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【番外編】恋かもしれない(高校生編Ⅱ)
4.お泊り
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週末、雅治の家を訪ねた晶は、Tシャツとジーンズという、ごく普通のファッションだった。
ありがたいことにオシャレなヤンキースタイルは地元限定らしい。
ただし、上着は派手目なスカジャンだ。
「晶、何持って来たの、それ」
「何って、お泊まりセットだよ」
大きなスポーツバックに驚いて聞いた雅治に答えて、言う。
「パジャマとか、明日着る服とか、あとオレ、枕が変わると寝られないから、枕も持って来た」
「枕って、晶は寝るつもりなのか?オレは一晩中、起きてる予定だけど」
雅治がそう言うと、晶は顔を赤らめた。
その顔を見て雅治はくすくす笑う。
「おまえ、オレをからかってるだろっ!バカバカ、雅治のバカ!」
スポーツバックを地面に落として、雅治の胸を叩きながら言う。
「ごめん。晶、ごめんって」
じゃれ合いながら、もつれるように家の中に入り、リビングのソファーに二人で倒れ込んだ。
勢いで、雅治の上に晶が覆い被さる体勢になってしまったが、こんなに接近したのは久しぶりだ。
男同士の高校生カップルは、付き合っているとはいっても、一緒に下校するくらいが精一杯で、人前では手も繋げない。
休みの日にも会うが、高校生の分際ではホテルの敷居は高すぎて、デートといっても男友達と遊んでいるのと変わらなかった。
他人の目のない場所で、二人きりになったことすら、久しぶりだった。
「晶、キスしよっか」
下から、晶の耳の脇の髪に触れながら、雅治が言った。
「う、うん」
晶はゆっくり、顔を近づけた。
瞳はまだ、開いたまま。
雅治も、晶を見ている。
視線の交差で気持ちを高めるように。
唇に吐息が触れた。
それだけで甘い微熱を感じる。
あと1センチで唇と唇が重なる。
そのとき、
「雅治、玄関にあるスポーツバック、おまえのか」
と声が聞こえた。
晶と雅治は、転がるようにソファーから降りて、立ち上がった。
「あれ、兄貴。帰り、早くない?」
「お、お邪魔してます」
晶は直立不動の姿勢で、挨拶した。
目の前には、どことなく雅治に面差しの似た、真面目を絵に描いたような青年。
しかし、兄弟というには年が離れすぎているように見える。
「雅治のご学友ですか。雅治が家に友人を連れてくるなんて、珍しい。よほど親密に付き合っていただいているんですね。ああ、申し遅れました。わたしは、雅治の兄の、貴幸と申します」
貴幸は、言いながら晶に歩み寄り、右手を差し出した。
握手?
晶は、戸惑いながらも握手に答えながら言う。
「オレは名取晶、といいます、です」
「近くで御尊顔を拝見すると、晶くんは随分、美少年ですね」
貴幸は、まじまじと晶の顔を見つめながら言った。
「び、美少年?」
握った手を離せなくて晶が困っていると、雅治が「いい加減に手を離せ」と言ってくれた。
「これは失礼。ところで雅治、夕飯はどうする?寿司の出前でもとるか?」
「いや、適当になんか作るよ。冷蔵庫見たら、結構、食材揃ってたし」
「雅治、料理なんか出来るのか」
晶が聞くと、貴幸が答えた。
「雅治は器用でいろんなことをそつなくこなすんですよ。料理の腕もなかなかのもんです。楽しみにしてください」
「なに勝手にハードルあげてるんだよ」
雅治が言って、晶と貴幸は笑った。
和やかな雰囲気のまま、男三人で、食卓を囲んだ。
貴幸の言った通り、雅治が手早く作ったパスタとスープの夕食は、美味しかった。
「うんめえ、ほんとにすげえウマいよ、雅治。うちのマサコが作るパスタより全然ウマい!雅治は料理人になるのか?」
「え?料理人」
「それはいい。雅治、この際、一流シェフを目指したら、どうだ」
貴幸が可笑しそうに言った。
冗談を言ったつもりはなかったので、晶は何が可笑しいのかわからなかった。
不思議そうな顔をしている晶に、説明するように貴幸が言う。
「雅治は法律家を目指しているんですよ」
「法律家って?」
「弁護士とか、検事とか裁判官とか。おそらく、雅治は弁護士志望だと思います。ちなみに私も法科で学んでいます」
「えっ?!」
晶は驚いた。
