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【番外編】恋の運命(大学生編)
12【完】この恋の運命
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100Mを全力疾走したようなセックスをしたあと、雅治は腕の中に晶を抱いて、何か言いたそうな、困ったような顔をしている。
熱くなり過ぎた自分を持て余しているようにも見えた。
「晶……」
「ねえ、雅治。もう1回出来る?」
晶は雅治が言おうとしていた言葉を遮って、雅治の顔を指で触りながら、言った。
「もう1回?」
「うん。シャワー浴びてキレイになってから、もう1回しよ?今度はもっとゆっくり。いろんなとこに触って、身体中、舐めっこして、気持ちよくなろう」
「晶、オレ、性急だったよな。ごめん、痛かったか?」
晶は首を振った。
「すげえ、感じた。ヨカッタんだ、実は」
「本当に?」
「うん。だって、オレもいっぱい出しただろ。おまえの腹についてる」
言いながら、「ほら、ここ。ぬるぬる」と臍に触ってくる晶の手首を掴んで「くすぐったいだろ、やめろよ」と雅治は笑った。
「雅治が、オレのこと欲しがってくれて、オレは嬉しかったけど、雅治は、伊勢谷さんに妬いただけ?」
晶は雅治にそう聞いた。
1時間前、このホテルで伊勢谷と一緒にベッドに入ってすぐに泣き出し、いつまで立っても泣きやまない晶に、伊勢谷は、晶をベッドに座らせて、横に並んで腰かけ、宥めるように「彼のどこが好きなの」と聞いた。
「充分に愛されてるようには見えないのに」と。
晶はヒクヒクと泣きながら「どこって…カオ」と答えてまた泣いた。
「か、顔って。それだけ?」
晶は泣きながら首を振って「ちが…、カラダも…」と付け加える。
「顔とカラダが好きなの?」
呆れたような伊勢谷の顔を見て、晶は嗚咽を漏らした。
「…ちが…う、全部っ、雅治の全部が好き。うっううう…、うわーん」
伊勢谷は深い溜息を吐いて、晶の頭を大きな手で撫でた。
「君みたいな子は本当はうんと年上の男と付き合えば良かったんだ。甘やかされて愛されていれば、寂しい想いをしなくてもすんだのに。だけど、同じ年の恋人と一緒に成長して、二人で恋を育てるっていう方法もある。君が本当は彼を独占したいように、彼も君を独占したいと思っているかもしれないよ。やきもちなんか、妬くに決まってるじゃないか。オレとこんなところに二人きりでいたって知ったら、一晩中、離してもらえないんじゃないか」
伊勢谷はそう言って晶を慰めた。
その言葉を思い出した晶は、雅治に、今までになかったくらい激しく求めたのは、伊勢谷に対する嫉妬のせいかと聞いたのだ。
雅治は顔を歪めた。
「晶…」
名前を呼んで、晶の額の前髪をかき分け、そこに口づける。
「オレはね、本当はとてつもなくエゴイストで、欲深くて、独占欲の強い男なんだ。だけど、晶と付き合うようになって変わったつもりでいた。晶はオレと同じ男で、束縛なんか出来ないってわかっていたし、そんなこと、したくもなかった。だけど、本当はね」
やるせない溜息を吐いて、雅治は晶を自分の方に引き寄せて抱きしめた。
「晶を、誰にも渡したくない。どうでもいいなんて、思ってない。どうしようもなく、自分のものにしたいと思ってる」
その言葉は「愛している」と言われるよりも、晶の心を強く揺さぶった。
「雅治…」
夢見心地で雅治の身体を抱きしめ返す晶は、この恋の運命を、悟った。
***
「ねえ、なんで急に僕と寝る気になったの」
大学生には不相応な都心の一流ホテルのダブルベッドで、ぐったりと横になっている晶に、そう聞いたのは青山覚だった。
「おまえって見かけによらず、タフだったんだな…」
晶は恨めしそうに、涼しい顔をしてルームサービスのメニューに目を通している覚を見上げた。
「君は予想通り、最高に美味だったよ。ごちそうさまでした」
うつ伏せの晶のこめかみにチュッとキスをして「さあ、早くシャワー浴びて来なよ。食事頼むから」と言う。
「わかったよ」
