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ヒミツの恋人【第二部】
10.自分の気持ち
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ことの顛末を話すと、紺野君は「ひゃはははは」と遠慮なく笑った。
紺野君に比べれば少しは思いやりのある佐倉君は、苦笑、という感じに留めてくれている。
相当我慢してるようには見えるけど。
金曜の夜の居酒屋はかなり混んでいて、テーブルのあちらこちらで笑い声があがっていた。
周囲の雑音に負けないように、佐倉君が大声で言った。
「大変だったな、四ノ宮」
「ホント、情けないよ。強姦魔に間違えられるなんてさ」
「加藤も相当、焦ったんだろ。自分の目の前で、おまえが女の子とホテルに入っちゃって」
「最初一人で追いかけて入ったらしいんだよ。で、ホテルのフロントで騒いで警察呼ばれたんだって。そこで、無理矢理、連れ込まれた人を見た、みたいなことを言ったものだから、女の人が連れ込まれたって勘違いされたみたい」
あの日以来、オレは陸とは絶交している。
なんて言って怒りをぶつけたらいいのかわからないので、口を利かないことに決めたのだ。
困った陸は紺野君と佐倉君に泣きついたらしく、オレは二人に呼び出されて、渋々喧嘩の原因を話した。
「で、どうすんだよ、おまえ。加藤のこと、許さないつもりか」
焼き鳥を咀嚼しながら、紺野君が聞く。
たいして興味ないみたいで、オレの返事を聞くまえに、通りかかった店員さんにビールの追加を注文してる。
「ホントはまだ怒ってるけど、でも、いい加減、陸の暗い顔を見るのもうんざりだから、そろそろ許そうかなとは思ってるよ」
オレが聞かれたことに真面目に答えてるのに、紺野君は佐倉君にダイコンのジャコサラダを取り分けながら「トモ、ちゃんと野菜も食べないとダメだよ」とかなんとか言ってる。
オレの話なんて、聞いてもない。
それにしても、紺野君の目尻を下げて口許をだらしなく弛めた顔は、いくらハンサムでも見る影もない。
いや、なまじ整った顔だからこそ、こんなデレデレした顔は見たくないものだ。
まあ、見ようによっては幸せそうな、羨ましい顔と言えるのかも知れないけど。
「今回のことはともかく、おまえ大丈夫なのか。なんか、悩んでたんだろ」
佐倉君がダイコンサラダを食べながら、言った。
「加藤がオモチャにすぐ飽きるとかって」
「おまえ、そんなの普通だよ。なに悩んでんの。トモから聞いたけど、ミニカーだの合体ロボだの、カードゲームだのに夢中になるのは、男なら誰でもそういう時期あるだろ。おまえは違うの?」
「オレは違う。オレはね、ずーと、オモチャはレゴブロック一筋だったからね。他のものには目もくれなかった。それに、今だにレゴブロックは大事にしてるから」
「マジでー?!城とか船とか作ってたんだ」
紺野君と佐倉君は二人で似たような顔で大笑いした。
笑われるようなことは言ってないのに。
「ねえねえ、トモは?」
散々オレのことを笑ったあとで、紺野君はまた眦を下げながらデレデレと佐倉君に話を振った。
「オレはオモチャとかではあんまり遊ばなかったなあ。子供の頃は外で野球したり、サッカーしたりしてた」
「トモはそういうのが似合いそうだよなあ。外走り回って日焼けして、膝小僧なんかにいつも絆創膏はってて」
何が嬉しいんだか、紺野君はニヤニヤ笑ってる。
きっと頭の中で、佐倉君の少年時代を妄想して楽しんでいるんだろう。
変態だ、この人。
ひとしきり子供の頃の遊び方で盛り上がったあとで、紺野君が言った。
「加藤はさあ、ああいう性格だからいい加減に見えるかもしれないけど、四ノ宮のことは結構真剣に考えてると、オレは思うよ」
珍しく紺野君が陸を庇うようなことを言うので、オレも佐倉君も驚いた。
「おまえ、なにその発言。根拠は」
佐倉君が聞いた。
「だってあいつ、頑張ってたろ?本買ったり、ネットで調べたり、オレにも聞きに来たりしてたぜ」
「頑張ってたって、なにを」
「だから、アレだよ、アレ。セックス」
オレと佐倉君は口を開けて固まった。
「どうやったら、男同士でも気持ち良くなれるのかって、真剣に聞きに来たことあったよ。相手が、ってまあ、四ノ宮のことなんだろうけど、痛がってるって悩んでてさあ、ま、オレは親切だから、いろいろ教えてやったけどね。オレって、そっちのテクは天性のものだから。才能あるから」
紺野君の自信満々の言い様に、「そうなの?」って目で佐倉君を見ると、佐倉君はそっぽを向いて「自分はなにも聞いてません、聞こえてません」って振りで一心不乱に串揚げの付け合わせのキャベツを、手掴みで食べていた。
「確かに…陸は、上手くなったよ。だけど、オレはそんなことを上手くなって欲しいわけじゃないんだ」
「何言ってんの、おまえ。そんなことって言うけど、大事なことだぜ。いくら愛しあっていても、身体の相性が合わなかったら、恋愛は難しいんだぞ。その点、オレとトモは最高の相性…痛っ!トモ、トモ、竹串がオレの手の甲にささってるよっ?」
「あー?悪い悪い、キャベツと間違えた」
「いや、だから、キャベツじゃないからね、それ。オレの手!だから」
「あー?悪い悪い、コンタクト外してんだった」
目の前でイチャつきだした二人に、やってられないと溜息が洩れる。
オレはどうしたら、この先輩たちみたいになれるんだろう。
本当はわかってるけど。
陸を好きだって気持ちを自分自身に認めて、ちゃんと、それを陸にも伝えればいいだけのことなんだ。
陸がいつかこの恋に飽きて離れてしまうって心配をすることを、逃げ道にしていたのは多分、オレなんだ。
問題は陸の気持ちじゃない。オレの気持ち。
陸を好きだって言う紛れもない、自分の気持ち。
紺野君に比べれば少しは思いやりのある佐倉君は、苦笑、という感じに留めてくれている。
相当我慢してるようには見えるけど。
金曜の夜の居酒屋はかなり混んでいて、テーブルのあちらこちらで笑い声があがっていた。
周囲の雑音に負けないように、佐倉君が大声で言った。
「大変だったな、四ノ宮」
「ホント、情けないよ。強姦魔に間違えられるなんてさ」
「加藤も相当、焦ったんだろ。自分の目の前で、おまえが女の子とホテルに入っちゃって」
「最初一人で追いかけて入ったらしいんだよ。で、ホテルのフロントで騒いで警察呼ばれたんだって。そこで、無理矢理、連れ込まれた人を見た、みたいなことを言ったものだから、女の人が連れ込まれたって勘違いされたみたい」
あの日以来、オレは陸とは絶交している。
なんて言って怒りをぶつけたらいいのかわからないので、口を利かないことに決めたのだ。
困った陸は紺野君と佐倉君に泣きついたらしく、オレは二人に呼び出されて、渋々喧嘩の原因を話した。
「で、どうすんだよ、おまえ。加藤のこと、許さないつもりか」
焼き鳥を咀嚼しながら、紺野君が聞く。
たいして興味ないみたいで、オレの返事を聞くまえに、通りかかった店員さんにビールの追加を注文してる。
「ホントはまだ怒ってるけど、でも、いい加減、陸の暗い顔を見るのもうんざりだから、そろそろ許そうかなとは思ってるよ」
オレが聞かれたことに真面目に答えてるのに、紺野君は佐倉君にダイコンのジャコサラダを取り分けながら「トモ、ちゃんと野菜も食べないとダメだよ」とかなんとか言ってる。
オレの話なんて、聞いてもない。
それにしても、紺野君の目尻を下げて口許をだらしなく弛めた顔は、いくらハンサムでも見る影もない。
