まだまだ単純な子ども、と言ってしまえばそれまでだが、素直で可愛らしいなとルイは思った。
彼がどれだけ成長するかルイは心底楽しみだった。「頑張ってください」と言おうとしたけど途中でやめた。それだと他人行儀な台詞な気がしたからだ。これでもレオポルドとルイは夫婦という関係になっているわけで、彼の成長を支えるのは妻の務めであろう。
「…………」
「俺が一番すごいってところをいつかみせてやる!!楽しみにしておけ」
そう言いきってから、レオポルドは山積みになった課題とにらめっこを再開した。わかる問題、わからない問題、彼の表情を見ているだけで必死さが丸わかりだった。
328
お気に入りに追加
721
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる