チェリークール

フジキフジコ

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本編

21.【精神科医】青山覚みたび③

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部屋に入ると、覚はすぐに晶を壁に押し付け両手首をホールドアップの形で拘束して、唇を重ねてきた。

「やだっ…あっ…さ、とる…」

ハイヒールのせいで足許のおぼつかない晶はろくな抵抗が出来ない。
舌の侵入を許し、半端に応じる格好になっている。
覚らしくない荒々しい口づけに、晶のペースは乱された。

「なんで…こんなこと…すんだよ」
唇が離れると、濡れた目で睨んだ。

覚は「ごめん」と謝って、至近距離で顔を覗いて、言う。
「君が、もう浮気しないなんて言うから」
「浮気は、しない。させるな」
「無理だよ。君の淫らな身体はね、一人の男では満足出来ないんだ。今だってほら、もう感じてる」

晶の脚の間に割り込ませた太腿を押しつけながら、その口調はまるで患者に病名を告げるような、感情を抑えて真実だけを伝える言い方だった。

晶は、絶望的な眼差しで覚を見つめた。
覚の言っていることは間違っていない。
着慣れない女物の服の下で、疼く身体をもう持て余している。

「…なんで…オレ、こんなカラダなんだろ」
愛する男がいて、愛されてもいて。
それなのに、目の前にぶら下がった美味しそうな快楽を拒むことが出来ない。

「晶、そんなこと言わないで。君が淫らだって言ったのは意地悪を言っただけだ」
覚は片手で晶の頬を大切なものを包むように、触った。
「僕を拒めないのはね、君が、僕のことを好きだからさ」

瞳の奥を覗きこんで、覚は言葉を繰り返した。
「僕のこと、好きなんだろ」

「…覚を?」
好きか嫌いかと言えば、勿論、嫌いじゃない。
長い間、覚とは秘密を共有している。
雅治さえ知らないことを覚は知っていて、それでいて胸の中に収め、時々は晶をからかうことも苛めることもあるけど、だいたいは共犯になってくれた。
覚は晶にとって、いつでも逃げ込めることの出来る居心地の良い隠れ家のような存在だ。

「好きだって言って…晶…」
いつになく真剣な表情の覚に懇願されるように言われて、晶は、思わず言った。

「好き…だ。覚が、好き。だけど…」
「ストップ」
覚は晶の言葉を遮るように、唇に人差し指を当てた。

「その先は聞きたくない。わかっているよ。僕は君にとっては、ワンオブゼムだ。でも、晶はいつだって、愛を返してくれた。僕が君を愛したとき、君も、僕を愛してくれたんだ」

覚の舌は、ゆっくり晶の首筋を這う。
晶はたまらず、「ああっ」と声を漏らした。

覚は晶の両手首を片手で拘束したまま、もう一方の手でドレスの上から弄るように、身体を触った。

薄い布越しの焦らされるような触れ方に、晶は立っているのが辛くなる。
股の間に、覚の足がなければ、とうに崩れ落ちていただろう。

ドレスの裾から忍ばせた手で太腿を撫でていた覚の手が、止まる。
「あれ、ガーターベルト?セクシーなものつけてるね。もしかして下着も女性用?」
「おまえ…の雇った…スタイリストに、…無理矢理、はかされたんだよっ…」
「いいじゃない、倒錯的で。僕は好きだよ、こういうの。晶も好きでしょ?こういうプレイも、僕のことも」

覚の左手はガーターのゴムを悪戯するように弾いたあと、女性用のショーツのわずかな生地の中で窮屈そうにしている膨らみを撫でた。

「言って、晶」
「好き…す…きっ…」
覚とセックスすることも、覚のことも。

覚の長い指が、ペニスに絡みついて淫らに動く。
その指は、どんなふうにすれば、このペニスが悦ぶか、知っている。

「…はあっ…覚…もう、無理…」
「イキたいの?」
耳の中で囁かれて、晶はこくんと頷いた。

覚は拘束していた晶の両手を離して跪くと、晶が履いていたハイヒールを脱がせた。

「そのまま、立っていてね」
そう言うと、晶のドレスの中に頭を入れて、ショーツからはみ出して勃起しているペニスに舌を這わせた。

「あっ!さ、覚!あっ、ああっん!」

品の良い桜貝色のドレスの裾に潜り込んだ覚に、壁に持たれて立ったままフェラされている。
覚の姿はドレスに隠れて見えない。
確かに、クラクラするような倒錯的シチュエーションだ。

舌で表面を味わうように舐められたあと、口の中に含まれて強く吸われ、晶はあっけなく、弾けた。

精を放って脱力し、ずるずると崩れた晶を、覚は抱きとめて言った。
「晶、君を抱きたい。抱いても、いい?」

晶は、覚の首に腕を回して、甘えたように「うん」と言った。



***



ベッドの上で、覚はいつもよりうんと優しかった。
いつもはもっと意地悪で、欲しいところにくれなかったり、さんざん焦らしたりするのに、甘ったるい愛撫は、晶の望みのままに与えられた。
女を抱くように抱かれているみたいで、晶は、覚はいつもこんなふうに女を抱くのかな、と思って、知らないその女に嫉妬した。

覚が抱く女に嫉妬するくらいには、やっぱり自分は覚のことを、それなりに、好きなのだろうと思った。

覚は、ドレスもガーターベルトも、ショーツさえ脱がせてくれない。
乳首を舐めるために、肩紐を肩から外されただけだ。

覚も、ジャケットこそ脱いでいるが、白いシャツの胸元のボタンをいくつか外したくらいで、アスコットタイがまだ、首にぶら下がっている。
晶を攻めるうちに、綺麗に整髪された前髪が額に落ちて、少しだけ乱れたさまが、妙にエロい。

