スリーピングドール

フジキフジコ

文字の大きさ
上 下
4 / 23

3.ロングインタビュー

しおりを挟む
「Fake Lips」は、千原那智ちはらなち樫野拓人かしのたくと花沢芳彦はなざわよしひこ森尾圭太もりおけいた大沢悠希おおさわゆうきの5人組のストリート系のボーカル&ダンスグループだ。

もともとは5人で公園や路上で踊っていたところを、現在の所属事務所のマネージャーである、宮崎里美みやざきさとみの目に止まり、5年前にメジャーデビューした。

デビューしてから2年ほどはCDをリリースしてもトップ10に入るのがやっとだったが、6曲目に出した「Wicked Beat」がヒットし、その後は順調にヒット曲を連発している。

年に一度の全国ツアーの規模も、去年からアリーナクラスで出来るようになり、今年はとうとうデビュー以来の目標だったドームでの公演を実現させた。
けれどまだ若い彼らは現状に満足していない。
常に上を目指して、新しいことに挑戦する気構えがある。

最近では音楽活動以外にもラジオ番組のレギュラーと、テレビの音楽情報番組のパーソナリティなどもこなしている。
また若さとルックスの良さを買われて、メンバーそれぞれにドラマ出演へのオファーも多い。
今のところはまだ「前向きに検討中」というのが事務所の回答だった。



◆◆◆



ホテルの一室を借り切った音楽雑誌のインタビュー。
ツアーの全公演を取材していた女性記者とは、すっかり顔馴染みになっていたせいで、はじまる前から和やかな雰囲気が出来ていた。

インタビューが掲載される号ではFake Lipsのデビューからの軌跡と今回のツアーのレポの特集が組まれることになっている。

「長いインタビューになると思うから覚悟してね」
三十代前半の、ショートカットで化粧気のない記者、上山由美かみやまゆみがそう言って録音機のスイッチを押し、ロングインタビューがはじまった。

「Fake Lipsの結成の話から聞きたいんだけど、はじめは千原君と花沢君の二人で路上で踊っていたのよね?」
芳彦が、頷いて答えた。
「その頃の話は事務所的にNGになるかもしれないけど」
部屋の脇で見守っているマネージャーの里美の顔を見ながら、由美を笑わせて芳彦が答えた。

「僕と那智は、学年は違うんですけど中学が同じで、家が近所だったんで小さい頃から顔見知りだったんです。はじめは那智が一人で踊っているのを見て、すごいなあって思って。なんとなく、一緒に踊るようになって。僕は子供の頃にクラシックバレエを習っていたんですけど、ストリートダンスははじめてで、二人とも、どんどんダンスにのめり込んじゃったんです。それからはよく学校をサボって、練習してました。練習の成果を日曜日に公園で踊って試して、立ち止まって見てくれる人がいるのが嬉しかった。報酬って言ったら、それだけなんですけど」

芳彦の言葉に、悠希が頷きながら「二人はすごい人気者だったんです。あの頃、代々木公園には日曜日に踊ってるダンスグループはたくさんあったけど、二人はとくに有名でした」と当時を思い出したように、興奮気味に口を挟んだ。

「それで、森尾君と大沢君は、二人に憧れてメンバーに入ったのね?」
その質問には、圭太が答える。
「僕と悠希は同じ学校で、体操部だったんです。偶然、那智くんたちが踊っているのを見て、すっげえカッコよくて、ショーゲキ的でした」
那智と芳彦が高校生だったとき、圭太と悠希はまだ中学生だった。

「二人で一生懸命練習して、それである日、那智くんに言ったんです。一緒に踊りたいって」
そう言いながら圭太は悠希を見て、そのあと那智を見た。
「那智くんが、いいよって言ってくれて、すげえ、嬉しかった」
「うん、オレたち、中学生なんかと一緒に踊れないって言われて断られると思ってたから」
悠希が言う。

