カラダの恋人

フジキフジコ

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ヒミツの恋人【第一部】

19.敗北宣言

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滝沢は毒気を抜かれ戦意を失ったのか、反論出来ないようだ。
いくら優秀でも、年の功には勝てないもんだな、とオレは感心した。

「ところで滝沢、オレのトモを危ない目に合わせてくれたことの御礼はさせてもらうからな」
「え?」
オレも「え?」だ。
「こいつと組んで、トモをあのヤリ部屋に行くように嵌めたのおまえだろ。よく考えたら、このメモ、トモの字じゃねえし。オレがあの部屋に行くようにおまえが新聞受けから部屋の中に落としたんだな」
紺野は「こいつ」と言うときに松浦の方を一睨みした。
それからジーンズのポケットからメモを出して言った。
確かに紺野が手に持っているメモはオレが書いたものとは違う。
だいいちオレはタクシーの中でメモを見ながら住所を言った。つまり、部屋には置いてこなかった。

「御礼って」
控えめに、滝沢が聞く。
「そうだなあ、おまえは図太そうだから、攻撃のしがいがないし。オレの大事なものを傷つけられそうになったからには、おまえの大事なものにちょっかいだしちゃおうかな」
「まさか!高井になんかするつもりかよ?!教師のくせに生徒脅すのか?」
「へえ、一番大事なのは高井君か。いいこと聞いちゃった」
紺野の誘導にまんまとハメられたことを察して、滝沢が悔しそうに唇を噛む。
「まさか…高井を襲ったりするんじゃ…」

冷静になれ、滝沢。
そう簡単に男が男を襲えるもんか。
しかも残念ながら高井はおまえが考えているようなやわなお姫さまじゃあ、ない。
サッカーで鍛えた脚力で蹴られたら、紺野の方が重症だ。
しかし恋する男子には、そのへんのリアルが理解出来ないらしい。
滝沢は目に見えてうろたえはじめた。

「襲う?そんな不細工なことはしねえよ。おまえの高井ちゃんを、誘惑してやる。オレは今まで、男でも女でも狙ったヤツを落とせなかったこと、ないんだぜ」
アホか。
そんな言葉が脅しになるわけがない。

と思ったのに、滝沢はうな垂れて「すみませんでした」と紺野に謝った。
「もう、佐倉先生を困らせるようなことはしません。だから、高井には手を出さないでください」

なぜ?!
よくわからない急展開におろおろしているオレに構わず、紺野が、
「わかったから、おまえら二人ともとっとと帰れ。オレはトモと大人の話があるんだから」
と宣言して、強引に幕を引いた。


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