「貴幸さん、って、大学生なのか?オレはてっきり、会社員かと思った。それも係長とか課長とか」
雅治は爆笑した。
「兄貴は老けて見えるからな」
楽しい団欒だった。
ありがたいことにオシャレなヤンキースタイルは地元限定らしい。
ただし、上着は派手目なスカジャンだ。
「晶、何持って来たの、それ」
「何って、お泊まりセットだよ」
大きなスポーツバックに驚いて聞いた雅治に答えて、言う。
「パジャマとか、明日着る服とか、あとオレ、枕が変わると寝られないから、枕も持って来た」
「枕って、晶は寝るつもりなのか?オレは一晩中、起きてる予定だけど」
雅治がそう言うと、晶は顔を赤らめた。
その顔を見て雅治はくすくす笑う。
「おまえ、オレをからかってるだろっ!バカバカ、雅治のバカ!」
スポーツバックを地面に落として、雅治の胸を叩きながら言う。
「ごめん。晶、ごめんって」
じゃれ合いながら、もつれるように家の中に入り、リビングのソファーに二人で倒れ込んだ。
勢いで、雅治の上に晶が覆い被さる体勢になってしまったが、こんなに接近したのは久しぶりだ。
男同士の高校生カップルは、付き合っているとはいっても、一緒に下校するくらいが精一杯で、人前では手も繋げない。
休みの日にも会うが、高校生の分際ではホテルの敷居は高すぎて、デートといっても男友達と遊んでいるのと変わらなかった。
他人の目のない場所で、二人きりになったことすら、久しぶりだった。
「晶、キスしよっか」
下から、晶の耳の脇の髪に触れながら、雅治が言った。
「う、うん」
晶はゆっくり、顔を近づけた。
瞳はまだ、開いたまま。
雅治も、晶を見ている。
視線の交差で気持ちを高めるように。
唇に吐息が触れた。
それだけで甘い微熱を感じる。
あと1センチで唇と唇が重なる。
そのとき、
「雅治、玄関にあるスポーツバック、おまえのか」
と声が聞こえた。
晶と雅治は、転がるようにソファーから降りて、立ち上がった。
「あれ、兄貴。帰り、早くない?」
「お、お邪魔してます」
晶は直立不動の姿勢で、挨拶した。
目の前には、どことなく雅治に面差しの似た、真面目を絵に描いたような青年。
しかし、兄弟というには年が離れすぎているように見える。
「雅治のご学友ですか。雅治が家に友人を連れてくるなんて、珍しい。よほど親密に付き合っていただいているんですね。ああ、申し遅れました。わたしは、雅治の兄の、貴幸と申します」
貴幸は、言いながら晶に歩み寄り、右手を差し出した。
握手?
晶は、戸惑いながらも握手に答えながら言う。
「オレは名取晶、といいます、です」
「近くで御尊顔を拝見すると、晶くんは随分、美少年ですね」
貴幸は、まじまじと晶の顔を見つめながら言った。
「び、美少年?」
握った手を離せなくて晶が困っていると、雅治が「いい加減に手を離せ」と言ってくれた。
「これは失礼。ところで雅治、夕飯はどうする?寿司の出前でもとるか?」
「いや、適当になんか作るよ。冷蔵庫見たら、結構、食材揃ってたし」
「雅治、料理なんか出来るのか」
晶が聞くと、貴幸が答えた。
「雅治は器用でいろんなことをそつなくこなすんですよ。料理の腕もなかなかのもんです。楽しみにしてください」
「なに勝手にハードルあげてるんだよ」
雅治が言って、晶と貴幸は笑った。
和やかな雰囲気のまま、男三人で、食卓を囲んだ。
貴幸の言った通り、雅治が手早く作ったパスタとスープの夕食は、美味しかった。
「うんめえ、ほんとにすげえウマいよ、雅治。うちのマサコが作るパスタより全然ウマい!雅治は料理人になるのか?」
「え?料理人」
「それはいい。雅治、この際、一流シェフを目指したら、どうだ」
貴幸が可笑しそうに言った。
冗談を言ったつもりはなかったので、晶は何が可笑しいのかわからなかった。
不思議そうな顔をしている晶に、説明するように貴幸が言う。
「雅治は法律家を目指しているんですよ」
「法律家って?」
「弁護士とか、検事とか裁判官とか。おそらく、雅治は弁護士志望だと思います。ちなみに私も法科で学んでいます」
「えっ?!」
晶は驚いた。
「貴幸さん、って、大学生なのか?オレはてっきり、会社員かと思った。それも係長とか課長とか」
雅治は爆笑した。
「兄貴は老けて見えるからな」
楽しい団欒だった。
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