そう言って晶がベッドから這い出ようとすると、覚は手首を掴んだ。
「それで、さっきの質問の答えは?」
「おまえの言うとおりだと思ったから。手当たり次第に浮気してたら、すぐに雅治の耳に入るだろ?だから、バレないようにこれからは浮気相手は厳選しようと思ったんだ」
晶はしれっと答えた。
「それだけ?」
「誰にも渡したくないって、雅治が言ってくれた」
「へえ、雅治、そんな恥ずかしいこと言っちゃったんだ。それなのに、君は平気で彼を裏切るんだね」
「おまえ、わかってないな。浮気なんて、束縛されてこそ、する意味があるんじゃねえか。ご自由にどーぞ、なんて言われてするのはムナシイだけだろ」
「変な理屈」
「なんでもいいの!オレは雅治のものだけど、雅治は当分、オレの相手ばかりしてられないから、試験が終わるまでは、オレは適当に欲求不満を解消するしかないってわけ。だけど、いいか、覚。雅治が試験に受かったら、オレはもう正真正銘、雅治だけのものになるんだから、おまえとはそれまでの間、遊んでやるだけだからな。そこんとこ、よーく、覚えとけよ」
「それまで二人の恋愛が続いていれば、でしょ」
「オレたちは絶対に続く」
「なにその自信。運命とか赤い糸とか言わないでよ、バカバカしい」
晶は一瞬考えて、言った。
「運命的な恋というより、それがこの恋の運命だから」
ティーンエイジャーの夢見る乙女のようなことを真顔で言った晶を、なぜか覚は冷やかすことが出来なかった。
それどころか、あやうく一瞬感動を覚えた。
少し前、恋人以外の男の前で淫らに足を広げ、快楽を貪るために思うさま腰を振った男とはとても思えない、恋の運命を信じるピュアな魂に。
油断すると、晶にはつい魅かれてしまう。
晶と寝ることを遊びと割り切ることは、意外に難しいかもしれないと、覚は少しだけ不安を覚えた。
浴槽に向かって歩き出した晶は、ふと思い出したように振り返って付け足した。
「それともうひとつ、絶対に、雅治にバレんじゃねーぞ」
愛人1号は外国人みたいに肩をすくめた。
「その件は自分の身のために、肝に命じてるよ。ご心配なく」
晶が消えたあと、恋の運命か、と口に出してみる。
きっとその運命を側にいて見届けることになる自分を憐れみながら。
■おわり■
熱くなり過ぎた自分を持て余しているようにも見えた。
「晶……」
「ねえ、雅治。もう1回出来る?」
晶は雅治が言おうとしていた言葉を遮って、雅治の顔を指で触りながら、言った。
「もう1回?」
「うん。シャワー浴びてキレイになってから、もう1回しよ?今度はもっとゆっくり。いろんなとこに触って、身体中、舐めっこして、気持ちよくなろう」
「晶、オレ、性急だったよな。ごめん、痛かったか?」
晶は首を振った。
「すげえ、感じた。ヨカッタんだ、実は」
「本当に?」
「うん。だって、オレもいっぱい出しただろ。おまえの腹についてる」
言いながら、「ほら、ここ。ぬるぬる」と臍に触ってくる晶の手首を掴んで「くすぐったいだろ、やめろよ」と雅治は笑った。
「雅治が、オレのこと欲しがってくれて、オレは嬉しかったけど、雅治は、伊勢谷さんに妬いただけ?」
晶は雅治にそう聞いた。
1時間前、このホテルで伊勢谷と一緒にベッドに入ってすぐに泣き出し、いつまで立っても泣きやまない晶に、伊勢谷は、晶をベッドに座らせて、横に並んで腰かけ、宥めるように「彼のどこが好きなの」と聞いた。
「充分に愛されてるようには見えないのに」と。
晶はヒクヒクと泣きながら「どこって…カオ」と答えてまた泣いた。
「か、顔って。それだけ?」
晶は泣きながら首を振って「ちが…、カラダも…」と付け加える。
「顔とカラダが好きなの?」
呆れたような伊勢谷の顔を見て、晶は嗚咽を漏らした。
「…ちが…う、全部っ、雅治の全部が好き。うっううう…、うわーん」
伊勢谷は深い溜息を吐いて、晶の頭を大きな手で撫でた。
「君みたいな子は本当はうんと年上の男と付き合えば良かったんだ。甘やかされて愛されていれば、寂しい想いをしなくてもすんだのに。だけど、同じ年の恋人と一緒に成長して、二人で恋を育てるっていう方法もある。君が本当は彼を独占したいように、彼も君を独占したいと思っているかもしれないよ。やきもちなんか、妬くに決まってるじゃないか。オレとこんなところに二人きりでいたって知ったら、一晩中、離してもらえないんじゃないか」
