チェリークール

フジキフジコ

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本編

12.【マネージャー】浅倉慎太郎再び②

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「え?」
一瞬、晶と慎太郎は顔を見合わせた。

「だ、誰?誰が来たの、晶さん」
二人のしていることを咎めるように、もう一度高い音が鳴る。
慎太郎は晶の身体から飛び退いて怯えている。

「なにビビってんだよ、どうせセールスマンだろ」
「セ、セールスマンがこんな時間に来るかよっ」
慌てているわりに冷静なことを言う。
確かに夜中に訪ねてくる訪問販売員はいない。

「じゃあきっと悪戯だよ、ピンポンダッシュ。オレも時々やるし」
いい年してそんなことしてんじゃねえよ!
そんなツッコミをする余裕はない。
慎太郎は最悪のことを予想して言った。

「お、小田切先輩が帰ってきたんじゃないのっ?」
「まさか」
と言いながら、晶は仕方なく寝室の壁にかかったインターフォンの受話器を取った。

「誰?」
『オレ。寝てた?悪いな、鍵、事務所に置いてきたみたいで。開けて』
「ま、雅治?!ちょっと、待って」

受話器を置いて、晶は慎太郎を振り返った。
会話の内容ですべてを悟った慎太郎は震え上がっている。

「ど、ど、どうすんの!ぼ、僕、小田切先輩に殺されちゃうよ!」
すでに半泣き状態である。

「大袈裟なヤツだな。心配すんな、見つかったとしても半殺しくらで済むから」
少しも慰めになってないことを言われて、慎太郎はヘナヘナと床に座り込んだ。

「とりあえず慎太郎、おまえ、そこのクローゼットに隠れてろ。大丈夫だって、雅治が風呂入っている間に出て行けば見つからない」

確かに他に方法はなさそうだったので、慎太郎は大きな身体を丸めるように膝を折ってクローゼットの中に入った。
バスルームの脱衣所から慎太郎の服を持ってきた晶が、慎太郎に渡して「じゃあ、後でな」と言って扉を閉めた。
晶は、肌蹴たガウンの紐をしっかり結んで、玄関に向かった。
ドアを開ける前に慎太郎の靴を下駄箱に隠した。

「急にどうしたんだよ、出張は?」
「秘書が日程を間違えてたんだよ」

ふーん、と言いながら晶は雅治の着ていたコートを脱がせた。
バスルームを通り過ぎて真っ直ぐに寝室に歩いて行く雅治の背中に「雅治、風呂は?風呂入れよ」と声をかけたが、雅治は「事務所でシャワー浴びたからいいや」と言う。
「そ、そうなんだ」

こうなったら、いつものようにさっさと寝てもらうしか方法はなさそうだ。
寝室に入って、電気のスイッチを押そうとした雅治の手を慌てたように晶が止める。
部屋を明るくしたら、クローゼットの木目の隙間から慎太郎の姿が見えてしまうかもしれない。

「なに?」
「いや別に。もう寝るだけだから明るくする必要ないだろ」
「でも着替えらんないじゃん」
「オレが、する」
「なんで?」
「たまには、その、奥さんらしいことしたいじゃん?」

言って晶は、雅治が何か言う前にさっさと雅治のスーツの上着を脱がせ、ベッドの脇の椅子の背にかけて、ネクタイを外し、シャツのボタンに指をかけた。

薄暗闇の中、目を凝らしながら小さなボタンを外すのはなかなか難しくて、つい顔を近付けてしまう。
シャンプーの香りや、真剣にボタンを外す表情が、知らないうちに雅治を誘っているとは思ってもいなかった。

「晶?」
呼ばれて、見上げると、雅治は意味深な笑顔を見せた。

「なんか、気のせいかな、今日の晶、艶っぽいな」
トーンを落とした低い声で囁くようにそう言って、サラッと髪を撫でてくる雅治に晶は焦った。
誘っているつもりはないのに、どうやら雅治は晶の行動を勘違いしたらしい。

「もしかして晶、一人でシテたんじゃない?」
「…えっ!」

乱れたベッドに視線を向けて、クスッと笑って雅治が言う。
「だからそんなに色っぽいんだ。もしかして、まだイッてない?途中だった?」

これがクイズなら思いきり「惜しい!」と答えてやれるのだが、まさか「二人でしようとしてました」と正解を答えるわけにはいかないので、晶は「一人でシテいた」という雅治の推理を肯定するように頬を染めた。

「晶のエッチ。ねえ、どんなこと想像してシテたの?どんな風に。ん?」
なぜかウレシそうに言いながら雅治の手がさわさわと身体を撫でる。
マ、マジかよ?!

