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【番外編】恋するチェリーボーイ
前編
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小田切智哉はこの春中学3年生に進級した。
年齢で言えば14歳である。
彼は2人の兄が卒業した私立の男子校付属中学に通っている。
女子のいない気安さで、休み時間の教室ではエロ話が声高に語られていた。
今も窓際で固まった5、6人の男子が、昨夜めでたく童貞を卒業したというバレー部の林を囲んで、芸能レポーター並のしつこさで詳細を聞き出そうとしている。
そんなクラスメートの様子を眺めて、智哉は「はーーーーあ」と悩ましげなため息を吐いた。
「どうしたんだよ、智哉。ため息なんかついて。宿題忘れたのか?写させてやってもいいぜ」
智哉の前の席に後ろ向きに座り、そう声をかけたのは幼馴染みの南里翔平だった。
「違う、羨ましいんだ、林が」
「なーに言ってんだ。おまえだって相手さえ選ばなきゃ、童貞なんかすぐに卒業出来るだろ。いい加減、兄嫁のことは諦めたらどうだ」
幼馴染みだけあって翔平は智哉の不毛な片思いのことも承知している。
「他の相手ならともかく、敵が悪過ぎる。おまえの兄貴、今年も"抱かれたい弁護士ナンバー1"に選ばれてたじゃん」
「なんだよ、そのランキング」
なかなか面白いと思って言った冗談を軽く流されて、翔平は真顔になって智哉を心配した。
「相当、煮詰まってるな。いいか智哉、犯罪だけは犯すなよ?裁判官になれなくなるからな?」
「なれなくてもいいもん。晶としたい!童貞捨てたいっ!」
「わかった、わかったから、物騒なこと叫ぶな。野郎どもがおまえの声に興奮しちゃってるだろ。よし、昼休みに西園寺呼んで、3人で作戦会議しよ?な?」
クラスの違うもう一人の幼馴染みの名前を出して、翔平が言った。
***
「不可能だ。二人の相性はありえないくらい、ぴったりだ。智哉の付け入る余地はない」
昼休みの屋上。
西園寺裕はクールな無表情で、言い放った。
黒縁の眼鏡ときっちり分け目を作った髪形のせいで、中学生というよりは公務員のように見えるが、古風な顔立ちはよく見るとかなり整っている。
翔平もあっさりしたショウユ顔の美男子で、智哉を含めた三人組は他校の女生徒にも名前を知られ、ファンが多い。
「どういうイミだよ」
ショックで言葉を失っている智哉の代わりに、翔平が聞く。
「あの二人の相性はどんな占いでも最高の相性と出る。ケチのつけようがない。趣味や性格がどんなに違っていても上手くいく、奇跡の組み合わせだ」
「そんな~」
やっと智哉がそう声を漏らした。
家が神社で、将来は稼業を継いで神主になる予定の西園寺は、占いを趣味にしている。
占星術から手相顔相、星占い血液型診断まで、ありとあらゆる占いを研究していた。
落ち込む智哉を気の毒そうに見て翔平が「なあ、なんとかならねえの?」と西園寺に詰め寄る。
「実は、ないこともない」
もったいぶってそう言いながら西園寺はカバンの中から畳んだ紙を取り出した。
それを、智哉と翔平の前に広げる。
「な、なんだよ、これ」
「休み時間にOA室のパソコン借りて、印刷しておいたんだ」
A3はある大きな紙は、晶の顔のアップの写真だった。
「で、これがなんなんだ?」
「晶さんの顔相には、多淫の卦が出てる」
準備の良さに驚く二人を無視し、西園寺は晶の顔の上にマジックで点と線を書き込みながら、
「まず晶さんの顔の一番の特徴はこのバッチリしたアーモンド型の大きな目だ。こういう目の形の人は自分の利益のためには手段を選ばない強欲なタイプで、大きな目は社交的で明るく開放的な性格で純粋な正直者であることを示している。そしてこの上がり眉は、いつでも自分が注目されていないと気がすまない気質だ。全体的に、同性にも異性にも異常にモテる相、まさに魔性の相だ」と、晶の顔相を説明した。
「ところで占いには関係ないが、晶さんの目鼻口の配置と距離の比率は大変素晴らしい。オレのコンピューターで美人度を測ったら限りなく100%に近かった」
「美人度?なんだ、それ」
「顔相をコンピュータで診断するためにオレが作ったソフトの遊びツールさ」
「へえ、なあオレはオレは?」
「翔平は80%弱。ちなみにオレも翔平とほぼ同じだった」
「80%かよ」
「平均よりは随分いい方だ」
「智哉は?」
「智哉は93%で、智哉の兄貴の雅治さんは97%だった」
「兄貴より下かよ!」
膨れる智哉を「まあまあ」と宥めながら、翔平が西園寺に「それでそのタインのケっていうのはなんだよ」
「ズバリ、晶さんは淫乱だ。スキモノ、というやつだ」
「い、いんらん?!す、すきもの?!」
智哉と翔平は同時に声をあげて、顔を見合わせて赤くなった。
「今風に言うならセックス依存症だな。男なしでは生きていけない淫らなカラダだ。つまり、そこを狙えばいい」
「だけど、いくら晶さんがスキモノだとしても、中学生なんか相手にするかな」
「それが問題だな。占いでは晶さんと雅治さんはカラダの相性もいいみたいだし」
「うわーん!」
智哉は地面に突っ伏して泣き出した。
「泣くなよ。そうだ、智哉、おまえ、兄貴に家に泊めてくれって頼んでみろ。敵に勝つにはまずは敵を知ることだ。偵察に行こう。そして兄貴のテクを盗むんだ」