伊勢谷はそう言って晶を慰めた。
その言葉を思い出した晶は、雅治に、今までになかったくらい激しく求めたのは、伊勢谷に対する嫉妬のせいかと聞いたのだ。
雅治は顔を歪めた。
「晶…」
名前を呼んで、晶の額の前髪をかき分け、そこに口づける。
「オレはね、本当はとてつもなくエゴイストで、欲深くて、独占欲の強い男なんだ。だけど、晶と付き合うようになって変わったつもりでいた。晶はオレと同じ男で、束縛なんか出来ないってわかっていたし、そんなこと、したくもなかった。だけど、本当はね」
やるせない溜息を吐いて、雅治は晶を自分の方に引き寄せて抱きしめた。
「晶を、誰にも渡したくない。どうでもいいなんて、思ってない。どうしようもなく、自分のものにしたいと思ってる」
その言葉は「愛している」と言われるよりも、晶の心を強く揺さぶった。
「雅治…」
夢見心地で雅治の身体を抱きしめ返す晶は、この恋の運命を、悟った。
***
「ねえ、なんで急に僕と寝る気になったの」
大学生には不相応な都心の一流ホテルのダブルベッドで、ぐったりと横になっている晶に、そう聞いたのは青山覚だった。
「おまえって見かけによらず、タフだったんだな…」
晶は恨めしそうに、涼しい顔をしてルームサービスのメニューに目を通している覚を見上げた。
「君は予想通り、最高に美味だったよ。ごちそうさまでした」
うつ伏せの晶のこめかみにチュッとキスをして「さあ、早くシャワー浴びて来なよ。食事頼むから」と言う。
「わかったよ」
そう言って晶がベッドから這い出ようとすると、覚は手首を掴んだ。
「それで、さっきの質問の答えは?」
「おまえの言うとおりだと思ったから。手当たり次第に浮気してたら、すぐに雅治の耳に入るだろ?だから、バレないようにこれからは浮気相手は厳選しようと思ったんだ」
晶はしれっと答えた。
「それだけ?」
「誰にも渡したくないって、雅治が言ってくれた」
「へえ、雅治、そんな恥ずかしいこと言っちゃったんだ。それなのに、君は平気で彼を裏切るんだね」
「おまえ、わかってないな。浮気なんて、束縛されてこそ、する意味があるんじゃねえか。ご自由にどーぞ、なんて言われてするのはムナシイだけだろ」
「変な理屈」
「なんでもいいの!オレは雅治のものだけど、雅治は当分、オレの相手ばかりしてられないから、試験が終わるまでは、オレは適当に欲求不満を解消するしかないってわけ。だけど、いいか、覚。雅治が試験に受かったら、オレはもう正真正銘、雅治だけのものになるんだから、おまえとはそれまでの間、遊んでやるだけだからな。そこんとこ、よーく、覚えとけよ」
「それまで二人の恋愛が続いていれば、でしょ」
「オレたちは絶対に続く」
「なにその自信。運命とか赤い糸とか言わないでよ、バカバカしい」
晶は一瞬考えて、言った。
「運命的な恋というより、それがこの恋の運命だから」
ティーンエイジャーの夢見る乙女のようなことを真顔で言った晶を、なぜか覚は冷やかすことが出来なかった。
それどころか、あやうく一瞬感動を覚えた。
少し前、恋人以外の男の前で淫らに足を広げ、快楽を貪るために思うさま腰を振った男とはとても思えない、恋の運命を信じるピュアな魂に。
油断すると、晶にはつい魅かれてしまう。
晶と寝ることを遊びと割り切ることは、意外に難しいかもしれないと、覚は少しだけ不安を覚えた。
浴槽に向かって歩き出した晶は、ふと思い出したように振り返って付け足した。
「それともうひとつ、絶対に、雅治にバレんじゃねーぞ」
愛人1号は外国人みたいに肩をすくめた。
「その件は自分の身のために、肝に命じてるよ。ご心配なく」
晶が消えたあと、恋の運命か、と口に出してみる。
きっとその運命を側にいて見届けることになる自分を憐れみながら。
■おわり■
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