ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

文字の大きさ
上 下
4 / 62

04月夜の宴①

しおりを挟む
 ルイとレオポルド王子の婚礼から半月過ぎた。新たに王族として加えられたルイは、まだ宮殿の色に染まりきることができていない。

 夫妻は別々に暮らしていて、ルイは婚礼の日以降は夫と会っていない。もちろん、王宮のなかでは単独行動が基本となる。侍女たちがいなければ心細くて辛い。

 ここに来てから今日の日まで、祝宴が立て続けに行われている。何をお祝いしているのかは知らされていないが、毎日が酒盛りというのはおめでたいことである。
 婚礼では雑な扱いをされたかと思えば、このような宴には律儀に招いてくれたりする。ルイは静かに暮らしたいと望んでいたが、王族からの誘いとあっては一度は受けておくべきだ。
できるだけ宴席の端のほうにちょこんと座る。目立たないように辺りに視線をやらずに存在感を消す。

「やぁ、これはルイ妃」

 それでも話しかけてくる相手はいる。
 声を掛けてきたのは老年の国王、フェリペ王である。レオポルドの実父だが顔はあまり似ていない。いや、王が老け顔すぎてわからないだけかもしれない。覇気のない老人のような風体であった。

「レオポルドの妃なのに、たしか君は男だったな。それとも実は君は女性なのかな」

「恐れながら、身も心も男でございます」

 こちらの返答に大爆笑する王は、宴でかなり飲み過ぎているらしい。最近は酒と女に現を抜かしているという宮内の噂のとおり。王は俗物であった。

「もったいない‼その美貌で男とは、さぞや両親は長男であったかと嘆かれただろう」

「さぁ、どうでしょう」

「はははっ。いやはや、まぁ飲みたまえ。エスペランサの姫君よ」

 わざとらしく姫などと呼んでくる。人を小馬鹿にしながら王は宴席に戻っていった。新たな仲間のことにはあまり興味がないらしく、ルイとは数回やり取りを重ねただけであった。

 ルイと同じように端でひかえていた王妃からも挨拶がなされた。だがこちらも、彼のことはあまり関心がない様子であった。
 「レオポルドをよろしくね」と声は柔らかいものだったが、こちらに向ける表情は素っ気ない。石ころでも見るかのような冷めた視線に、周りの従者も慌てだす始末である。
 ルイは自分が王や王妃に嫌われていることを雰囲気からわかってしまった。

(予想はしていたけど、やはり歓迎されているはずがない)
 
 他にもレオポルド王子の兄君であるマルクス王子、ロイド王子といった同世代の相手からも、ルイはもてなしを受けた。
 ただ特に長男マルクスからはあらかじめ厳しく釘を刺された。「王宮で変な気は起こすなよ」とか「弟にはあまり近づくな」とか言われる。敵意むき出しの彼にも、ルイは朗らかに受け答えをした。

「レオポルドに変な色目でも使ってみろ、ただでは済まさないからな」

 脅迫めいたことを言われたが、そのような危ないことをする気力はない。そんな趣味も経験も持ち合わせてはいない。まぁ故郷で母にさんざん知識を入れ込まれたが。

 マルクス王子もロイド王子も外見だけならもう立派な大人のように見える。年齢はわからないが、弟のレオポルド王子があれだけ幼いため、大事に思っているのだろう。

「ご忠告ありがとうございます」

 笑顔を絶やさずに、王族からの攻撃をすべて回避していく。ルイは早々に宴の席から抜け出したかった。面倒な人たちとの交流は、これ以上は気持ちが耐えられない。自分の心が擦り切れる前に気分転換に出かけたくなる。


 幸いなことに外は静かで、鳥の声が響くほど穏やかな月夜であった。王宮のちょうど真裏には、張りつくように天然の湖が広がっている。知る人ぞ知る憩いの場として有名だ。
王宮暮らしのなかで発見したルイも、この湖畔を頻繁に訪れていた。

「ここだけはいいな」

 湖は暗闇に満ちていた。
 虫の羽音と、植物が風に揺らされる音。
 水のせせらぎが耳にこもると心が洗われる。自然のなかで悦に浸りながら、片手間で自分の至らない点を考えてみた。人間関係を良好にできないのはどうしてか。どのように人と接していくべきか。

 父と母から授けられた助言を思い起こしてみるが、今はそれらがまるで役に立っていない。やはり実際には難儀なことばかりで、言葉にできるほど単純なことではない。

「息が詰まるなぁ」

 やるせなさにため息が漏れていく。弱音をはいた途端、近くの木々からガサガサとかすかな物音がした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで
BL
 パンダ族の白露は成人を迎え、生まれ育った里を出た。白露は里で唯一のオメガだ。将来は父や母のように、のんびりとした生活を営めるアルファと結ばれたいと思っていたのに、実は白露は皇帝の番だったらしい。  美味しい笹の葉を分けあって二人で食べるような、鳥を見つけて一緒に眺めて楽しむような、そんな穏やかな時を、激務に追われる皇帝と共に過ごすことはできるのか?   さらに白露には、発情期が来たことがないという悩みもあって……理想の番関係に向かって奮闘する物語。

処理中です...