カラダの恋人

フジキフジコ

文字の大きさ
上 下
90 / 91
ヒミツの恋人【第二部】

10.自分の気持ち

しおりを挟む
ことの顛末を話すと、紺野君は「ひゃはははは」と遠慮なく笑った。
紺野君に比べれば少しは思いやりのある佐倉君は、苦笑、という感じに留めてくれている。
相当我慢してるようには見えるけど。

金曜の夜の居酒屋はかなり混んでいて、テーブルのあちらこちらで笑い声があがっていた。
周囲の雑音に負けないように、佐倉君が大声で言った。
「大変だったな、四ノ宮」
「ホント、情けないよ。強姦魔に間違えられるなんてさ」
「加藤も相当、焦ったんだろ。自分の目の前で、おまえが女の子とホテルに入っちゃって」
「最初一人で追いかけて入ったらしいんだよ。で、ホテルのフロントで騒いで警察呼ばれたんだって。そこで、無理矢理、連れ込まれた人を見た、みたいなことを言ったものだから、女の人が連れ込まれたって勘違いされたみたい」
あの日以来、オレは陸とは絶交している。
なんて言って怒りをぶつけたらいいのかわからないので、口を利かないことに決めたのだ。
困った陸は紺野君と佐倉君に泣きついたらしく、オレは二人に呼び出されて、渋々喧嘩の原因を話した。

「で、どうすんだよ、おまえ。加藤のこと、許さないつもりか」
焼き鳥を咀嚼しながら、紺野君が聞く。
たいして興味ないみたいで、オレの返事を聞くまえに、通りかかった店員さんにビールの追加を注文してる。
「ホントはまだ怒ってるけど、でも、いい加減、陸の暗い顔を見るのもうんざりだから、そろそろ許そうかなとは思ってるよ」

オレが聞かれたことに真面目に答えてるのに、紺野君は佐倉君にダイコンのジャコサラダを取り分けながら「トモ、ちゃんと野菜も食べないとダメだよ」とかなんとか言ってる。
オレの話なんて、聞いてもない。
それにしても、紺野君の目尻を下げて口許をだらしなく弛めた顔は、いくらハンサムでも見る影もない。
いや、なまじ整った顔だからこそ、こんなデレデレした顔は見たくないものだ。
まあ、見ようによっては幸せそうな、羨ましい顔と言えるのかも知れないけど。

「今回のことはともかく、おまえ大丈夫なのか。なんか、悩んでたんだろ」
佐倉君がダイコンサラダを食べながら、言った。
「加藤がオモチャにすぐ飽きるとかって」
「おまえ、そんなの普通だよ。なに悩んでんの。トモから聞いたけど、ミニカーだの合体ロボだの、カードゲームだのに夢中になるのは、男なら誰でもそういう時期あるだろ。おまえは違うの?」
「オレは違う。オレはね、ずーと、オモチャはレゴブロック一筋だったからね。他のものには目もくれなかった。それに、今だにレゴブロックは大事にしてるから」
「マジでー?!城とか船とか作ってたんだ」
紺野君と佐倉君は二人で似たような顔で大笑いした。
笑われるようなことは言ってないのに。

「ねえねえ、トモは?」
散々オレのことを笑ったあとで、紺野君はまた眦を下げながらデレデレと佐倉君に話を振った。
「オレはオモチャとかではあんまり遊ばなかったなあ。子供の頃は外で野球したり、サッカーしたりしてた」
「トモはそういうのが似合いそうだよなあ。外走り回って日焼けして、膝小僧なんかにいつも絆創膏はってて」
何が嬉しいんだか、紺野君はニヤニヤ笑ってる。
きっと頭の中で、佐倉君の少年時代を妄想して楽しんでいるんだろう。
変態だ、この人。

ひとしきり子供の頃の遊び方で盛り上がったあとで、紺野君が言った。
「加藤はさあ、ああいう性格だからいい加減に見えるかもしれないけど、四ノ宮のことは結構真剣に考えてると、オレは思うよ」
珍しく紺野君が陸を庇うようなことを言うので、オレも佐倉君も驚いた。
「おまえ、なにその発言。根拠は」
佐倉君が聞いた。
「だってあいつ、頑張ってたろ?本買ったり、ネットで調べたり、オレにも聞きに来たりしてたぜ」
「頑張ってたって、なにを」
「だから、アレだよ、アレ。セックス」
オレと佐倉君は口を開けて固まった。
「どうやったら、男同士でも気持ち良くなれるのかって、真剣に聞きに来たことあったよ。相手が、ってまあ、四ノ宮のことなんだろうけど、痛がってるって悩んでてさあ、ま、オレは親切だから、いろいろ教えてやったけどね。オレって、そっちのテクは天性のものだから。才能あるから」
紺野君の自信満々の言い様に、「そうなの?」って目で佐倉君を見ると、佐倉君はそっぽを向いて「自分はなにも聞いてません、聞こえてません」って振りで一心不乱に串揚げの付け合わせのキャベツを、手掴みで食べていた。

「確かに…陸は、上手くなったよ。だけど、オレはそんなことを上手くなって欲しいわけじゃないんだ」
「何言ってんの、おまえ。そんなことって言うけど、大事なことだぜ。いくら愛しあっていても、身体の相性が合わなかったら、恋愛は難しいんだぞ。その点、オレとトモは最高の相性…痛っ!トモ、トモ、竹串がオレの手の甲にささってるよっ?」
「あー?悪い悪い、キャベツと間違えた」
「いや、だから、キャベツじゃないからね、それ。オレの手!だから」
「あー?悪い悪い、コンタクト外してんだった」

目の前でイチャつきだした二人に、やってられないと溜息が洩れる。
オレはどうしたら、この先輩たちみたいになれるんだろう。
本当はわかってるけど。
陸を好きだって気持ちを自分自身に認めて、ちゃんと、それを陸にも伝えればいいだけのことなんだ。
陸がいつかこの恋に飽きて離れてしまうって心配をすることを、逃げ道にしていたのは多分、オレなんだ。
問題は陸の気持ちじゃない。オレの気持ち。
陸を好きだって言う紛れもない、自分の気持ち。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...