「そして最後に樫野君が加わったのね。樫野君は帰国子女だって聞いたけど、日本に来る前はどこにいたの?」
「NYです」
樫野が答える。
「ダンスや音楽の基礎は向こうで勉強したの?」
「勉強とは思ってなかったし、スクールに通ったわけじゃないけど、仲間と踊ってました」
「樫野君から見て、4人のダンスはどうだった?」

樫野は笑いながら「正直に言っちゃっていい?」と里美に確認する。
「那智以外は、全然基礎が出来てなかった。ステップもフォーメーションもデタらめで。ヒップホップなのに、変なとこで悠希がアクロバテックにバク転かましたり、クラシックの癖が抜けない芳彦は指先とか妙に品があったり」
そこでみんな、笑った。

「だけど、なにかすごくひっかかるものがあったんです。上手くいえないけど、4人のダンスには目を惹かれる魅力があった」
「マジで?!樫野くんにはじめて褒められた!それさあ、もっと早く言ってよ~」
圭太の茶々に、またみんな笑う。

「樫野君はFakeLipsでもメインボーカルだけど、本当はバンドで活動する予定だったって本当?」
「はい。オレは日本に帰国したら、バンドをやろうって決めていたんです。実はメンバーもほぼ決まっていたんですけど、那智たちのダンスを見て、どうしても一緒にやりたいって思って、オレも、自分からメンバーに加えて欲しいって言ったんです」

「樫野くんは那智くんに一目惚れしたんだよね」
悠希に言われて「わ、ばかっ、おまえなんてこと言うんだよ!」と樫野が焦る。
由美は笑いながら「その話は結構有名だけど」と言った。

「由美さんまでなに言ってるんですか!違うんですよ、オレが仲間に入れてくれって頼んだとき、最初、那智に断られたんです。そんで頭に来て、オレもムキになって、多少しつこくしてたから、回りからそう見られちゃっただけで…」
「あのとき、樫野くん、すげービックリした顔してたよね。まさか断られるとは思ってなかった、みたいな」
思い出して悠希と圭太が一緒に笑った。

「だって、そうだろ?オレ、一応本場の経験あるし、それなりに自信あったワケじゃん。まさか公園で踊ってるチームに、断られるとは思ってなかったからさ」
「拓人はダンスチームの間でも有名だったし、ライブハウスで歌ったりもしていて、実力は充分知ってたんですけど、その頃は僕たち、プロ志向もなくて、楽しく踊れればいいってカンジだったから」
苦笑しながら芳彦が言った。
メンバーの中で芳彦だけが樫野を名前の方で呼ぶ。

「千原君はどうして断ったの?」
由美がそう那智に話を向け、皆が、那智の方を見た。
一瞬で様子がおかしいことがわかった。

「那智?」
隣に座っていた芳彦が顔を覗く。

那智は、真っ青な顔で上体を折り、自分の腕で自分の身体を抱くようにしてガタガタ震えていた。
「大丈夫?!」

芳彦が問いかけても、返事も出来ない。
マネージャーの里美が慌てたように側に来て、肩を抱えた。
「出ましょう、那智。立てる?」
無言で頷いて、里美に支えられて立ち上がる。

一緒に立ち上がった樫野が力を貸すために手を出したが、里美が首を振って断り、そのまま那智を連れて部屋の外に出ていった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

ニケの宿

水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。 しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。 異なる種族同士の、共同生活。 ※本作はちいさい子と青年のほんのりストーリが軸なので、過激な描写は控えています。バトルシーンが多めなので(矛盾)怪我をしている描写もあります。苦手な方はご注意ください。 『BL短編』の方に、この作品のキャラクターの挿絵を投稿してあります。自作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

風音樹の人生ゲーム

BL
(主人公が病気持ちです。地雷の方はバックでお願いします) 誰にも必要とされることの無い人生だった。 唯一俺を必要としてくれた母は、遠く遠くへいってしまった。 悔しくて、辛くて、ーー悔しいから、辛いから、笑って。 さいごのさいごのさいごのさいごまで、わらって。 俺を知った人が俺を忘れないような人生にしよう。 脳死で書いたので多分続かない。 作者に病気の知識はありません。適当です。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

処理中です...