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カラダの恋人【第二部】
3.コンプレックス
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はああああ。
陸が耳障りな大きなため息を吐く。
さっきからうざったいなあ、もう。
ため息を吐くのは勝手だけど、僕の見えないところでやって欲しい。
「わあああああ!」
ため息の次は頭を抱えて雄叫びをあげた。
「陸、うるさい。静かにしろよ。っていうか帰れよ、もう」
人の部屋で一人で騒ぐな。
「だって!シノはなんとも思わないの?!あの二人があんなことしてたんだよ?いいのかよーっ!」
「いいもなにも、オレたちには関係ないじゃん。当人同士の問題だしさあ」
「でも、オレ、なんか納得出来ないよ」
陸は顔を上げて、僕ににじり寄ってきた。
「ねえ、佐倉君と紺野君って恋人同士なのかな」
「そうなんじゃないの」
普通、ああいうことする関係っていったら恋人同士だろ。
「じゃあ、やっぱりエッチとかしてんだろうね?」
「っていうか、してたじゃん」
その目で見て、その耳で聞いただろ、おまえも。
と考えて、不意に昼間の出来事を思い出してしまった僕の顔は火をふいたように一気に赤面した。
「や、でもあれはさ、紺野君があ、佐倉君のを、抜いてあげてただけでしょ?」
だけでしょって、おまえ…。
だけって、言ってすませていいようなことじゃないと思うけど。
「まあ、多分、そう、なのかなあ…」
なにしろ一部始終を見たわけじゃないんで、どうやって紺野君が「抜いてあげた」のかまではわからないけど、僕も陸も、佐倉君がイッたときの妙に色っぽい声はしっかり聞いてしまっていた。
つまり、紺野君は責任持って、やりはじめたことを最後までしてやったんだと思う。
いや、褒めていいことかどうかはわからないけど。
「だから、ああいうのじゃなくて、エッチしてるのかってことだよ」
「し、知るかよ、そんなこと」
他人同士のセックスなんか、気にすんなよ。
ところが陸は何が気になるのか、ますます真剣な顔をして聞いてくる。
「ねえ、シノ。男同士って、どうやってエッチすんの。ねえ!」
「おまえ、納得出来ないってそういうコトかよ」
陸がムッとしたように、ちょっと顔を赤くした。
面白くなって、僕は陸をからかってやろうと思いつく。
「なんだ、陸、おまえもちょっとは興味あるんじゃねえの?なんならオレと試してみる?」
そう言ってやったら、爆発的に赤くなった。
面白い。
滅多に陸のこんな顔は見られない。
いつもはいちいち人の着る物から食べる物から日用品に至るまで「シノ、だっせー」とケナしてエラぶってるくせに。
年下のくせに、自分の方が世の中のことを何でも知っているっていう陸の態度に常日頃ムカついていた僕は、更に悪ノリして陸に唇を突き出した。
「ほらほら、陸ぅ、キスしていいぜ」
ところが。
陸は目を血走らせ、ガバッと僕の肩を掴むと本当にキスしてきた。
「ぶっ、馬鹿!なにすんだよ、てめえ!」
僕は陸を突き飛ばして、座ったまま後ろに手をついて後ずさった。
「なんで、自分でしていいって言ったんじゃん」
「冗談に決まってんだろ!本気にすんなよ」
唇を服の袖でゴシゴシ拭いながら僕がそういうと、陸は少しだけ傷ついた顔をした。
そしてまた、はあああああ、とため息を吐く。
「…なんなんだよ、おまえ。なんか変だよ。そんなにショックだったのか?佐倉君と紺野君のこと」
そういえば、陸は佐倉君には随分懐いていた。
まさか、陸、佐倉君のこと好きだったとか?
いやまさか、ね。
「オレ、帰るね」
そんな、項垂れることないだろ。
なんか僕が悪いこと言ったみたいじゃん。
「陸…」
陸は玄関で肩越しにチラッと僕の方を振り返って、何か言いたそうな顔で、でも何も言わずに出ていった。
***
次の日、大学の構内を歩いていると突然陸に腕をつかまれた。
「シノ、誰と一緒だったんだよ、さっき」
昨日のことをまだ怒っているのか、不機嫌な声で聞いてくる。
「さっきって学食?同じゼミのクラスの子だよ。結構可愛いだろ」
「似合わない」
「え、なに?」
「シノには似合わないって!」
なんだよ、感じ悪いな。
「おまえにカンケイないだろ」
頭越しに言われて、僕はムカついた。
「どうせオレはおまえと違ってダサいよ。格好も、女の子の趣味もなにもかもダサダサだよ。それが気にいらなかったらオレと付き合わなきゃいいだろ。おまえねえ、付きまとっていちいちうるさいこと言うなよな」
言いたいことを言って、僕は陸の腕を振り払いずんずん歩いていく。
中学の頃、身長を抜かれただけならマシだった。
僕には、陸がどう頑張っても僕を抜けない1年という年齢差があったから。
二人きりでいるときは陸にはその1年は意味のないものだったろうけど、僕が同学年の友達といるとき、絶対に陸はその中に入ってこなかった。
そんなとき、遠くから陸が僕を見ていることを知っていたけど、僕はその差だけは譲るつもりはなかった。
ところが大学入試に失敗して1年浪人して今の大学に入った僕は、現役で同じ大学に入った陸にとうとうなにもかも肩を並べられてしまったわけで。
同じ予備校に通っていた頃、陸は僕のことを「あっくん」から「シノ」と呼び方を変えた。
シノ、というのは僕が同学年の友達から呼ばれていた四ノ宮という苗字を省略した呼び名だった。
「待ってよ、シノ!」
陸が僕を追いかけてきて、背中にぶつかる。
「痛ってえ。なんで急に止まんの」
「あれ、紺野君じゃん?ほら、掲示板の前。何やってんだろ」
前方の掲示板の前で、紺野君が熱心に何かメモをとっていた。
「行ってみる?」
紺野くーん、と呼ぼうとしたら、もう彼はそこから立ち去ってしまい、僕と陸は二人で紺野君が立っていた掲示板の前で立ち止まった。
「あれ。ねえ、これ見てたよね、紺野君」
「うん」
どういうことなんだろう。
それはカンボジアで井戸を掘ろう!という趣旨の、『海外青年協力隊募集』のポスターだった。
陸が耳障りな大きなため息を吐く。
さっきからうざったいなあ、もう。
ため息を吐くのは勝手だけど、僕の見えないところでやって欲しい。
「わあああああ!」
ため息の次は頭を抱えて雄叫びをあげた。
「陸、うるさい。静かにしろよ。っていうか帰れよ、もう」
人の部屋で一人で騒ぐな。
「だって!シノはなんとも思わないの?!あの二人があんなことしてたんだよ?いいのかよーっ!」
「いいもなにも、オレたちには関係ないじゃん。当人同士の問題だしさあ」
「でも、オレ、なんか納得出来ないよ」
陸は顔を上げて、僕ににじり寄ってきた。
「ねえ、佐倉君と紺野君って恋人同士なのかな」
「そうなんじゃないの」
普通、ああいうことする関係っていったら恋人同士だろ。
「じゃあ、やっぱりエッチとかしてんだろうね?」
「っていうか、してたじゃん」
その目で見て、その耳で聞いただろ、おまえも。
と考えて、不意に昼間の出来事を思い出してしまった僕の顔は火をふいたように一気に赤面した。
「や、でもあれはさ、紺野君があ、佐倉君のを、抜いてあげてただけでしょ?」
だけでしょって、おまえ…。
だけって、言ってすませていいようなことじゃないと思うけど。
「まあ、多分、そう、なのかなあ…」
なにしろ一部始終を見たわけじゃないんで、どうやって紺野君が「抜いてあげた」のかまではわからないけど、僕も陸も、佐倉君がイッたときの妙に色っぽい声はしっかり聞いてしまっていた。
つまり、紺野君は責任持って、やりはじめたことを最後までしてやったんだと思う。
いや、褒めていいことかどうかはわからないけど。
「だから、ああいうのじゃなくて、エッチしてるのかってことだよ」
「し、知るかよ、そんなこと」
他人同士のセックスなんか、気にすんなよ。
ところが陸は何が気になるのか、ますます真剣な顔をして聞いてくる。
「ねえ、シノ。男同士って、どうやってエッチすんの。ねえ!」
「おまえ、納得出来ないってそういうコトかよ」
陸がムッとしたように、ちょっと顔を赤くした。
面白くなって、僕は陸をからかってやろうと思いつく。
「なんだ、陸、おまえもちょっとは興味あるんじゃねえの?なんならオレと試してみる?」
そう言ってやったら、爆発的に赤くなった。
面白い。
滅多に陸のこんな顔は見られない。
いつもはいちいち人の着る物から食べる物から日用品に至るまで「シノ、だっせー」とケナしてエラぶってるくせに。
年下のくせに、自分の方が世の中のことを何でも知っているっていう陸の態度に常日頃ムカついていた僕は、更に悪ノリして陸に唇を突き出した。
「ほらほら、陸ぅ、キスしていいぜ」
ところが。
陸は目を血走らせ、ガバッと僕の肩を掴むと本当にキスしてきた。
「ぶっ、馬鹿!なにすんだよ、てめえ!」
僕は陸を突き飛ばして、座ったまま後ろに手をついて後ずさった。
「なんで、自分でしていいって言ったんじゃん」
「冗談に決まってんだろ!本気にすんなよ」
唇を服の袖でゴシゴシ拭いながら僕がそういうと、陸は少しだけ傷ついた顔をした。
そしてまた、はあああああ、とため息を吐く。
「…なんなんだよ、おまえ。なんか変だよ。そんなにショックだったのか?佐倉君と紺野君のこと」
そういえば、陸は佐倉君には随分懐いていた。
まさか、陸、佐倉君のこと好きだったとか?
いやまさか、ね。
「オレ、帰るね」
そんな、項垂れることないだろ。
なんか僕が悪いこと言ったみたいじゃん。
「陸…」
陸は玄関で肩越しにチラッと僕の方を振り返って、何か言いたそうな顔で、でも何も言わずに出ていった。
***
次の日、大学の構内を歩いていると突然陸に腕をつかまれた。
「シノ、誰と一緒だったんだよ、さっき」
昨日のことをまだ怒っているのか、不機嫌な声で聞いてくる。
「さっきって学食?同じゼミのクラスの子だよ。結構可愛いだろ」
「似合わない」
「え、なに?」
「シノには似合わないって!」
なんだよ、感じ悪いな。
「おまえにカンケイないだろ」
頭越しに言われて、僕はムカついた。
「どうせオレはおまえと違ってダサいよ。格好も、女の子の趣味もなにもかもダサダサだよ。それが気にいらなかったらオレと付き合わなきゃいいだろ。おまえねえ、付きまとっていちいちうるさいこと言うなよな」
言いたいことを言って、僕は陸の腕を振り払いずんずん歩いていく。
中学の頃、身長を抜かれただけならマシだった。
僕には、陸がどう頑張っても僕を抜けない1年という年齢差があったから。
二人きりでいるときは陸にはその1年は意味のないものだったろうけど、僕が同学年の友達といるとき、絶対に陸はその中に入ってこなかった。
そんなとき、遠くから陸が僕を見ていることを知っていたけど、僕はその差だけは譲るつもりはなかった。
ところが大学入試に失敗して1年浪人して今の大学に入った僕は、現役で同じ大学に入った陸にとうとうなにもかも肩を並べられてしまったわけで。
同じ予備校に通っていた頃、陸は僕のことを「あっくん」から「シノ」と呼び方を変えた。
シノ、というのは僕が同学年の友達から呼ばれていた四ノ宮という苗字を省略した呼び名だった。
「待ってよ、シノ!」
陸が僕を追いかけてきて、背中にぶつかる。
「痛ってえ。なんで急に止まんの」
「あれ、紺野君じゃん?ほら、掲示板の前。何やってんだろ」
前方の掲示板の前で、紺野君が熱心に何かメモをとっていた。
「行ってみる?」
紺野くーん、と呼ぼうとしたら、もう彼はそこから立ち去ってしまい、僕と陸は二人で紺野君が立っていた掲示板の前で立ち止まった。
「あれ。ねえ、これ見てたよね、紺野君」
「うん」
どういうことなんだろう。
それはカンボジアで井戸を掘ろう!という趣旨の、『海外青年協力隊募集』のポスターだった。
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