「なるほど、それしかないな」
要するに覗きをしよう、という意味なのだが、翔平と西園寺に「それしかない」と言われて、智哉は取り合えず頷いた。
年齢で言えば14歳である。
彼は2人の兄が卒業した私立の男子校付属中学に通っている。
女子のいない気安さで、休み時間の教室ではエロ話が声高に語られていた。
今も窓際で固まった5、6人の男子が、昨夜めでたく童貞を卒業したというバレー部の林を囲んで、芸能レポーター並のしつこさで詳細を聞き出そうとしている。
そんなクラスメートの様子を眺めて、智哉は「はーーーーあ」と悩ましげなため息を吐いた。
「どうしたんだよ、智哉。ため息なんかついて。宿題忘れたのか?写させてやってもいいぜ」
智哉の前の席に後ろ向きに座り、そう声をかけたのは幼馴染みの南里翔平だった。
「違う、羨ましいんだ、林が」
「なーに言ってんだ。おまえだって相手さえ選ばなきゃ、童貞なんかすぐに卒業出来るだろ。いい加減、兄嫁のことは諦めたらどうだ」
幼馴染みだけあって翔平は智哉の不毛な片思いのことも承知している。
「他の相手ならともかく、敵が悪過ぎる。おまえの兄貴、今年も"抱かれたい弁護士ナンバー1"に選ばれてたじゃん」
「なんだよ、そのランキング」
なかなか面白いと思って言った冗談を軽く流されて、翔平は真顔になって智哉を心配した。
「相当、煮詰まってるな。いいか智哉、犯罪だけは犯すなよ?裁判官になれなくなるからな?」
「なれなくてもいいもん。晶としたい!童貞捨てたいっ!」
「わかった、わかったから、物騒なこと叫ぶな。野郎どもがおまえの声に興奮しちゃってるだろ。よし、昼休みに西園寺呼んで、3人で作戦会議しよ?な?」
クラスの違うもう一人の幼馴染みの名前を出して、翔平が言った。
***
「不可能だ。二人の相性はありえないくらい、ぴったりだ。智哉の付け入る余地はない」
昼休みの屋上。
西園寺裕はクールな無表情で、言い放った。
黒縁の眼鏡ときっちり分け目を作った髪形のせいで、中学生というよりは公務員のように見えるが、古風な顔立ちはよく見るとかなり整っている。
翔平もあっさりしたショウユ顔の美男子で、智哉を含めた三人組は他校の女生徒にも名前を知られ、ファンが多い。
「どういうイミだよ」
ショックで言葉を失っている智哉の代わりに、翔平が聞く。
「あの二人の相性はどんな占いでも最高の相性と出る。ケチのつけようがない。趣味や性格がどんなに違っていても上手くいく、奇跡の組み合わせだ」
「そんな~」
やっと智哉がそう声を漏らした。
家が神社で、将来は稼業を継いで神主になる予定の西園寺は、占いを趣味にしている。
占星術から手相顔相、星占い血液型診断まで、ありとあらゆる占いを研究していた。
落ち込む智哉を気の毒そうに見て翔平が「なあ、なんとかならねえの?」と西園寺に詰め寄る。
「実は、ないこともない」
もったいぶってそう言いながら西園寺はカバンの中から畳んだ紙を取り出した。
それを、智哉と翔平の前に広げる。
「な、なんだよ、これ」
「休み時間にOA室のパソコン借りて、印刷しておいたんだ」
A3はある大きな紙は、晶の顔のアップの写真だった。
「で、これがなんなんだ?」
「晶さんの顔相には、多淫の卦が出てる」
準備の良さに驚く二人を無視し、西園寺は晶の顔の上にマジックで点と線を書き込みながら、
「まず晶さんの顔の一番の特徴はこのバッチリしたアーモンド型の大きな目だ。こういう目の形の人は自分の利益のためには手段を選ばない強欲なタイプで、大きな目は社交的で明るく開放的な性格で純粋な正直者であることを示している。そしてこの上がり眉は、いつでも自分が注目されていないと気がすまない気質だ。全体的に、同性にも異性にも異常にモテる相、まさに魔性の相だ」と、晶の顔相を説明した。
「ところで占いには関係ないが、晶さんの目鼻口の配置と距離の比率は大変素晴らしい。オレのコンピューターで美人度を測ったら限りなく100%に近かった」
「美人度?なんだ、それ」
「顔相をコンピュータで診断するためにオレが作ったソフトの遊びツールさ」
「へえ、なあオレはオレは?」
「翔平は80%弱。ちなみにオレも翔平とほぼ同じだった」
「80%かよ」
「平均よりは随分いい方だ」
「智哉は?」
「智哉は93%で、智哉の兄貴の雅治さんは97%だった」
「兄貴より下かよ!」
膨れる智哉を「まあまあ」と宥めながら、翔平が西園寺に「それでそのタインのケっていうのはなんだよ」
「ズバリ、晶さんは淫乱だ。スキモノ、というやつだ」
「い、いんらん?!す、すきもの?!」
智哉と翔平は同時に声をあげて、顔を見合わせて赤くなった。
「今風に言うならセックス依存症だな。男なしでは生きていけない淫らなカラダだ。つまり、そこを狙えばいい」
「だけど、いくら晶さんがスキモノだとしても、中学生なんか相手にするかな」
「それが問題だな。占いでは晶さんと雅治さんはカラダの相性もいいみたいだし」
「うわーん!」
智哉は地面に突っ伏して泣き出した。
「泣くなよ。そうだ、智哉、おまえ、兄貴に家に泊めてくれって頼んでみろ。敵に勝つにはまずは敵を知ることだ。偵察に行こう。そして兄貴のテクを盗むんだ」
「なるほど、それしかないな」
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