カラダの恋人

フジキフジコ

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ココロの恋人(高校生編)

2.見えない壁

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「よ、よお。こ、紺野、おはおは、おはよ」
妙なイントネーションで、どもりながら佐倉友樹がオレに言う。
一見爽やかな笑顔も、それが作り笑いだとわかるくらいに口許のあたりがヒクついていた。

「はよ」
オレもさりげなく視線を逸らしながら、そっけなく答える。
今朝、あんな夢を見てしまって、トモに対して後ろめたいような罪悪感がチクンと胸を刺す。
鞄を置いて椅子に座らずに机に尻をかけて、後ろの席の女子に話しかけると、トモがほっとしたようにオレとは反対側の席に座っている奴の方を向いて、さっきの話の続きといった感じの会話をはじめた。

どうして、こうなるんだろう。
隣の席なのに、オレたちの間には見えない壁がある。
オレたちはもう一週間くらい、こんなぎこちない、他人行儀な朝の挨拶を繰り返していた。

決まってトモは必死の形相でオレに「おはよう」と言って、それが終われば自分の役割は終わったみたいな態度で、あとはすげえよそよそしい。
よそよそしいというか、その警戒のしようといったらまるで狼に怯えるウサギみたいで。

いつもだったらオレが前の晩に見た映画のDVDの話を興味のなさそうなトモに「聞けって」と無理矢理するか、トモが野球の結果を悔しがったり喜んだりしながら話して、朝のHRが始まるまでのこの時間なんてあっというまにしか感じないのに、トモと話せないこの時間は、結構長くてツライ。

オレの席の後ろにはいつのまにか女の子たちが集まっていて、気の乗らないドラマの話で盛り上がっている。

トモとこうなった原因はわかっている。
そうあれは一週間前。
オレとトモはひょんなことから一線をこえてしまった。
いや「一線を越えた」といっても最後までヤッちゃったワケじゃなくて、お互いのアレをナニして、つまり手を貸しあっただけなんだけど。

それまでオレたちはいたって普通の健全な親友同士だったのに、以来スーパーぎこちない距離が出来てしまった。
どうやったらトモとまた元通りに付き合えるか、ここ数日オレは考えあぐねている。
今日こそはちゃんとトモと話そうと思う。
話してどうにかなるかわかんないけど、笑ってなかったことにするか、ちょっとタイミングがズレたけど冗談ですませるとかして元通りになろう。

「でもさあ、佐倉君も結構男の人にモテそうなタイプだと思わない?」
余所事を考えていたら、女の子たちの話題が妙な方向に向かっていた。
ナンの話かと思えば、昨日のドラマがホモっていうか、そっち系の話だったらしい。
最近多いんだよな、そういうの。

「そうそう、とくにオジサンにモテそう。ね、紺野君」
どうでもいいけどそういうビミョウな話題をだなあ、オレに振るなオレに。
「え?そ、そうかなあ。オレはそうは思わねえけど、それよりさ」
「ええ、だってえ、なんか紺野君と佐倉君だってアヤシイってみんな言ってるよお」

せっかく話題を変えようとしていたオレの言葉尻を奪うように、オンナは一際大きな声で言った。
オマエ、なんかオレに恨みでもあるのかよ!
チラっとトモの方を伺うように見ると、その発言はしっかりトモの耳に入ったようで、トモは細い肩をピクピク震わせている。
やっべー。

「オレはホモは嫌いなんだよ」
肩越しに振り返って、目を吊り上げながらドスを効かせた低い声でトモが言った。
そういう冗談、トモには通じないんだって。
しかもタイミングが悪すぎるんだよ。
けど言ったオンナは悪びれる様子もなく、舌を出して澄ましている。
その図々しさが今のオレには心底羨ましい。

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