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【番外編】楽園の果実(3P編)
【4】
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都会の夜景は天上の星よりも眩い。
甘いカクテルと窓から見える足下の煌きに酔ったように、目の端を染めて真理は横に座った馨に微笑みかけた。
「綺麗だな。馨はどうしてこんな店を知ってるの」
馨に連れられて来た、都心の高層ホテルのラウンジバー。
出かけようと言われたときは面倒がった真理だったが、静かで眺めのいい高級な店ですっかり寛いでいる。
「この前仕事の打ち合わせで、連れて来てもらったんだ。その時から今度は真理と一緒に来たいと思っていた」
いつでも君のことを考えている。
馨の微笑みには、そんな言葉が含まれている。
「でも、窓の外の夜景より、真理の方がよほど綺麗だよ」
髪に触れながら、目を細めて馨が言った。
「なに、言って…」
「その服も髪型も、すごく、似合う」
今夜の真理は、出かける前に、馨自身がコーディネイトした、光沢のある臙脂色の絹のシャツにシルバーのジャケットを着ている。
髪も、馨がセットした。
愛する者を自分好みの装いにする、それは馨の密かな楽しみだった。
「脱がせるのが惜しいね」
「馨!」
恥ずかしそうに俯いて、自分の髪を撫でる馨の手を払う。
馨はシャイな真理に苦笑して、耳元に顔を寄せ「そろそろ部屋に行こう」と囁いた。
飲みはじめてから少しして、「今夜はこのホテルに部屋をとってるから、泊まっていこう」と言われた。
珍しいとは思ったが、特に不審だとは思わなかった。
馨の後をついてエレベーターに乗り、数階下に降りた。
毛足の長い絨毯は靴音を消す。
確信のある迷いのない足取りで廊下を進む馨のあとを黙ってついていくと、馨が部屋の前で立ち止まった。
てっきりポケットからカードキイを出すのかと思っていたら、馨は部屋のドアをノックした。
「馨!なにしてるんだよ」
驚いて小さく叫ぶと、すぐに部屋のドアが内側から開く。
「遅せえ」
そう言ってそこに立っていたのは、真理のもう一人の恋人、不破尊だった。
***
「これ、どういうこと」
部屋の中に入った真理は、不破と馨の顔を交互に見て、説明を求める。
目尻の少し上がった大きな瞳が、騙されたことに憤っていた。
「や、オレたちって、二人でおまえのこと共有してるだろ。オレも馨も、気になるんだよ。自分以外に真理が抱かれるとき、どんな表情してんのかとか、さ。嫉妬、っていうの?やっぱ、あるから。それってさ、知らないからだと思うんだ。オレは、馨に抱かれている真理を知らない。馨はオレに抱かれるおまえを知らない。知っていれば、無闇に嫉妬しなくてすむんじゃないか。だからいっぺん、一緒に寝てみたらどうか…って」
「ふざけるな!」
「君に黙っていたことは謝るよ、真理、ごめん。だけど、わかって欲しいな、オレたちの気持ちも」
「馨……」
そう言われると、真理には言葉を返せない。
自分を共有させてしまっているのは自分の優柔不断が招いていることなのだ。
けれど。
ちらっと、開いた寝室の扉から見える大きなダブルベッドを見て、怖じ気づく。
三人で愛し合うなんて、そんな大胆で恥知らずな真似は出来ない。
拒絶しようとすると、背後から肩を抱かれた。
「不破?」
「真理、おまえは何も考えなくていいんだ。オレたちに任せて。そして、オレたちを、許して」
許して?
不破がどうしてそんなことを言うのか真理には理解出来ない。
不破にも馨にも罪はない。
自分だけに、それはあるのだ。
「真理…」
前からは馨が近づいてきて、戸惑っている真理の顔を両手で挟み、唇を重ねてきた。
驚いて避けようとしたが、背後から不破に身体を抱かれていて身動きが出来ない。
不破の腕に包まれたまま、馨に唇を弄られる。
無理強いされているのに等しいのに、唇に触れる馨の唇も舌もいつも通りに優しくて、つい状況を忘れて受け入れてしまう。
舌が口内に入ってきて絡まると、もう真理は抗うことが出来ない。
「…はっ…ん…ふぅ…」
背後から抱いている不破の手はジャケットの下に潜り、シャツの上から真理の身体を撫でる。
そうしながら、不破は真理の髪や耳朶に口づけた。
唇と身体と耳朶を一度に愛されて、今まで覚えのない感覚に真理の身体は戸惑いながらも確実に熱を高めていく。
濃厚になった馨とのキスの合間に、唇から漏れる短い呼吸には艶が滲んでいた。
そしてそんな真理の反応が、不破と馨を煽る。
「すげえ、今夜の真理、色っぽい……」
不破が耳の中に言葉を吹き込む。
「ねえ、抱いてもいい?オレと馨で、おまえのこと抱いても……」
頷くしかなかった。
こんな状況ではもう自分たちは引き返せない。
知らない世界に、踏み込むしかない。
甘いカクテルと窓から見える足下の煌きに酔ったように、目の端を染めて真理は横に座った馨に微笑みかけた。
「綺麗だな。馨はどうしてこんな店を知ってるの」
馨に連れられて来た、都心の高層ホテルのラウンジバー。
出かけようと言われたときは面倒がった真理だったが、静かで眺めのいい高級な店ですっかり寛いでいる。
「この前仕事の打ち合わせで、連れて来てもらったんだ。その時から今度は真理と一緒に来たいと思っていた」
いつでも君のことを考えている。
馨の微笑みには、そんな言葉が含まれている。
「でも、窓の外の夜景より、真理の方がよほど綺麗だよ」
髪に触れながら、目を細めて馨が言った。
「なに、言って…」
「その服も髪型も、すごく、似合う」
今夜の真理は、出かける前に、馨自身がコーディネイトした、光沢のある臙脂色の絹のシャツにシルバーのジャケットを着ている。
髪も、馨がセットした。
愛する者を自分好みの装いにする、それは馨の密かな楽しみだった。
「脱がせるのが惜しいね」
「馨!」
恥ずかしそうに俯いて、自分の髪を撫でる馨の手を払う。
馨はシャイな真理に苦笑して、耳元に顔を寄せ「そろそろ部屋に行こう」と囁いた。
飲みはじめてから少しして、「今夜はこのホテルに部屋をとってるから、泊まっていこう」と言われた。
珍しいとは思ったが、特に不審だとは思わなかった。
馨の後をついてエレベーターに乗り、数階下に降りた。
毛足の長い絨毯は靴音を消す。
確信のある迷いのない足取りで廊下を進む馨のあとを黙ってついていくと、馨が部屋の前で立ち止まった。
てっきりポケットからカードキイを出すのかと思っていたら、馨は部屋のドアをノックした。
「馨!なにしてるんだよ」
驚いて小さく叫ぶと、すぐに部屋のドアが内側から開く。
「遅せえ」
そう言ってそこに立っていたのは、真理のもう一人の恋人、不破尊だった。
***
「これ、どういうこと」
部屋の中に入った真理は、不破と馨の顔を交互に見て、説明を求める。
目尻の少し上がった大きな瞳が、騙されたことに憤っていた。
「や、オレたちって、二人でおまえのこと共有してるだろ。オレも馨も、気になるんだよ。自分以外に真理が抱かれるとき、どんな表情してんのかとか、さ。嫉妬、っていうの?やっぱ、あるから。それってさ、知らないからだと思うんだ。オレは、馨に抱かれている真理を知らない。馨はオレに抱かれるおまえを知らない。知っていれば、無闇に嫉妬しなくてすむんじゃないか。だからいっぺん、一緒に寝てみたらどうか…って」
「ふざけるな!」
「君に黙っていたことは謝るよ、真理、ごめん。だけど、わかって欲しいな、オレたちの気持ちも」
「馨……」
そう言われると、真理には言葉を返せない。
自分を共有させてしまっているのは自分の優柔不断が招いていることなのだ。
けれど。
ちらっと、開いた寝室の扉から見える大きなダブルベッドを見て、怖じ気づく。
三人で愛し合うなんて、そんな大胆で恥知らずな真似は出来ない。
拒絶しようとすると、背後から肩を抱かれた。
「不破?」
「真理、おまえは何も考えなくていいんだ。オレたちに任せて。そして、オレたちを、許して」
許して?
不破がどうしてそんなことを言うのか真理には理解出来ない。
不破にも馨にも罪はない。
自分だけに、それはあるのだ。
「真理…」
前からは馨が近づいてきて、戸惑っている真理の顔を両手で挟み、唇を重ねてきた。
驚いて避けようとしたが、背後から不破に身体を抱かれていて身動きが出来ない。
不破の腕に包まれたまま、馨に唇を弄られる。
無理強いされているのに等しいのに、唇に触れる馨の唇も舌もいつも通りに優しくて、つい状況を忘れて受け入れてしまう。
舌が口内に入ってきて絡まると、もう真理は抗うことが出来ない。
「…はっ…ん…ふぅ…」
背後から抱いている不破の手はジャケットの下に潜り、シャツの上から真理の身体を撫でる。
そうしながら、不破は真理の髪や耳朶に口づけた。
唇と身体と耳朶を一度に愛されて、今まで覚えのない感覚に真理の身体は戸惑いながらも確実に熱を高めていく。
濃厚になった馨とのキスの合間に、唇から漏れる短い呼吸には艶が滲んでいた。
そしてそんな真理の反応が、不破と馨を煽る。
「すげえ、今夜の真理、色っぽい……」
不破が耳の中に言葉を吹き込む。
「ねえ、抱いてもいい?オレと馨で、おまえのこと抱いても……」
頷くしかなかった。
こんな状況ではもう自分たちは引き返せない。
知らない世界に、踏み込むしかない。
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