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【番外編】恋かもしれない(高校生編Ⅱ)
6.純情ボーイ
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月曜日の放課後、晶の姿はまた生徒会室にあり、目の前には例によってお菓子とお茶と青山覚がいた。
「これはピエール・ドゥ・エメリ・パリのマカロンだよ。紅茶はデメアティーハウスのイングリッシュブレックファースト 。セイロンとアッサムのコクのある味わいを楽しんでね」
「いちいちうるせえよ。どうせ覚えられないから、黙って食わせろ」
晶はマカロンを両手に一個ずつ持って、立て続けに4個、平らげた。
いかにもやけ食い、といったふうだ。
今日は生徒会室に入って来たときから意気消沈した様子だった。
いつものように、
「雅治、いる?」
と訪ねて来たのに、雅治がいないことを知るとホッとした顔をした。
「あれ、週末、雅治の家に泊まりに行ったんでしょ?なのにどうして、そんな顔してるの。はじめてのセックス、どうだった?」
「してねーよ」
晶の答えに驚きながら、覚はいつもの席に晶を座らせて、お茶とお菓子を提供したのだった。
「それで、どうして、お泊まりまでして、してないの?雅治と喧嘩でもしたの?」
晶は首を振る。
「……喧嘩とかじゃ、ない。その、緊張したって…言うか…」
「はあ?緊張って、なにがあったのか詳しく教えてよ」
「詳しくって、言われても……」
雅治の家に泊まった夜。
ほんのちょっと触られたくらいで、あっという間にイッてしまい、雅治の手と、自分が履いていたパンツとパジャマのズボンを汚した。
汚れたパンツとパジャマは雅治がドラム式洗濯機で洗濯してくれた。
洗濯と乾燥が終わるのを、雅治の母親が用意してくれた布団に入って待っていたら、うっかり寝てしまった。
寝るつもりはなかったのだ。
だけど、多分、陽に当ててくれたのだろう、布団があまりにもふかふかで気持ちよく、なまじ家から自分の枕なんか持参したものだったから、すとんと、気持ち良く眠ってしまった。
「オレ、先に寝ちゃったんだよね…」
あっという間に自分だけイッてしまった部分は端折って、晶は言った。
「えっ?!好きな人と、はじめて結ばれるって夜に、先に寝ちゃうなんて、信じられないよ。ねえ、晶、君と雅治の間にはなにか問題があるんじゃないかな。自分の心に正直になって、さあ、話してごらん」
覚はまるで恋愛カウンセラーみたいなことを言って、晶の目をじっと覗きこむ。
「問題…?」
そう言われると、そうなのかもしれない。
雅治と、する。
セックスする。
身体を、繋げる。
もちろん、したい。
したいけど、怖い。
なにが、心に引っかかっているのか、晶は覚の言うように、自分の心に正直になって考えた。
「雅治は、まだオレのことを好きじゃないと思う」
「え?」
覚は晶の言葉に驚いた。
「そんなはずないよ。雅治が君のことを見る目ったらもう、可愛くてしょうがないって感じじゃないか」
「そうかなあ。だって雅治は全然、緊張もしないし、余裕があるっていうか」
「あ、わかった。彼、もしかして下手なの?」
「ちげーよ。逆!うますぎて、なんか…さ…」
「よく、わからないね。何が問題なのか」
「だってオレ、好きな男とするの、はじめてだから…」
頬を赤らめて、俯いてそういう晶に、覚の胸はきゅんとした。
百戦錬磨の魔性の男と思っていた名取晶に、こんな純情な一面があったとは!
