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ヒミツの恋人【第一部】
17.本気
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「…あの」
不意に、声をかけられて、オレと紺野は同時に顔を声の方向に向けた。
オレの部屋の布団に寝かせておいた松浦が、開いた襖の間に立っていた。
「……オレ、帰ります」
「ちょ、ちょっと待てよ、松浦。おまえ、大丈夫か、身体?フラフラだったぞ」
「はあ、なんか、頭が痛いし、気持ち悪いですけど。なんでだろ」
「なんでって。まあ、いいから座れよ。おまえには聞きたいこともある」
オレは素早く紺野から離れて松浦のところに駆け寄り、松浦をダイニングテーブルの椅子に腰掛けさせた。
「紺野、なんか飲み物作ってやって」
紺野は深いため息を吐いて「へいへい」と返事をした。
「だいたい、おまえなんであんなとこにいたんだ?ん?」
オレは松浦の隣に腰掛けて、教師の口調で聞いた。
「二丁目の店で知り合って…」
「知り合ったって、あの二人に?」
松浦はコクンと頷く。
「その…言いずらかったら別にいいけど、あそこ、会員制だって言ってたけど、つまりその、おまえも会員なのか」
再び松浦はコクンと頷いた。
最近の高校生はすすんでる。
オレはあの部屋で繰り広げられていた行為を思い出して、思わず、ため息を吐いた。
「おまえ、あんなことがしたかったのか?松浦」
同じ性癖の人間だけで集まって、四角い箱の中で淫らだけど安全な快楽に耽る。
あそこでは、誰からも咎められず、どんな欲求も受け止めてもらえる。
一見、気持ちのいい空間のようにも思えるけど、オレには、虐げられて他に生き場所のない者達がお互いを慰めあっているだけのような気がする。
「先生にはオレの気持ちなんかわかりませんよ。先生はいいですよね、想う人から想われて。誰からも病気だって言われたりしない」
松浦は俯いて、消え入りそうな声で言った。
「だから、おまえは病気なんかじゃないって言ったじゃないか。おまえ、好きな人がいるのか?駆け落ちしたっていう、先生か?」
生徒のプライベートに立ち入りたくはないけど、なにかに苦しんでいる松浦を、ほっとくことは出来なかった。
「先生はきっと、オレと関わったことを後悔してると思う。オレのせいで、教師をやめさせられて、きっと後悔している」
その言葉でよくわかった。
松浦が今もその人のことを、好きだってことが。
「だから、おまえも学校を辞めるのか?その先生がおまえのことを本気で好きだったのなら、おまえの選択はどうかと思うけどな」
「おまえ、半端なんだよ」
松浦の前にカップを置いて、それまで黙ってオレたちの話を聞いていた紺野が言った。
「紺野?」
「いいか、子供は大人に干渉される。それは仕方ない。だけどな、おまえもいつまでも子供じゃない。じきに大人になる。大人になったら、性癖なんかのことでごちゃごちゃ言うヤツとは付き合わなければいいし、家族なら気長に説得するか、さもなきゃほっとけ。大事なのは、おまえの今の気持ちがどれくらい本気かってことだ。おまえがその人のこと本気で好きなら、何年だって待てるはずだ」
松浦は、紺野の言葉には特に感動しなかったようで、表情を変えない。
「オレが、こいつを口説くのに何年かかったと思う?長かったけど、その間、オレは自分の気持ちを迷ったことはない。本気で想っていれば、いつかきっとわかってもらえるって信じてたしな」
「こ、紺野!」
言わなくてもいいことまで言う紺野に焦るオレに、松浦が聞く。
「先生はどうなんですか。この人のこと、好きなんですか。男でも、いいんですか」
まったく、呆れる。
オレが松浦の家に通っていたとき、こいつは一言だって口を開かなかった。
喋ったと思ったら、こんな答えにくいことを言う。
「それは…おまえに言うべきことじゃない。オレは自分自身で答えを出して、紺野に対して答えるよ」
紺野はちょっと驚いた顔を見せて、それから目を細めて笑った。
「それより松浦、おまえに聞きたいことがある。あのヤリ部屋の経営者の二人、オレが紺野と一緒に住んでることとか知ってたみたいだけど、おまえが教えたんだよな?でも、おまえはなんでそんなこと、知ってるわけ?あとオレの携帯の番号も」
「それは……」
