チェリークール

フジキフジコ

文字の大きさ
上 下
73 / 105
【番外編】恋の運命(大学生編)

5.人生のプラン

しおりを挟む
伊勢谷の個展は古い洋風のアパートを改造したレンタルルームで開催されていた。
飾られていた写真は洒落たモダンな外観を裏切るような、暗い風景写真が多かった。
ほとんどは世界中の貧民街と、そこに住む人々の暮らしや日常を撮ったものだった。

「どう、面白かったかい」
普段と変わらない、カジュアルなジャケット姿で接客をしていた伊勢谷が晶に気づいて声をかける。
晶は正直に困った顔をした。
「伊勢谷さんがこういう写真を撮るとは知らなかった。オレが知ってるのとはえらい違い」
「コレだけじゃ、食っていけないからね」
笑っていいながら、晶の隣にいる雅治に目を向ける。
「晶君の友達かな。はじめまして、伊勢谷です」
「小田切です。凄いですね、圧倒されました。写真の個展と聞いたので、居間に飾れるような海や山の写真を想像してました」
「期待を裏切ってしまったかな」
「ええ、いい意味で」
そう言って、雅治は笑い、伊勢谷も笑った。
「この写真にはどんなメッセージがあるんですか」
「別に政治的な意味はないよ。写真は写真で真実を写すことしかできない。オレは報道カメラマンじゃないから、良くも悪くもこれで何かを変えようというつもりはないんだ」

雅治と伊勢谷が難しい話をはじめたので、晶は退屈になった。
それに気づいた伊勢谷に「奥にサンドイットや飲み物があるから、食べてきたら」と言われ、そうすることにした。

晶がいなくなってからしばらく、写真について雅治の質問に答えていた伊勢谷は、会話が途切れると不意に言った。
「晶君って、魅力のある子だね。彼が本気になれば、いいセンまでいくよ、きっと」
「いいセン、というのは?」
「芸能界とか、ま、そういう世界で」
「晶が、ですか」

雅治は意外なことを聞いたという表情で伊勢谷を見返した。
「もっとも本人にその気はなさそうだけど」
「でしょうね」
「オレが彼にすごく興味があるって言ったら、どうする?」
唐突に伊勢谷に言われて雅治は面食らった。
「あるんですか、晶に興味が」
「ないと言ったら嘘になる」
ニヤっと笑って言う伊勢谷を無表情で見つめ返して、雅治は嘆息した。
「オレにどうすると聞かれても困りますね。本人に言えばいいでしょう」
「ま、そのうちにね」
いかにも本気を冗談でカモフラージュして、挑発しているような口調だったが、雅治は表情を変えなかった。

「伊勢谷さんが撮った晶の写真を見ました。実はあれを見て、そんな気がしました」
「へえ、察しがいいんだね。それで、自分の恋人にちょっかい出そうとしてる男を牽制しに来たわけかい」
「そんなつもりはありません。オレは、晶を縛る気はない」
伊勢谷は唇の端だけを上げて、笑う。
「君たちは、自分たちが若すぎることを知ってるのかな。ベストの相手は他にいるかもしれないと思ってる。それでいて、今の恋も無難に続けようとしている。波風を立てないようにね」
雅治は意外なことを言われたという表情をした。
「そんなことは考えてません。ただ、自分の人生のプランも定まってないのに、自分以外の人間の人生に関わることなんか出来ないと思ってるだけです。それに、晶は…」
言いかけると、晶が歩いてくるのが目に入った。

雅治は言葉を飲み込んで、「伊勢谷さんの健闘を祈ります」と言った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...