覚はうつ伏せにした晶のドレスの裾を巻くって、尻を露出させ、レースの縁取りのある白いショーツをずらして、アナルを指と舌で攻めた。

「あっ、ああっ!いいっ!気持ちいいっ…あんっ」

充分にほぐれた後孔に、ジェル付ゴムを被った覚のペニスが挿ってきた。
準備の良さに、晶は覚の計略にまんまと引っかかったことを頭の片隅で理解したが、もはや、どうでも良かった。

「ああっ、やっぱり、晶の中、最高だよ。気持ち、いい」
覚は、うっとりと言いながら、自身を抜き差しして、晶を味わう。

「オレも…気持ち…いいっ、あっ、やっ、覚…また、出ちゃう…出ちゃうよ…」
中から前立腺をほどよく刺激されて、晶のペニスは触られてないのに、放出したがってひくひくしている。

「一緒にいこう、晶」
腰の動きを早めながら、覚は晶のペニスを握った。
あやすようにゆっくりしごいて、自分がイキそうになると、絞り出すように強く握る。

「あっん!いくっ、いっちゃう!」
「僕も、もう…はあっ…」

ほとんど同時に放出した。



***



やっと、ドレスもガーターベルトもショーツも脱ぎ捨てて、シャワーを浴びてメイクも落とした。
晶は清々しい気分で、真っ裸でベッドに寝そべった。

シャワーブースから出てきた覚は、バスローブを着て、濡れた髪をタオルで拭きながら言った。
「あーあ、このドレス借り物だったのに」
床に、抜け殻のように放置されているドレスは、さっき、晶が大量に放出した体液で汚れていた。

「おまえが脱がさないから悪いんだろっ!」
晶は文句を言った。
「しょうがないから買い取って、晶にプレゼントするよ」
「いらねえよ!」

覚は、笑いながら晶の顔の側のベッド脇に腰掛けて、言った。
「これを着て、雅治に見せてあげたら?きっと盛り上がるよ」
「嫌だね!雅治には女装なんか、絶対に見られたくない」
「へえ、君たちってノーマルなプレイしかしないんだ。意外だなあ。イメクラって楽しいよ。そうだ、晶、今度は学生服着てよ。僕は先生役」
「おまえ、まじでやばくねえか?この変態医者!」
「わあ、酷いこと、言うなあ。許せない」

覚はそう言うと、ベッドに乗り上がって、晶の体をくすぐった。

「ばか、やめろよ!」

しばらく、ふざけてじゃれあって、笑いながら戯れのようにキスした。

気がすんだのか、覚は晶をくすぐるのをやめて、真上から顔を見つめて、言った。
「ねえ、晶。これからも、僕とこういう時間を持ってくれるよね」

そういえば、覚に「浮気はもうしない」と宣言したのだったと、晶は自分の言葉を思い出す。
結局、覚と楽しんでしまって、晶はバツが悪くて返事が出来なかった。
それを、晶の逡巡と感じたのか、覚は言葉を続ける。

「愛情にはかさがあるわけじゃないんだから、僕と情を交わしても、雅治への気持ちが減るものじゃないよ」
根拠のない説得も、覚が言うと論理的に聞こえる。
覚は案外、名医なのかもしれない。

「だけど、雅治にバレるかもしれない。なにしろ盗聴器しかけるヤツだぜ」
「もし、気づいても、雅治は晶に怒ったりしないよ。まあ、僕は軽く見積もっても殺されるだろうけどね。ははは」
「なんでそんなこと、覚が断言出来るんだよ」
「それを説明するのは難しい」

晶は、不満気に頬を膨らませて言った。
「雅治は、オレのことが重荷なんだ。結婚したっていっても、オレは雅治の役に立てないし。こんなパーティだって他の女を連れてかなきゃならない。ま、どんな関係の女なのか、わかったもんじゃねえけど」

覚は、そっと晶の身体の上に重なって、慰めるように、髪を撫でた。

晶は、自分がどんなに雅治に想われているかを知らないのだと覚は思う。
いつも雅治が自分を想うより、自分の想いの方が強いと思い込んで寂しさを育てている。
だけど覚はそうは思わない。
雅治が晶と籍を入れる、しかも世間に公表すると言ったとき、覚は雅治の業の深さを知った気がした。
社会的ハンデを背負う格好で、雅治は古典的だが絶対的な方法で晶を自分のものにした。
晶が、雅治が自分のために犠牲を払ったのだと考えているなら、それは大きな間違いだ。

答えを待っている風情の晶に微笑んで、心の中だけで言ってみる。
きっといつか、近い将来、雅治は僕たちの手の届かないところに君をさらってしまうんだろうね。

「つまり、夫婦っていうのは、相手を許すことで成り立つ関係だからさ」
覚が、言葉にしたのはそんな平凡な台詞だった。
「結婚もしたことないくせに夫婦のことなんか語んな」
晶は真っ当な反論をしたあとで、思い出したように言った。
「そういえば、覚、おまえの見合い相手、とうとう現れなかったな」
「あ…そういえば。おかしいな」
「とぼけんな!おまえ、オレをハメたんだろっ。こんな格好させるために、話を作ったんだな」
「怒らないでよ。いいじゃない、それくらいつきあってくれても。晶の女装、ほんと最高だったよ。ね、もう一回、パンティはいてよ」
「ぜったい!やだっ!」

腕の中から逃れようとする晶の身体を、覚は笑いながら引き止めるように抱きしめた。










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