むしろ、これが晶のオソロシイところかもしれない。
魅力に底がない。
「だけど、雅治は君のこと好きだと思うよ。いくら雅治だって、好きでもない男としようとは思わないんじゃないかなあ」
「でも、雅治はゲイじゃないだろ。興味本位で男とやってみたいってノーマルな男は結構、いるんだ。オレ、雅治と付き合うことになったときは、それでもいいって思ったんだけど…」
覚は自分自身も、晶に恋愛感情抜きで、性的な興味があることを認めているので、晶の言うことも、もっともだと思えた。
だいたい雅治は、今まで付き合った女の子にも、本気ではなかった。
雅治は恋をしないタイプだと、思っていた。
ということは雅治は、興味本位で晶と寝てみたいだけ、なのだろうか。
「そういえば晶、上級生に人気あったもんね。サッカー部のキャプテンとか、剣道部の南條先輩とか。もしかして、口説かれてた?」
「まあね。雅治と付き合ってなかったら、オレ、南條先輩と付き合っていたかもしれない。別に、先輩のこと好きなわけじゃないけど、嫌いでもないし、ルックスはいいし」
「恋じゃなくても、いいの?」
「オレだって、やりたい盛りの高校生だぜ?自分で抜くばっかじゃ、つまんねーし」
露骨に堂々とそんなことを言うくせに、好きな男とは出来ないと悩む。
晶の持つアンバランスさに、覚は翻弄された。
「多分、だけどさ、セックスって、好きじゃない男とするほうが、簡単だって気がする。おまえとかとなら、すぐ出来そう」
「えっ、ちょっと、ヤダ、それ本気にするよ?僕としてみる?晶」
鼻の下を伸ばして嬉しそうに、覚が言う。
「やめとく。面倒くさそうだし」
「期待させるなっ!もうお菓子、食べさせないからね」
マカロンの乗ったお皿を取り上げられて、晶は「もう一個だけ、くれよ」と手を伸ばした。
二人が子供のようにお菓子の奪い合いをしていると、生徒会室に雅治が入っていた。
「晶、ここにいたのか。ちょっとだけ待ってくれる?少し仕事片付けるから」
「お、おう。オレ、先に行って校門の前で待ってるな」
そう言うと晶はそそくさと生徒会室を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、覚は雅治に言った。
「雅治、名取晶と遊ぶだけのつもりなら、やめた方がいいよ。晶は、君が今まで付き合っては捨ててきた女の子たちとは全然、違う。もしかしたら君の人生を変えちゃうかもしれない。それくらいパワーがある」
雅治は呆れたような顔で言った。
「なんだそれ、予言か?」
そう、それは紛れもない予言だったのだ。
「これはピエール・ドゥ・エメリ・パリのマカロンだよ。紅茶はデメアティーハウスのイングリッシュブレックファースト 。セイロンとアッサムのコクのある味わいを楽しんでね」
「いちいちうるせえよ。どうせ覚えられないから、黙って食わせろ」
晶はマカロンを両手に一個ずつ持って、立て続けに4個、平らげた。
いかにもやけ食い、といったふうだ。
今日は生徒会室に入って来たときから意気消沈した様子だった。
いつものように、
「雅治、いる?」
と訪ねて来たのに、雅治がいないことを知るとホッとした顔をした。
「あれ、週末、雅治の家に泊まりに行ったんでしょ?なのにどうして、そんな顔してるの。はじめてのセックス、どうだった?」
「してねーよ」
晶の答えに驚きながら、覚はいつもの席に晶を座らせて、お茶とお菓子を提供したのだった。
「それで、どうして、お泊まりまでして、してないの?雅治と喧嘩でもしたの?」
晶は首を振る。
「……喧嘩とかじゃ、ない。その、緊張したって…言うか…」
「はあ?緊張って、なにがあったのか詳しく教えてよ」
「詳しくって、言われても……」
雅治の家に泊まった夜。
ほんのちょっと触られたくらいで、あっという間にイッてしまい、雅治の手と、自分が履いていたパンツとパジャマのズボンを汚した。
汚れたパンツとパジャマは雅治がドラム式洗濯機で洗濯してくれた。
洗濯と乾燥が終わるのを、雅治の母親が用意してくれた布団に入って待っていたら、うっかり寝てしまった。
寝るつもりはなかったのだ。