いや、なまじ整った顔だからこそ、こんなデレデレした顔は見たくないものだ。
まあ、見ようによっては幸せそうな、羨ましい顔と言えるのかも知れないけど。
「今回のことはともかく、おまえ大丈夫なのか。なんか、悩んでたんだろ」
佐倉君がダイコンサラダを食べながら、言った。
「加藤がオモチャにすぐ飽きるとかって」
「おまえ、そんなの普通だよ。なに悩んでんの。トモから聞いたけど、ミニカーだの合体ロボだの、カードゲームだのに夢中になるのは、男なら誰でもそういう時期あるだろ。おまえは違うの?」
「オレは違う。オレはね、ずーと、オモチャはレゴブロック一筋だったからね。他のものには目もくれなかった。それに、今だにレゴブロックは大事にしてるから」
「マジでー?!城とか船とか作ってたんだ」
紺野君と佐倉君は二人で似たような顔で大笑いした。
笑われるようなことは言ってないのに。
「ねえねえ、トモは?」
散々オレのことを笑ったあとで、紺野君はまた眦を下げながらデレデレと佐倉君に話を振った。
「オレはオモチャとかではあんまり遊ばなかったなあ。子供の頃は外で野球したり、サッカーしたりしてた」
「トモはそういうのが似合いそうだよなあ。外走り回って日焼けして、膝小僧なんかにいつも絆創膏はってて」
何が嬉しいんだか、紺野君はニヤニヤ笑ってる。
きっと頭の中で、佐倉君の少年時代を妄想して楽しんでいるんだろう。
変態だ、この人。
ひとしきり子供の頃の遊び方で盛り上がったあとで、紺野君が言った。
「加藤はさあ、ああいう性格だからいい加減に見えるかもしれないけど、四ノ宮のことは結構真剣に考えてると、オレは思うよ」
珍しく紺野君が陸を庇うようなことを言うので、オレも佐倉君も驚いた。
「おまえ、なにその発言。根拠は」
佐倉君が聞いた。
「だってあいつ、頑張ってたろ?本買ったり、ネットで調べたり、オレにも聞きに来たりしてたぜ」
「頑張ってたって、なにを」
「だから、アレだよ、アレ。セックス」
オレと佐倉君は口を開けて固まった。
「どうやったら、男同士でも気持ち良くなれるのかって、真剣に聞きに来たことあったよ。相手が、ってまあ、四ノ宮のことなんだろうけど、痛がってるって悩んでてさあ、ま、オレは親切だから、いろいろ教えてやったけどね。オレって、そっちのテクは天性のものだから。才能あるから」
紺野君の自信満々の言い様に、「そうなの?」って目で佐倉君を見ると、佐倉君はそっぽを向いて「自分はなにも聞いてません、聞こえてません」って振りで一心不乱に串揚げの付け合わせのキャベツを、手掴みで食べていた。
「確かに…陸は、上手くなったよ。だけど、オレはそんなことを上手くなって欲しいわけじゃないんだ」
「何言ってんの、おまえ。そんなことって言うけど、大事なことだぜ。いくら愛しあっていても、身体の相性が合わなかったら、恋愛は難しいんだぞ。その点、オレとトモは最高の相性…痛っ!トモ、トモ、竹串がオレの手の甲にささってるよっ?」
「あー?悪い悪い、キャベツと間違えた」
「いや、だから、キャベツじゃないからね、それ。オレの手!だから」
「あー?悪い悪い、コンタクト外してんだった」
目の前でイチャつきだした二人に、やってられないと溜息が洩れる。
オレはどうしたら、この先輩たちみたいになれるんだろう。
本当はわかってるけど。
陸を好きだって気持ちを自分自身に認めて、ちゃんと、それを陸にも伝えればいいだけのことなんだ。
陸がいつかこの恋に飽きて離れてしまうって心配をすることを、逃げ道にしていたのは多分、オレなんだ。
問題は陸の気持ちじゃない。オレの気持ち。
陸を好きだって言う紛れもない、自分の気持ち。
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