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カラダの恋人【第三部】
3.旅先での情事
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キスは、簡単だった。
間宮君の柔らかい髪を指ですきながら頭を引き寄せて唇を重ね、舌先が触れあったらあとはもう、唾液が溢れ落ちそうな濃厚なディープキスになって。
そのまま崩れるように床に彼を押し倒してから、オレはふと我に返った。
「ごめん、オレ、同性とは経験ない」
間宮君は、一瞬きょとんとしたあと、目を細めて笑って「大丈夫」と言った。
「とりあえず、シャワーを浴びて、ベッドに行こう。床でしたら、明日、身体中が痛いよ」
その夜、情けないことにオレは、間宮君にすべて「おまかせ」してしまった。
美しい音を奏でることのできる指はさすがにとてつもなく器用で、触れられ扱かれただけでイッてしまった。
二度目は舌でイカされ、三度目に、間宮君は自分の中にオレを受け入れてくれた。
それだって、やり方のわからないオレは、ただ、ベッドにマグロのように寝転がっていただけで、間宮君が上になって、オレの上に腰を落とすようにして、迎え入れてくれたのだ。
間宮君の中はキツくて、熱くて、全身が痺れるほど、気持ち良かった。
「ああ…ヤバいよ、これ。オレ、こんなの、知らなかった」
間宮君は妖艶な笑みを口元に浮かべて、オレの胸に手をついて、ゆっくり腰を使った。
「気持ちいい?河合君…」
昼間とは違うエロい顔を見せて、そう言いながら唇をねだりにくる。
「すごく…いいよ…」
気持ち良すぎて、もしかしたら夢かもしれないとオレは思った。
その夜、間宮君の中に挿ったのはオレだけど、オレは間宮君に抱かれたんだと思う。
それから数日間の間宮君との不思議な共同生活はとても楽しかった。
間宮君の案内で旅行者らしく丘の上に建つ古城に行き、この国の歴史の重みを肌で感じた。
何百年前の人も見たに違いない古い街並を染める夕陽を眺めた。
ビールにソーセージだって味わった。
オレがなにもしないで過ごしていたドイツは、実はとても魅力的な国だった。
フラットではオレは間宮君に料理を教えた。
間宮君はお礼にピアノを弾いてくれた。
美しい曲ばかりを弾いてくれた。
「そうだ、ねえ、オレも一曲だけ弾ける曲があるんだよ。聴いてくれる?」
天才ピアニストの前で弾くのは恥ずかしかったけど、間宮君に聴いて欲しかった。
たった一曲、オレが弾ける曲。
「聴いたことない。すごく、いい曲だね」
間宮君は瞳を輝かせて、嘘ではない賛辞をくれた。
「誰の曲?」
「ホイットニーだよ。アメリカの有名なポップス歌手。美由希が大好きだったんだ。ある年の、彼女の誕生日に演奏をプレゼントしたくて、美由希に内緒でクラスメートの女子に一週間猛特訓してもらったの。楽譜なんて読めないから、身体で覚えたよ。もうスポーツと同じ感覚だった、オレには。それまでオレがピアノに触ったこともないことを知ってたから、美由希は驚いて、感激してくれたよ。それからせがまれて、何度も弾いたから、多分この一曲だけはオレ、ずっと弾けると思う」
そう、指が鍵盤の位置を覚えてるように、オレは多分、美由希を忘れない。
オレは間宮君に、美由希のいろんなことを話した。
彼女の好きな曲、好きな色、好きな食べ物、好きな空。
間宮君はただ、聞いてくれる。
愚にもつかない、そんな話を。
そして夜は、身体を重ねた。
オレは間宮君の身体に溺れた。
「でも意外だったな。間宮君がこんなに慣れてるなんて」
正直にそう言うと、彼は「外国暮らしが長かったし、クラシックの世界にはゲイが多いから、それなりに、ね」なんて、言った。
きっと間宮君はモテたんだろう。
なんだかちょっと妬けるね。
間宮君を下にして、挿入した性器をゆっくり抜き挿しする。
そうしながら、間宮君の勃ち上がった性器を指で扱く。
間宮君の短い吐息や、眉間にシワを寄せた艶かしい表情で、感じてくれていることがわかる。
オレは拙いながらも、男同士で快感を分け合う術を学んでいった。
「…河合君…すごく…うまくなったね…」
はっはぁ、と息を繋ぎながら間宮君が言った。
「先生がいいからだよ」
そう、間宮君は最高の先生だ。
「ううん…素質が、あったんだよ…んっ、もう、無理…イカせて…気持ち良すぎて、変になりそうだよ…あっ」
喉を反らせて、懇願する。
色っぽいね。