だけど、多分、陽に当ててくれたのだろう、布団があまりにもふかふかで気持ちよく、なまじ家から自分の枕なんか持参したものだったから、すとんと、気持ち良く眠ってしまった。
「オレ、先に寝ちゃったんだよね…」
あっという間に自分だけイッてしまった部分は端折って、晶は言った。
「えっ?!好きな人と、はじめて結ばれるって夜に、先に寝ちゃうなんて、信じられないよ。ねえ、晶、君と雅治の間にはなにか問題があるんじゃないかな。自分の心に正直になって、さあ、話してごらん」
覚はまるで恋愛カウンセラーみたいなことを言って、晶の目をじっと覗きこむ。
「問題…?」
そう言われると、そうなのかもしれない。
雅治と、する。
セックスする。
身体を、繋げる。
もちろん、したい。
したいけど、怖い。
なにが、心に引っかかっているのか、晶は覚の言うように、自分の心に正直になって考えた。
「雅治は、まだオレのことを好きじゃないと思う」
「え?」
覚は晶の言葉に驚いた。
「そんなはずないよ。雅治が君のことを見る目ったらもう、可愛くてしょうがないって感じじゃないか」
「そうかなあ。だって雅治は全然、緊張もしないし、余裕があるっていうか」
「あ、わかった。彼、もしかして下手なの?」
「ちげーよ。逆!うますぎて、なんか…さ…」
「よく、わからないね。何が問題なのか」
「だってオレ、好きな男とするの、はじめてだから…」
頬を赤らめて、俯いてそういう晶に、覚の胸はきゅんとした。
百戦錬磨の魔性の男と思っていた名取晶に、こんな純情な一面があったとは!
むしろ、これが晶のオソロシイところかもしれない。
魅力に底がない。
「だけど、雅治は君のこと好きだと思うよ。いくら雅治だって、好きでもない男としようとは思わないんじゃないかなあ」
「でも、雅治はゲイじゃないだろ。興味本位で男とやってみたいってノーマルな男は結構、いるんだ。オレ、雅治と付き合うことになったときは、それでもいいって思ったんだけど…」
覚は自分自身も、晶に恋愛感情抜きで、性的な興味があることを認めているので、晶の言うことも、もっともだと思えた。
だいたい雅治は、今まで付き合った女の子にも、本気ではなかった。
雅治は恋をしないタイプだと、思っていた。
ということは雅治は、興味本位で晶と寝てみたいだけ、なのだろうか。
「そういえば晶、上級生に人気あったもんね。サッカー部のキャプテンとか、剣道部の南條先輩とか。もしかして、口説かれてた?」
「まあね。雅治と付き合ってなかったら、オレ、南條先輩と付き合っていたかもしれない。別に、先輩のこと好きなわけじゃないけど、嫌いでもないし、ルックスはいいし」
「恋じゃなくても、いいの?」
「オレだって、やりたい盛りの高校生だぜ?自分で抜くばっかじゃ、つまんねーし」
露骨に堂々とそんなことを言うくせに、好きな男とは出来ないと悩む。
晶の持つアンバランスさに、覚は翻弄された。
「多分、だけどさ、セックスって、好きじゃない男とするほうが、簡単だって気がする。おまえとかとなら、すぐ出来そう」
「えっ、ちょっと、ヤダ、それ本気にするよ?僕としてみる?晶」
鼻の下を伸ばして嬉しそうに、覚が言う。
「やめとく。面倒くさそうだし」
「期待させるなっ!もうお菓子、食べさせないからね」
マカロンの乗ったお皿を取り上げられて、晶は「もう一個だけ、くれよ」と手を伸ばした。
二人が子供のようにお菓子の奪い合いをしていると、生徒会室に雅治が入っていた。
「晶、ここにいたのか。ちょっとだけ待ってくれる?少し仕事片付けるから」
「お、おう。オレ、先に行って校門の前で待ってるな」
そう言うと晶はそそくさと生徒会室を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、覚は雅治に言った。
「雅治、名取晶と遊ぶだけのつもりなら、やめた方がいいよ。晶は、君が今まで付き合っては捨ててきた女の子たちとは全然、違う。もしかしたら君の人生を変えちゃうかもしれない。それくらいパワーがある」
雅治は呆れたような顔で言った。
「なんだそれ、予言か?」
そう、それは紛れもない予言だったのだ。
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