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【超番外編】東京ミスティ2
前編
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新宿2丁目にあるそのバーのママは界隈の同種類の店の中ではとびきり美しいと評判だ。
年の頃は三十代はんば、黒い髪を結い上げ、藍染の着物姿が馴染んでいて、今時銀座でもお目にかかれないような品格がある。
東大医学部卒業という才媛で話題も豊富な上、話術も巧みだった。
元男の美人ママ目当てというわけではないが、女気のない店で気軽に酒が飲めるという理由で、ひょんなことで一度来て以来、気がつくと常連になっていた高谷である。
「あれ、あんたは?!」
その店に来るきっかけになった小田切晶と再会したのは、偶然というよりは必然だったかもしれない。
カウンターの端で一人で飲んでいた高谷俊介の隣に、晶は腰掛けた。
「なんでいるワケ?もしかして、ハマっちゃった?」
高谷とカウンターの中のママの顔を交互に見ながら聞くと、高谷は「そんなところだ」と言って苦笑して見せた。
「あれから雅治にはちょっかいだしてないよね?」
「あの先生には、あんまり活躍して欲しくないな。出来ればテレビの仕事に専念して欲しいと、伝えてくれ」
「それって、雅治が優秀で手強いって意味?」
高谷は肯定するように、苦笑したあとて、言った。
「今度、敵対したときは容赦しない」
「ハッ!そんな脅しには乗らないよ」
「随分強気だな」
「オレ知ってるもん、ヤクザは一般人には手を出さない。だろ?」
「任侠映画の見過ぎだ」
言われて、そのとおりだったので晶は顔を赤らめた。
「だけど、高谷さん、全然怖くないし。っていうかむしろすっげえカッコいい」
「光栄だね」
「ねえ、独身でしょ?恋人はいんの?」
興味津々というように晶が聞くと、ママが微笑しながら言った。
「いやね、晶ちゃんったら。こんな素敵な男性に恋人がいないわけないでしょう」
口許だけで笑いながらグラスを傾ける高谷は否定しないことで肯定しているようだった。
「つまんねーの」
「自分だって素敵な旦那様がいるくせに。いい加減にその悪い癖、直しなさいな」
ママに窘められて晶は舌を出した。
そのとき、
「あれ、晶じゃん。久しぶりー!」
入り口から入ってきた茶髪ロン毛のサーファー風の男が声をあげて近づいてきた。
「いやなのに見つかった」
ため息を吐きながら、晶は呟いた。
「夜遊びなんかしてていいのォー?旦那にチクるぞ」
「ほっとけよ」
男は晶の側に来てカウンターに凭れ、ニヤニヤ笑いながら言葉を続ける。
「どうせ退屈してるんだろ?オレが遊んでやろうか。この前の続き、しようぜ」
「続きだア?バカかてめえ。あんときはおまえが無理矢理オレを押し倒したんだろッ!てめえみたいなクソ、趣味じゃねえんだよッ。キン蹴りされてまだ懲りてねえのか」
横で聞いていた高谷が声に出して豪快に笑った。
席を立ち精算を済ませ、店を出て行こうとする。
晶はいかにも約束が出来上がっていたかのように、ごく自然に高谷の後を追った。
「晶、帰っちゃうの?!」
「二度とオレの前に顔出すんじゃねえ」
晶は振り返って、店内の男に冷たい一言を投げつけた。
外に出ると高谷はポケットから煙草を出して火をつける。
隣に立つ晶を見下ろして感心したように「モテるんだな」と言う。
「あんなヤツにモテても嬉しくねえよ。どうせなら、あんたにモテたい」
期待に満ちた目で見つめられ、高谷は愉快そうに目を細めている。
「まだ帰らないんでしょ?高谷さんの行くとこ、連れてってよ」
何事かを思案しているように黙り込んだ高谷は、「いいだろう」と言うや否や、晶の腰に腕を回した。
晶は「マジで?!」と叫んで、逞しい腕に自分の腕を絡めて高谷にしがみついた。
年の頃は三十代はんば、黒い髪を結い上げ、藍染の着物姿が馴染んでいて、今時銀座でもお目にかかれないような品格がある。
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元男の美人ママ目当てというわけではないが、女気のない店で気軽に酒が飲めるという理由で、ひょんなことで一度来て以来、気がつくと常連になっていた高谷である。
「あれ、あんたは?!」
その店に来るきっかけになった小田切晶と再会したのは、偶然というよりは必然だったかもしれない。
カウンターの端で一人で飲んでいた高谷俊介の隣に、晶は腰掛けた。
「なんでいるワケ?もしかして、ハマっちゃった?」
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「それって、雅治が優秀で手強いって意味?」
高谷は肯定するように、苦笑したあとて、言った。
「今度、敵対したときは容赦しない」
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「いやね、晶ちゃんったら。こんな素敵な男性に恋人がいないわけないでしょう」
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「つまんねーの」
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横で聞いていた高谷が声に出して豪快に笑った。
席を立ち精算を済ませ、店を出て行こうとする。
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「まだ帰らないんでしょ?高谷さんの行くとこ、連れてってよ」
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