松浦が答えかけたとき、部屋のインターフォンが鳴った。
不意に、声をかけられて、オレと紺野は同時に顔を声の方向に向けた。
オレの部屋の布団に寝かせておいた松浦が、開いた襖の間に立っていた。
「……オレ、帰ります」
「ちょ、ちょっと待てよ、松浦。おまえ、大丈夫か、身体?フラフラだったぞ」
「はあ、なんか、頭が痛いし、気持ち悪いですけど。なんでだろ」
「なんでって。まあ、いいから座れよ。おまえには聞きたいこともある」
オレは素早く紺野から離れて松浦のところに駆け寄り、松浦をダイニングテーブルの椅子に腰掛けさせた。
「紺野、なんか飲み物作ってやって」
紺野は深いため息を吐いて「へいへい」と返事をした。
「だいたい、おまえなんであんなとこにいたんだ?ん?」
オレは松浦の隣に腰掛けて、教師の口調で聞いた。
「二丁目の店で知り合って…」
「知り合ったって、あの二人に?」
松浦はコクンと頷く。
「その…言いずらかったら別にいいけど、あそこ、会員制だって言ってたけど、つまりその、おまえも会員なのか」
再び松浦はコクンと頷いた。
最近の高校生はすすんでる。
オレはあの部屋で繰り広げられていた行為を思い出して、思わず、ため息を吐いた。
「おまえ、あんなことがしたかったのか?松浦」
同じ性癖の人間だけで集まって、四角い箱の中で淫らだけど安全な快楽に耽る。
あそこでは、誰からも咎められず、どんな欲求も受け止めてもらえる。
一見、気持ちのいい空間のようにも思えるけど、オレには、虐げられて他に生き場所のない者達がお互いを慰めあっているだけのような気がする。
「先生にはオレの気持ちなんかわかりませんよ。先生はいいですよね、想う人から想われて。誰からも病気だって言われたりしない」
松浦は俯いて、消え入りそうな声で言った。
「だから、おまえは病気なんかじゃないって言ったじゃないか。おまえ、好きな人がいるのか?駆け落ちしたっていう、先生か?」
生徒のプライベートに立ち入りたくはないけど、なにかに苦しんでいる松浦を、ほっとくことは出来なかった。
「先生はきっと、オレと関わったことを後悔してると思う。オレのせいで、教師をやめさせられて、きっと後悔している」
その言葉でよくわかった。
松浦が今もその人のことを、好きだってことが。
「だから、おまえも学校を辞めるのか?その先生がおまえのことを本気で好きだったのなら、おまえの選択はどうかと思うけどな」
「おまえ、半端なんだよ」
松浦の前にカップを置いて、それまで黙ってオレたちの話を聞いていた紺野が言った。
「紺野?」
「いいか、子供は大人に干渉される。それは仕方ない。だけどな、おまえもいつまでも子供じゃない。じきに大人になる。大人になったら、性癖なんかのことでごちゃごちゃ言うヤツとは付き合わなければいいし、家族なら気長に説得するか、さもなきゃほっとけ。大事なのは、おまえの今の気持ちがどれくらい本気かってことだ。おまえがその人のこと本気で好きなら、何年だって待てるはずだ」
松浦は、紺野の言葉には特に感動しなかったようで、表情を変えない。
「オレが、こいつを口説くのに何年かかったと思う?長かったけど、その間、オレは自分の気持ちを迷ったことはない。本気で想っていれば、いつかきっとわかってもらえるって信じてたしな」
「こ、紺野!」
言わなくてもいいことまで言う紺野に焦るオレに、松浦が聞く。
「先生はどうなんですか。この人のこと、好きなんですか。男でも、いいんですか」
まったく、呆れる。
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喋ったと思ったら、こんな答えにくいことを言う。
「それは…おまえに言うべきことじゃない。オレは自分自身で答えを出して、紺野に対して答えるよ」
紺野はちょっと驚いた顔を見せて、それから目を細めて笑った。
「それより松浦、おまえに聞きたいことがある。あのヤリ部屋の経営者の二人、オレが紺野と一緒に住んでることとか知ってたみたいだけど、おまえが教えたんだよな?でも、おまえはなんでそんなこと、知ってるわけ?あとオレの携帯の番号も」
「それは……」
松浦が答えかけたとき、部屋のインターフォンが鳴った。
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