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【番外編】恋の運命(大学生編)
3.二十歳の誕生日
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翌日、飲み過ぎたせいで昼過ぎまで寝ていた晶は「雅治君が来てるわよ」と真佐子に起こされた。
痛む頭を押さえながら階下に下りると、雅治は真佐子に盛大に持て成されていて、テーブルに山のように並んだクッキーやらマドレーヌやらに困惑していた。
「どうしたんだよ、急に…」
「携帯に電話したけど、おまえ出ないから」
真佐子がキッチンから花瓶を持って出てきて「雅治君からいただいたのよ。素敵でしょう」と晶に見せる。
鼻先まで甘い香りが届いた。
真紅の薔薇をメインにした豪華な花束が花瓶に納まっていた。
「なに、その花」
「なにって、あなた今日誕生日じゃないの!こんなに素敵なお花をもらっておいて、もうこの子は…。雅治君にちゃんとお礼言いなさいよ」
「え?マジで?!オレに?!」
てっきり自分の誕生日のことなど忘れられていると思っていた晶は簡単に感激した。
「オレ、二日酔いでちょっと頭痛くて…風呂入ってくるからさ、雅治は部屋で待ってて」
シャワーを浴びて自室に戻ると、雅治はテーブルの上に置いてあった写真を見ていた。
「これ、どうしたの」
「あ?没写真を貰ったんだ。いらないって言ったんだけど」
「良く撮れてるのに没なんだ。確かに雑誌に載ってるいつもの写真とは、雰囲気が違うな」
「違うって、雅治そんなの、見たことあんの?」
「なんで?勿論、晶の載ってる雑誌は買ってるし、見てるよ」
「ウッソ、マジで?!」
「当たり前だろ。気になるし。ウチの家族はみんなおまえのファンなんだ。みんながそれぞれ買ってくるんでウチには同じ雑誌が何冊もある」
そう言って雅治は笑った。
久しぶりに晶は気分が昂揚した。
3年も付き合っていると、普段の生活で改めて気持ちを確かめ合うこともないので、恋人が自分のことを気にかけてくれているとわかるだけで素直に嬉しい。
「だけど雅治はオレの写真なんか見る必要ないだろ。だって本物がここにいるじゃん?」
言いながら、雅治の膝の上に座り、首に腕を回す。
「雑誌でオレのこと見ることしか出来ないヤツとは違う。なんでも出来るし?こんなこととか」
言いながら、唇に触れるだけのキスをした。
「もっといろんなことだって。ね、今から、する?風呂入ったから、オレ、キレイだよ?どこもかしこもピッカピカ、今すぐ食べられる」
「オレはシャワー浴びてないし」
「どうせ、朝、浴びたんだろ。だって雅治、いい匂いがするじゃん」
鼻先を雅治の首筋に押しつけて、晶はうっとりと雅治を見上げた。
「雅治の匂い嗅いだら、勃っちゃった」
「バーカ、下にお母さんがいるだろ」
クスクス笑いながらそう言う雅治のポロシャツのボタンを外し、ベッドに押し倒した。
「大丈夫、声、出さないようにする」
「本当に?晶、そう言って必ず出すじゃん」
「出さないって」
軽い静止を聞き入れず、晶は雅治の頬や首にキスを落としていく。
「これじゃあ、なんかオレが晶にヤラれちゃうみたいだ」
自分に馬乗りになっている晶の腰を両手で掴んで、雅治は晶が下になるように態勢を変えた。
キスをするために近づいた唇が寸前で止まる。
「エアコン効き過ぎてない?温度、少し上げる?」
雅治が聞いた。
「いいよ、どうせすぐに熱くなるんだから」
「それもそうだな」
見つめ合って微笑んで、キスをしながらお互いの身体を抱きしめあった。
言った通り、裸になっても少しも寒くなどならなかった。
抱き合ったあと、雅治が「誕生日プレゼント」と言って、晶に免許証を見せた。
「マジで?!いつ取ったんだよ。教習所に通ってるなんて、おまえ、そんなこと全然言わなかったじゃん!」