両腕は空を切るようにして、オレの頭の後ろに回る。
キスするために、引き寄せる。
そんな仕草を可愛いと思う。
「オレも、気持ち良すぎて、おかしくなりそうだよ」
甘く激しくうねるように腰を打ちつけて、自分と間宮君を追いたてた。
正直言って、オレは今まで、セックスがこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
好きでもない女の子を抱いたとき、その子に対する罪悪感、美由希に対する後ろめたさ、そして自分自身に対する嫌悪感で、心から、セックスを楽しんだことはなかったから。
セックスは溜まったものを吐き出す射精以上の意味も快楽もなかった。
間宮君が同性だからなのか、ここが日常とかけはなれた外国だからなのか、間宮君とのセックスは頭を空っぽにして、ただただ、快感を追うことが出来た。
そう、ここが異国の地で、これが束の間の夢のような時間だと思っていたから大胆になれたのかもしれない。
言ってみれば、旅先の情事みたいなもの、そんなふうに考えていた。
先のことなんて、考えてもいなかったから、唐突に終わりがくるとも思っていなかった。
ある朝目覚めると、間宮君が姿を消していた。
『河合君、おはよう。よく眠れましたか。急用が出来たので、先に日本に戻ります。このフラットはいつまでも好きに使ってください』
オレは首をひねった。
それだけしか書いてないメモ書きを、何か足りないような気分で何度も読み返した。
そして思い当たって「うわっ」と大声をあげてしまった。
いまさら、連絡先を聞いてなかったことを思い出したのだ。
借りたお金は親父に送金してもらって返したけど、それにしてもこんなに世話になっておいてもう二度と会えないというのは気がひける。
しかし、間宮君のこの去り方はなんだか意味深じゃないだろうか。
なんでこんなに突然、黙っていっちゃったんだろう。
なんか彼を傷つけるようなことをしたかな。
昨夜、同じベッドで『おやすみ』を言って眠ったときは、笑っていた。
メモを握り締めたまま、オレは途方に暮れた。
大事なものを無くした。
そんな喪失感に襲われた。
その感情の正体がわからない。
モヤモヤする。うーん。
しかし、そんな無駄なことを考えている時間も惜しい。
とにかくオレも日本に帰ろう。
決心すると行動は早かった。
間宮君の柔らかい髪を指ですきながら頭を引き寄せて唇を重ね、舌先が触れあったらあとはもう、唾液が溢れ落ちそうな濃厚なディープキスになって。
そのまま崩れるように床に彼を押し倒してから、オレはふと我に返った。
「ごめん、オレ、同性とは経験ない」
間宮君は、一瞬きょとんとしたあと、目を細めて笑って「大丈夫」と言った。
「とりあえず、シャワーを浴びて、ベッドに行こう。床でしたら、明日、身体中が痛いよ」
その夜、情けないことにオレは、間宮君にすべて「おまかせ」してしまった。
美しい音を奏でることのできる指はさすがにとてつもなく器用で、触れられ扱かれただけでイッてしまった。
二度目は舌でイカされ、三度目に、間宮君は自分の中にオレを受け入れてくれた。
それだって、やり方のわからないオレは、ただ、ベッドにマグロのように寝転がっていただけで、間宮君が上になって、オレの上に腰を落とすようにして、迎え入れてくれたのだ。
間宮君の中はキツくて、熱くて、全身が痺れるほど、気持ち良かった。
「ああ…ヤバいよ、これ。オレ、こんなの、知らなかった」
間宮君は妖艶な笑みを口元に浮かべて、オレの胸に手をついて、ゆっくり腰を使った。
「気持ちいい?河合君…」
昼間とは違うエロい顔を見せて、そう言いながら唇をねだりにくる。
「すごく…いいよ…」
気持ち良すぎて、もしかしたら夢かもしれないとオレは思った。
その夜、間宮君の中に挿ったのはオレだけど、オレは間宮君に抱かれたんだと思う。
それから数日間の間宮君との不思議な共同生活はとても楽しかった。
間宮君の案内で旅行者らしく丘の上に建つ古城に行き、この国の歴史の重みを肌で感じた。
何百年前の人も見たに違いない古い街並を染める夕陽を眺めた。
ビールにソーセージだって味わった。
オレがなにもしないで過ごしていたドイツは、実はとても魅力的な国だった。
フラットではオレは間宮君に料理を教えた。
間宮君はお礼にピアノを弾いてくれた。
美しい曲ばかりを弾いてくれた。
「そうだ、ねえ、オレも一曲だけ弾ける曲があるんだよ。聴いてくれる?」
天才ピアニストの前で弾くのは恥ずかしかったけど、間宮君に聴いて欲しかった。
たった一曲、オレが弾ける曲。
「聴いたことない。すごく、いい曲だね」
間宮君は瞳を輝かせて、嘘ではない賛辞をくれた。
「誰の曲?」
「ホイットニーだよ。アメリカの有名なポップス歌手。美由希が大好きだったんだ。ある年の、彼女の誕生日に演奏をプレゼントしたくて、美由希に内緒でクラスメートの女子に一週間猛特訓してもらったの。楽譜なんて読めないから、身体で覚えたよ。もうスポーツと同じ感覚だった、オレには。それまでオレがピアノに触ったこともないことを知ってたから、美由希は驚いて、感激してくれたよ。それからせがまれて、何度も弾いたから、多分この一曲だけはオレ、ずっと弾けると思う」
そう、指が鍵盤の位置を覚えてるように、オレは多分、美由希を忘れない。
オレは間宮君に、美由希のいろんなことを話した。
彼女の好きな曲、好きな色、好きな食べ物、好きな空。
間宮君はただ、聞いてくれる。
愚にもつかない、そんな話を。
そして夜は、身体を重ねた。
オレは間宮君の身体に溺れた。
「でも意外だったな。間宮君がこんなに慣れてるなんて」
正直にそう言うと、彼は「外国暮らしが長かったし、クラシックの世界にはゲイが多いから、それなりに、ね」なんて、言った。
きっと間宮君はモテたんだろう。
なんだかちょっと妬けるね。
間宮君を下にして、挿入した性器をゆっくり抜き挿しする。
そうしながら、間宮君の勃ち上がった性器を指で扱く。
間宮君の短い吐息や、眉間にシワを寄せた艶かしい表情で、感じてくれていることがわかる。
オレは拙いながらも、男同士で快感を分け合う術を学んでいった。
「…河合君…すごく…うまくなったね…」
はっはぁ、と息を繋ぎながら間宮君が言った。
「先生がいいからだよ」
そう、間宮君は最高の先生だ。
「ううん…素質が、あったんだよ…んっ、もう、無理…イカせて…気持ち良すぎて、変になりそうだよ…あっ」
喉を反らせて、懇願する。
色っぽいね。
両腕は空を切るようにして、オレの頭の後ろに回る。
キスするために、引き寄せる。
そんな仕草を可愛いと思う。
「オレも、気持ち良すぎて、おかしくなりそうだよ」
甘く激しくうねるように腰を打ちつけて、自分と間宮君を追いたてた。
正直言って、オレは今まで、セックスがこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
好きでもない女の子を抱いたとき、その子に対する罪悪感、美由希に対する後ろめたさ、そして自分自身に対する嫌悪感で、心から、セックスを楽しんだことはなかったから。
セックスは溜まったものを吐き出す射精以上の意味も快楽もなかった。
間宮君が同性だからなのか、ここが日常とかけはなれた外国だからなのか、間宮君とのセックスは頭を空っぽにして、ただただ、快感を追うことが出来た。
そう、ここが異国の地で、これが束の間の夢のような時間だと思っていたから大胆になれたのかもしれない。
言ってみれば、旅先の情事みたいなもの、そんなふうに考えていた。
先のことなんて、考えてもいなかったから、唐突に終わりがくるとも思っていなかった。
ある朝目覚めると、間宮君が姿を消していた。
『河合君、おはよう。よく眠れましたか。急用が出来たので、先に日本に戻ります。このフラットはいつまでも好きに使ってください』
オレは首をひねった。
それだけしか書いてないメモ書きを、何か足りないような気分で何度も読み返した。
そして思い当たって「うわっ」と大声をあげてしまった。
いまさら、連絡先を聞いてなかったことを思い出したのだ。
借りたお金は親父に送金してもらって返したけど、それにしてもこんなに世話になっておいてもう二度と会えないというのは気がひける。
しかし、間宮君のこの去り方はなんだか意味深じゃないだろうか。
なんでこんなに突然、黙っていっちゃったんだろう。
なんか彼を傷つけるようなことをしたかな。
昨夜、同じベッドで『おやすみ』を言って眠ったときは、笑っていた。
メモを握り締めたまま、オレは途方に暮れた。
大事なものを無くした。
そんな喪失感に襲われた。
その感情の正体がわからない。
モヤモヤする。うーん。
しかし、そんな無駄なことを考えている時間も惜しい。
とにかくオレも日本に帰ろう。
決心すると行動は早かった。
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