6 / 62
06さいきょうを目指して①
しおりを挟む
ルイ・エスペランサは故郷ではたぐいまれなる美貌で知られていた。見目麗しい母の顔立ちと、優美な所作は生き写しのよう。
父からは繊細でしたたかな性格を受け継いだ。男らしい部分はわずかに見え隠れするのみだが、それもまた彼の魅力の一部だといえる。玉の肌と、極上の朱に染まったような小ぶりの唇。
エスペランサ家でも珍しい煌めく結晶色の銀髪は、世の男女が焦がれて止まない代物であろう。
「ほんとうに髪の毛が銀いろだ。すごい」
「そんなに見ていたら飽きませんか?」
「ううん全然。やっぱりカッコいい!!」
ルイはシオン王国に来てから、初めて自分の容姿を褒められたことに気づいた。ただその相手は、今年で10歳になるまだ幼気な夫であるが。大人げないと自覚しながらも、目をキラキラにして見つめてこられると悪い気はしない。
「俺も髪のいろが変わったりしないかな」
そう言って自分の髪を触りだすレオポルドに、思わずルイは吹き出してしまった。誰もが羨むような金髪を持っているだろうに、欲張りな王子様だと心の中で毒づいた。
「それで?レオポルド様、今日はどうしてこちらに来られたのですか?」
正午のころ、王宮の奥部屋はひっそりとしている時間帯である。王家の子どもたちには家庭教師がついていて、この時間は学問を習うことをルイは把握済みだ。
「お菓子をたべにきた」
「ご自身の勉強はどうされたのですか?今日は帝王学の先生がいらっしゃる日でしたよね」
もぐもぐと食べ物を咀嚼するレオポルドが、痛いところを突かれたようにひどく嫌そうな顔をした。
「どうしてそのことを」
「口に物をいれながら喋らないでください」
頬を袋のように膨らませるレオポルドの姿は、年相応の可愛らしさがあった。大きな瞳を激しく上下左右に動かす。驚きを無言で表現しているのが伝わってきた。
「また逃げ出してきたのですか」
「俺は先生がきらいなんだ。怒るとこわいんだよ」
「はぁ。怒らせているのはいったい誰なんですか?」
「ば、バッカス兄上とか……かなぁ」
目を泳がせてわざとらしく責任転嫁するレオポルド。王子の従兄の名を借りてまで言い逃れしようとする。その態度だけは見過ごせないと、彼の豊かな頬を、ルイはむにゅと軽くつねった。
「ぜひ改めてください。そうしないとお菓子はもうあげませんよ?」
「ぅえぇーーーー。わ、わかった。頑張って先生となかよくなるから」
「仲良くなるだけじゃなくて、きっちり授業を受けてください」
約束ですよ、と笑顔で念を押すと、少年は勢いよく首を振った。
父からは繊細でしたたかな性格を受け継いだ。男らしい部分はわずかに見え隠れするのみだが、それもまた彼の魅力の一部だといえる。玉の肌と、極上の朱に染まったような小ぶりの唇。
エスペランサ家でも珍しい煌めく結晶色の銀髪は、世の男女が焦がれて止まない代物であろう。
「ほんとうに髪の毛が銀いろだ。すごい」
「そんなに見ていたら飽きませんか?」
「ううん全然。やっぱりカッコいい!!」
ルイはシオン王国に来てから、初めて自分の容姿を褒められたことに気づいた。ただその相手は、今年で10歳になるまだ幼気な夫であるが。大人げないと自覚しながらも、目をキラキラにして見つめてこられると悪い気はしない。
「俺も髪のいろが変わったりしないかな」
そう言って自分の髪を触りだすレオポルドに、思わずルイは吹き出してしまった。誰もが羨むような金髪を持っているだろうに、欲張りな王子様だと心の中で毒づいた。
「それで?レオポルド様、今日はどうしてこちらに来られたのですか?」
正午のころ、王宮の奥部屋はひっそりとしている時間帯である。王家の子どもたちには家庭教師がついていて、この時間は学問を習うことをルイは把握済みだ。
「お菓子をたべにきた」
「ご自身の勉強はどうされたのですか?今日は帝王学の先生がいらっしゃる日でしたよね」
もぐもぐと食べ物を咀嚼するレオポルドが、痛いところを突かれたようにひどく嫌そうな顔をした。
「どうしてそのことを」
「口に物をいれながら喋らないでください」
頬を袋のように膨らませるレオポルドの姿は、年相応の可愛らしさがあった。大きな瞳を激しく上下左右に動かす。驚きを無言で表現しているのが伝わってきた。
「また逃げ出してきたのですか」
「俺は先生がきらいなんだ。怒るとこわいんだよ」
「はぁ。怒らせているのはいったい誰なんですか?」
「ば、バッカス兄上とか……かなぁ」
目を泳がせてわざとらしく責任転嫁するレオポルド。王子の従兄の名を借りてまで言い逃れしようとする。その態度だけは見過ごせないと、彼の豊かな頬を、ルイはむにゅと軽くつねった。
「ぜひ改めてください。そうしないとお菓子はもうあげませんよ?」
「ぅえぇーーーー。わ、わかった。頑張って先生となかよくなるから」
「仲良くなるだけじゃなくて、きっちり授業を受けてください」
約束ですよ、と笑顔で念を押すと、少年は勢いよく首を振った。
332
お気に入りに追加
721
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる