カラダの恋人

フジキフジコ

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カラダの恋人【第一部】

1.これってセフレ?

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紺野がまた恋煩いにかかった。
今度の相手は合コンで知り合ったという二つ年上のナースの卵。
色が白くて黒髪が綺麗で富士額で、和服の似合いそうな美人なんだと、さっきから聞いてもいないオレの側でうるさく力説している。
こんなところで居もしない相手を褒め称えているより、さっさと口説いて来いとオレは言いたい。

「……で、さっきからおまえ、なにやってんだよ」
ベッドの上で横になって漫画本を読んでいたオレは、オレの足を跨いでのしかかっている紺野に聞いた。
「なにって、トモ脱がしてるの」
友樹と書いてトモキと読むオレの名前を、紺野はわざわざ省略してトモと呼ぶ。
オンナみたいだからヤメロ、と何度言っても直さない。

「なんで」
「したいなあ、と思って」
また、はじまった。
オレは内心で深いため息を吐いた。

紺野はオンナに惚れる度にオレとヤリたがる。
正確に言えば、オンナを好きになって、その相手を口説いている間の肉体的欲求をオレの身体で解消させる。

見かけだけは抜群にいい紺野の場合、好きになった相手と両思いになる確率は限りなく百パーセントに近くて、その相手との恋がずっと続いていればオレにはなんの影響もなく、平和な日常が送れるのに、紺野が同じ相手と続くのは長くて半年、平均で三ヶ月、早ければ一週間ってところだった。

そして紺野は何度オンナにフラれてもフッても、性懲りもなくまた新しい恋をする。
恋をしてはオレの部屋に転がりこんで、片思いの辛さを切々と訴えながら、まるで慰めるのがオレの役目だとばかりに、オレの服を脱がせる。

「おまえなあ、人のカラダをなんだと思ってんだ。勝手にはじめるなっ。許可を得ろ、許可を」
本当はそういう問題でもないとは思うけど。
「トモくん、ヤラせて」
すっかりシャツのボタンを外し終え、今にもジッパーを下ろそうとしていた手を止めて、上目使いに言う。
癪に障ることに紺野はフツウの男なら誰でも嫉妬せずにいられない容貌をしている。
くっきりした二重瞼の凛々しい目でお願いされたら、どんな女でも嫌とは言えないんじゃないかと思う。
だけど生憎オレは女じゃない。

「ヤダね。今日はそういう気分じゃない」
「んでだよぉ!トモ!オレの切ない気持ち、分かるだろ?!切なくて、熱くて、たまんない気持ち!ああああ、ナオコさん」
「てめぇ、人の股間撫でながら何言ってやがる。どけよ、オラッ」
「いいじゃん、お願いだからやらせて」

言うが早いか紺野はオレのムスコをつかみだした。
電気のついた部屋でそんなもん出されてオレの方がギョッとして目をつむってしまった。

そうやって人がビックリしてる間に紺野はオレの大事なところを指や手のひらで撫で擦るもんだからオレのナニはいたって健康的に反応する。
「ほら、勃ったし」
勝ち誇ったように言って紺野は、勃ちあがったオレのそれを両手で持って先端にチュッとキスした。

「ばっ馬鹿か!そんなことされたらなあ、男なら誰だって勃つんだよ!単なる生理現象だ!」
「いいから、静かにしろよ」
ペロッと舐められ、ズズズッと吸い付かれる。
熱くて濡れた感触が気持ちよくないわけがない。
だからと言って息を乱すのは恥ずかしい。

「…おまえ、よく舐めれるな、そんなもん」
なるべく平静を装って嫌味のつもりでオレは言ってやった。
「トモだって舐めるじゃん、オレの」
「おっ、オレは好きで舐めてんじゃねえ!おまえがさせるんだろ!無理矢理に!」

それにしてもなんてアケスケな会話だろう。
こんなこと喋りながらこういう状況なのって絶対変だと思う。
フツウはムードってもんがあるんじゃないか。
まあ、オレと紺野の間に万が一にもムードなんてものがあったらそれはそれでコワイかもしれない。

「うっそー。オレの、舐めてるときのおまえの顔、なんかとろ~んとしてさ、結構色っぽくてそそられるんだぜ。あれって嫌がってるようには見えないなあ」
わざと長く出した舌で、先っちょの方を舐めながらオレのそのとろ~んとした顔っていうのを真似して言うんで途端にオレは顔がカーッと赤くなった。

駄目だ、この手のやり取りで紺野に勝てるはずがない。
なにしろこいつには羞恥心というものがカケラもないから。

「…んっ、…あっ」
一度平常心を失うと身体は途端に感じやすくなるみたいで、オレの全神経は紺野が与える刺激だけに敏感になった。
こうなったらもう半分ヤケくそで、オレは自分の股間に顔を埋める紺野の髪に指を絡めた。
「……ああ、そこイイ…」
「なに、ここ?ここがいいの?」
「…う、ん」

紺野にとって、オレがまだ結ばれない恋人の身代わりなら、オレにとって紺野とのセックスは他人にしてもらうマスターベーションのようなものだと思う。
そう思って割り切りでもしてなけりゃ、やってらんない。
紺野と違ってオレには好きなオンナなんかいないし。
でも身体は人並みに気持ち良くなりたいって思うわけで。

オレと紺野は高校時代からの腐れ縁で、紺野がどういうつもりでこんな関係を続けているのかオレにはさっぱりわからないけれど、身体の相性はいいらしく、正直言って紺野とのセックスは悪くなかった。
要するに、紺野だけがオレを利用しているわけじゃない。
オレも紺野を利用している。
オレにとって紺野はカラダだけの恋人だ。

「…んっ…あっ…うん…」
利害関係はカラダを満足させること。
きっと、ただそれだけ。
「も…と、強く、しろよ」
だから際どいセリフも相手を挑発するわけでも煽るわけでもなく、照れもせずに言える。

「こ…紺野っ…も、出るっ」
紺野はいつも口の中に出していいって言うけど、最低限の礼儀としてそれはやっぱりしちゃいけないって思うからオレは紺野の髪をつかんで顔を離した。
紺野に限界寸前のそれを握られ強く擦られて、オレは紺野の手に白い液を出す。

イク寸前、いくらきつく瞼を閉じても、オレの瞼の裏には紺野の顔しか浮かばない。
紺野ならオレの中で身体を震わせてイクその瞬間、やっぱり好きなオンナのことを考えてるんだろうなあと思う。
それだけが、なんだか癪に障る。
けど、頭の中で誰のことを考えていたって、気持ち良さを感じるのは頭じゃなくて、カラダだから。
オレたちにはそんなのどうでもいいことだと思う。
そう、カラダの恋人のオレたちには。
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