「驚かそうと思って、内緒にしてたんだ。親父が頭金を貸してくれるって言うから、車、買おうと思ってる」
「すげー!」
晶ははしゃいで、雅治の首に抱きついた。
「で、なに買うんだよ?クーペにしろよ。アウディとか、ジャガーとか」
「ばか、買えるわけないだろ。国産車でいいよ」
「じゃあ、マツダのRX-8は?!」
「悪くないな。けど、三菱のGTOも捨てがたい」
「GTOなら赤にしろよ!絶対赤!」
「やだよ、そんな派手な車」
「じゃあ、青!真っ青にしろよ!買ったらすぐ、ドライブ連れてけよ!」
興奮した晶が体重をかけたせいで、二人は抱き合ったまま、再びベッドに転がった。
額をくっつけて、笑いあう。
そのまま、車の話で盛り上がったあと、急に雅治が腕の中の晶の顔を覗き込むように、言った。
「晶、最近、忙しくてなかなか会えなくてごめん」
「なんだよ、悪いって自覚あるのか。だったらもっと会えるように時間作れよ」
「そうしたいけど、当分、こんな調子だと思うんだ」
「来年試験受けるからか?」
試験というのは司法試験のことだ。
今年2年の雅治は、司法試験を受けるために必要な単位を習得出来る。
3年で司法試験を受けるのは、大学に入る前から決めていた。
「ま、そういうこと。勉強しないで合格出来るほど甘くないだろ」
晶は不満そうに雅治を見上げた。
「なんで雅治はそんなに急ぐんだよ。司法試験なんて、卒業してからだって受けられるだろ」
「確かにちょっと急ぎ過ぎてるって自覚はある。でも、誰でもそうじゃないか。目の前に目標があれば一刻も早く達成したいし、それに、人間は誰だって人より先を行きたいと思うもんだろ。理屈じゃなくて、生きるってことは、そういうもんじゃない?」
「そうかなあ」
「じゃあ、晶は何のために生きてるんだ」
「そんなの決まってる」
てっきり難問に根をあげると思った雅治の予想に反して、晶は明解に答えた。
「生きるのが楽しいからじゃん」
雅治は虚を突かれたような顔で晶を見つめて、そして爆笑した。
「晶らしいな」
ぎゅっと強く抱きしめて、晶の耳元で言った。
「オレは時々、おまえがすごく眩しくなるよ」
痛む頭を押さえながら階下に下りると、雅治は真佐子に盛大に持て成されていて、テーブルに山のように並んだクッキーやらマドレーヌやらに困惑していた。
「どうしたんだよ、急に…」
「携帯に電話したけど、おまえ出ないから」
真佐子がキッチンから花瓶を持って出てきて「雅治君からいただいたのよ。素敵でしょう」と晶に見せる。
鼻先まで甘い香りが届いた。
真紅の薔薇をメインにした豪華な花束が花瓶に納まっていた。
「なに、その花」
「なにって、あなた今日誕生日じゃないの!こんなに素敵なお花をもらっておいて、もうこの子は…。雅治君にちゃんとお礼言いなさいよ」
「え?マジで?!オレに?!」
てっきり自分の誕生日のことなど忘れられていると思っていた晶は簡単に感激した。
「オレ、二日酔いでちょっと頭痛くて…風呂入ってくるからさ、雅治は部屋で待ってて」
シャワーを浴びて自室に戻ると、雅治はテーブルの上に置いてあった写真を見ていた。
「これ、どうしたの」
「あ?没写真を貰ったんだ。いらないって言ったんだけど」
「良く撮れてるのに没なんだ。確かに雑誌に載ってるいつもの写真とは、雰囲気が違うな」
「違うって、雅治そんなの、見たことあんの?」
「なんで?勿論、晶の載ってる雑誌は買ってるし、見てるよ」
「ウッソ、マジで?!」
「当たり前だろ。気になるし。ウチの家族はみんなおまえのファンなんだ。みんながそれぞれ買ってくるんでウチには同じ雑誌が何冊もある」
そう言って雅治は笑った。
久しぶりに晶は気分が昂揚した。
3年も付き合っていると、普段の生活で改めて気持ちを確かめ合うこともないので、恋人が自分のことを気にかけてくれているとわかるだけで素直に嬉しい。
「だけど雅治はオレの写真なんか見る必要ないだろ。だって本物がここにいるじゃん?」