いつもだったら夫に求められて嬉しくないはずがないが、今夜はマズイ。
寝室のクローゼットの中には慎太郎がいるのだ。

「あの、ちょっと、小田切さん…?」

急に他人行儀に呼んでみたところでいったんその気になった雅治を止めるのは難しい。

さりげなく後ろにさがろうとしていた腰を掴まれて、ぐいと引き寄せられキスされた。
儀式のような軽い抵抗は、反対に雅治を煽ってしまった。
晶がボタンを外したシャツを床に脱ぎ捨てて上半身裸になった雅治は、ズボンのベルトを抜き取ると晶をベッドに押し倒した。

一方、クローゼットの中の慎太郎は「ひぃいいいい!」と声にならない悲鳴をあげていた。
冗談じゃないっ、こんなことになってもし見つかったらタダじゃすまないだろう。
本当に雅治に殺されるかもしれない。
まっ裸で膝を抱えてクローゼットの中にいる慎太郎には、もはや息を飲みながら祈ること以外に出来ることはなかった。

「ああっ!…ちょ、ま…あっ…、あん…やぁ…」

あれよあれよという間に、ガウンを剥ぎ取られ裸にされる。
慎太郎によってすでに一度火のつけられたていた身体は、簡単にまた情欲に飲まれてしまう。
右手で身体を撫でながら、顔中にキスされる。

「一人でシタときも、ここ、触ったの?」
そんな風に聞きながら乳首をきゅっきゅっと抓られる。

「や…あっん!」
声を上げながら、晶はヤケくそでコクンと頷く。

「でも、こういうことは出来なかっただろ?」
そう言って乳首を舌でいたぶられる。
「…はぁ…あ、いい…、あん…」

ピチャピチャと乳首を舐めながら雅治の右手が股間で元気になっているそれを握る。
自慰をするときのように軽く握って上下に擦られる。
「ここを、自分の手でこんな風に触ったんだ?」

どうやら雅治は晶のオナニーを想像して興奮しているらしい。
晶は調子を合わせるように「やだっ…恥ずかしい」と、雅治の言葉攻めに恥らう素振をしながら煽る。
煽るのはマズイ、止めなければいけない、そう思うのだがつい習性でしてしまう。

「自分でスルのとしてもらうのと、どっちが気持ちいい?」
「雅治が…気持ちいい…雅治に、シテもらうの」
「そう、一人だとこういうことできないもんな」
雅治は、身体をズラして、晶の臍の下を舐めた。

「あ…、あん…まさはる…」
なんでそんな半端なところを舐めるのか。
どうせなら、もう少し、あとほんの少し下で、天を向いて勃起しているナニを舐めて欲しい。
思い切り、吸って欲しい。

欲望の赴くまま雅治の頭を自分の股間に押し付けようと、雅治の髪に指を絡め、上半身を少し起こした晶はぎょっとした。

ベッドの足元にあるクローゼットの木目の隙間から覗く慎太郎の目と視線があったのだ。
決して慎太郎の存在を忘れていたわけではなかったが、正直言って忘れる寸前だったので、驚いた。

慎太郎には悪いが、今更この状況を晶の力ではどうすることもできない。
このまま大人しく見物してもらうしか方法はなかった。

見られたって別に減るもんじゃないし。

そんな風に自分勝手に結論を出すと、晶は、他人に見られる、ということにいつもとは違う興奮を覚えた。
こんな濡れ場を、秘事を、セックスを、他人に見られている。

そうしているうちにも雅治の愛撫は内腿の微妙なところに到達する。

「あっ、あああ!」
雅治の舌が、しつこい程慎太郎に舐められたところを掠めて晶は一層高い声をあげた。

「おまえ、こんなとこも感じたっけ?」
意外そうにそう言って、雅治がそこをきつく吸い上げる。

「やだぁ…しんっ…まさはる!」
危うく慎太郎の名前を呼ぶところだった。
ふう、と息を吐いて、晶は誤魔化すように派手な喘ぎをあげた。
しかし作り物の喘ぎはすぐに本物に変わった。

「…ああん!そこばっか…やだぁ…触って、ちゃんと触って!…しゃぶってぇ……!」

叫びながら、このセリフは少し前にも言ったような気がする…と、晶の中で慎太郎との浮気未遂はすでにデジャブとして片付けられ、最中の雅治とのセックスに夢中になった。

一時間後-----。

クローゼットの中で息を殺して潜んでいた慎太郎は、やっと開いた扉にほっとする。
目の前のベッドでは、雅治がぐっすりと眠っていた。
慎太郎は恨めしそうな目で晶を見る。

「悪かったよ」
晶はしぶしぶのように謝った。
裸のまま自分の服を持って、晶の後について寝室を出た慎太郎は、晶にシャツを手渡した。

「なんだよ」
見ればそれはクローゼットの中にあった晶の買ったばかりのブランド物の白いシャツだった。
「汚しちゃった、ごめんね」
しばらく意味がわからなくてぽかんとしていた晶は、はっと思い当たって唇を噛んだ。
「おまえっ」
「しょうがないでしょ、あんなの見せられたら…僕、2回もイッちゃった」
慎太郎の報復にさすがの晶も返す言葉が見つからなかった。








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