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【番外編】恋の運命(大学生編)
5.人生のプラン
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伊勢谷の個展は古い洋風のアパートを改造したレンタルルームで開催されていた。
飾られていた写真は洒落たモダンな外観を裏切るような、暗い風景写真が多かった。
ほとんどは世界中の貧民街と、そこに住む人々の暮らしや日常を撮ったものだった。
「どう、面白かったかい」
普段と変わらない、カジュアルなジャケット姿で接客をしていた伊勢谷が晶に気づいて声をかける。
晶は正直に困った顔をした。
「伊勢谷さんがこういう写真を撮るとは知らなかった。オレが知ってるのとはえらい違い」
「コレだけじゃ、食っていけないからね」
笑っていいながら、晶の隣にいる雅治に目を向ける。
「晶君の友達かな。はじめまして、伊勢谷です」
「小田切です。凄いですね、圧倒されました。写真の個展と聞いたので、居間に飾れるような海や山の写真を想像してました」
「期待を裏切ってしまったかな」
「ええ、いい意味で」
そう言って、雅治は笑い、伊勢谷も笑った。
「この写真にはどんなメッセージがあるんですか」
「別に政治的な意味はないよ。写真は写真で真実を写すことしかできない。オレは報道カメラマンじゃないから、良くも悪くもこれで何かを変えようというつもりはないんだ」
雅治と伊勢谷が難しい話をはじめたので、晶は退屈になった。
それに気づいた伊勢谷に「奥にサンドイットや飲み物があるから、食べてきたら」と言われ、そうすることにした。
晶がいなくなってからしばらく、写真について雅治の質問に答えていた伊勢谷は、会話が途切れると不意に言った。
「晶君って、魅力のある子だね。彼が本気になれば、いいセンまでいくよ、きっと」
「いいセン、というのは?」
「芸能界とか、ま、そういう世界で」
「晶が、ですか」
雅治は意外なことを聞いたという表情で伊勢谷を見返した。
「もっとも本人にその気はなさそうだけど」
「でしょうね」
「オレが彼にすごく興味があるって言ったら、どうする?」
唐突に伊勢谷に言われて雅治は面食らった。
「あるんですか、晶に興味が」
「ないと言ったら嘘になる」
ニヤっと笑って言う伊勢谷を無表情で見つめ返して、雅治は嘆息した。
「オレにどうすると聞かれても困りますね。本人に言えばいいでしょう」
「ま、そのうちにね」
いかにも本気を冗談でカモフラージュして、挑発しているような口調だったが、雅治は表情を変えなかった。
「伊勢谷さんが撮った晶の写真を見ました。実はあれを見て、そんな気がしました」
「へえ、察しがいいんだね。それで、自分の恋人にちょっかい出そうとしてる男を牽制しに来たわけかい」
「そんなつもりはありません。オレは、晶を縛る気はない」
伊勢谷は唇の端だけを上げて、笑う。
「君たちは、自分たちが若すぎることを知ってるのかな。ベストの相手は他にいるかもしれないと思ってる。それでいて、今の恋も無難に続けようとしている。波風を立てないようにね」
雅治は意外なことを言われたという表情をした。
「そんなことは考えてません。ただ、自分の人生のプランも定まってないのに、自分以外の人間の人生に関わることなんか出来ないと思ってるだけです。それに、晶は…」
言いかけると、晶が歩いてくるのが目に入った。
雅治は言葉を飲み込んで、「伊勢谷さんの健闘を祈ります」と言った。
飾られていた写真は洒落たモダンな外観を裏切るような、暗い風景写真が多かった。
ほとんどは世界中の貧民街と、そこに住む人々の暮らしや日常を撮ったものだった。
「どう、面白かったかい」
普段と変わらない、カジュアルなジャケット姿で接客をしていた伊勢谷が晶に気づいて声をかける。
晶は正直に困った顔をした。
「伊勢谷さんがこういう写真を撮るとは知らなかった。オレが知ってるのとはえらい違い」
「コレだけじゃ、食っていけないからね」
笑っていいながら、晶の隣にいる雅治に目を向ける。
「晶君の友達かな。はじめまして、伊勢谷です」
「小田切です。凄いですね、圧倒されました。写真の個展と聞いたので、居間に飾れるような海や山の写真を想像してました」
「期待を裏切ってしまったかな」
「ええ、いい意味で」
そう言って、雅治は笑い、伊勢谷も笑った。
「この写真にはどんなメッセージがあるんですか」
「別に政治的な意味はないよ。写真は写真で真実を写すことしかできない。オレは報道カメラマンじゃないから、良くも悪くもこれで何かを変えようというつもりはないんだ」
雅治と伊勢谷が難しい話をはじめたので、晶は退屈になった。
それに気づいた伊勢谷に「奥にサンドイットや飲み物があるから、食べてきたら」と言われ、そうすることにした。
晶がいなくなってからしばらく、写真について雅治の質問に答えていた伊勢谷は、会話が途切れると不意に言った。
「晶君って、魅力のある子だね。彼が本気になれば、いいセンまでいくよ、きっと」
「いいセン、というのは?」
「芸能界とか、ま、そういう世界で」
「晶が、ですか」
雅治は意外なことを聞いたという表情で伊勢谷を見返した。
「もっとも本人にその気はなさそうだけど」
「でしょうね」
「オレが彼にすごく興味があるって言ったら、どうする?」
唐突に伊勢谷に言われて雅治は面食らった。
「あるんですか、晶に興味が」
「ないと言ったら嘘になる」
ニヤっと笑って言う伊勢谷を無表情で見つめ返して、雅治は嘆息した。
「オレにどうすると聞かれても困りますね。本人に言えばいいでしょう」
「ま、そのうちにね」
いかにも本気を冗談でカモフラージュして、挑発しているような口調だったが、雅治は表情を変えなかった。
「伊勢谷さんが撮った晶の写真を見ました。実はあれを見て、そんな気がしました」
「へえ、察しがいいんだね。それで、自分の恋人にちょっかい出そうとしてる男を牽制しに来たわけかい」
「そんなつもりはありません。オレは、晶を縛る気はない」
伊勢谷は唇の端だけを上げて、笑う。
「君たちは、自分たちが若すぎることを知ってるのかな。ベストの相手は他にいるかもしれないと思ってる。それでいて、今の恋も無難に続けようとしている。波風を立てないようにね」
雅治は意外なことを言われたという表情をした。
「そんなことは考えてません。ただ、自分の人生のプランも定まってないのに、自分以外の人間の人生に関わることなんか出来ないと思ってるだけです。それに、晶は…」
言いかけると、晶が歩いてくるのが目に入った。
雅治は言葉を飲み込んで、「伊勢谷さんの健闘を祈ります」と言った。
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