言いながら、雅治の膝の上に座り、首に腕を回す。
「雑誌でオレのこと見ることしか出来ないヤツとは違う。なんでも出来るし?こんなこととか」
言いながら、唇に触れるだけのキスをした。
「もっといろんなことだって。ね、今から、する?風呂入ったから、オレ、キレイだよ?どこもかしこもピッカピカ、今すぐ食べられる」
「オレはシャワー浴びてないし」
「どうせ、朝、浴びたんだろ。だって雅治、いい匂いがするじゃん」
鼻先を雅治の首筋に押しつけて、晶はうっとりと雅治を見上げた。
「雅治の匂い嗅いだら、勃っちゃった」
「バーカ、下にお母さんがいるだろ」
クスクス笑いながらそう言う雅治のポロシャツのボタンを外し、ベッドに押し倒した。
「大丈夫、声、出さないようにする」
「本当に?晶、そう言って必ず出すじゃん」
「出さないって」
軽い静止を聞き入れず、晶は雅治の頬や首にキスを落としていく。
「これじゃあ、なんかオレが晶にヤラれちゃうみたいだ」
自分に馬乗りになっている晶の腰を両手で掴んで、雅治は晶が下になるように態勢を変えた。
キスをするために近づいた唇が寸前で止まる。
「エアコン効き過ぎてない?温度、少し上げる?」
雅治が聞いた。
「いいよ、どうせすぐに熱くなるんだから」
「それもそうだな」
見つめ合って微笑んで、キスをしながらお互いの身体を抱きしめあった。
言った通り、裸になっても少しも寒くなどならなかった。
抱き合ったあと、雅治が「誕生日プレゼント」と言って、晶に免許証を見せた。
「マジで?!いつ取ったんだよ。教習所に通ってるなんて、おまえ、そんなこと全然言わなかったじゃん!」
「驚かそうと思って、内緒にしてたんだ。親父が頭金を貸してくれるって言うから、車、買おうと思ってる」
「すげー!」
晶ははしゃいで、雅治の首に抱きついた。
「で、なに買うんだよ?クーペにしろよ。アウディとか、ジャガーとか」
「ばか、買えるわけないだろ。国産車でいいよ」
「じゃあ、マツダのRX-8は?!」
「悪くないな。けど、三菱のGTOも捨てがたい」
「GTOなら赤にしろよ!絶対赤!」
「やだよ、そんな派手な車」
「じゃあ、青!真っ青にしろよ!買ったらすぐ、ドライブ連れてけよ!」
興奮した晶が体重をかけたせいで、二人は抱き合ったまま、再びベッドに転がった。
額をくっつけて、笑いあう。
そのまま、車の話で盛り上がったあと、急に雅治が腕の中の晶の顔を覗き込むように、言った。
「晶、最近、忙しくてなかなか会えなくてごめん」
「なんだよ、悪いって自覚あるのか。だったらもっと会えるように時間作れよ」
「そうしたいけど、当分、こんな調子だと思うんだ」
「来年試験受けるからか?」
試験というのは司法試験のことだ。
今年2年の雅治は、司法試験を受けるために必要な単位を習得出来る。
3年で司法試験を受けるのは、大学に入る前から決めていた。
「ま、そういうこと。勉強しないで合格出来るほど甘くないだろ」
晶は不満そうに雅治を見上げた。
「なんで雅治はそんなに急ぐんだよ。司法試験なんて、卒業してからだって受けられるだろ」
「確かにちょっと急ぎ過ぎてるって自覚はある。でも、誰でもそうじゃないか。目の前に目標があれば一刻も早く達成したいし、それに、人間は誰だって人より先を行きたいと思うもんだろ。理屈じゃなくて、生きるってことは、そういうもんじゃない?」
「そうかなあ」
「じゃあ、晶は何のために生きてるんだ」
「そんなの決まってる」
てっきり難問に根をあげると思った雅治の予想に反して、晶は明解に答えた。
「生きるのが楽しいからじゃん」
雅治は虚を突かれたような顔で晶を見つめて、そして爆笑した。
「晶らしいな」
ぎゅっと強く抱きしめて、晶の耳元で言った。
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