HEAVENーヘヴンー

フジキフジコ

文字の大きさ
上 下
44 / 48
【番外編】楽園の果実(3P編)

【3】

しおりを挟む
真昼のリビングに、音量を絞ったクラシック音楽が流れている。
レースのカーテンが引かれた大きな窓から淡い光が室内を照らす。
ダイニングテーブルに置かれた籠の中の果物や、キッチンカウンターの上の一輪挿しの花瓶、アクリルの水槽の中で優雅に泳ぐ熱帯魚、なにもかもが幸福な家庭の象徴のような部屋。

ただ、ソファの上で、馨の膝の上に座った真理の声から漏れる、すすり泣きのような喘ぎ声だけが、明るい昼間のリビングルームにはそぐわない。
それを充分に承知している真理は、何度目かの抗議をした。

「…馨、や、だ…。部屋、明るすぎて恥ずかしい」
「誰も見てないよ」
「そういう問題じゃ…あっ…はぁ…ん」
膝の上に後ろ向きで座らされた真理の胸に、背後から馨の指が触れる。
シャツの裾から侵入した手は、真理の肌を直に撫で回している。
その指が乳首を掠めると、真理は声をあげずにいられない。

「んっ…」
「それで、不破はどうしたの?真理、ちゃんと言って」
耳の中に直接吹き込むように、優しい声で、囁く。
「ちゃんと話して、真理」
「馨…」

不破の部屋に行って戻ってくると、必ず馨は真理を抱きながら不破がその身体に何をしたかを言わせる。
嫉妬心からだろうかと思ったが、馨は少しも真理を責めない。
それどころか、真理が不破にされたことを正直に話すと、ご褒美のように快楽が与えられた。
そしてなぜか馨の腕に抱かれながら不破にされたことを口にする度に、真理の身体は悦びに震える。
倒錯的だと思いながら、真理はその快楽に慣らされていた。

「…んっ…不破ははじめ…オレの乳首ばっかを…弄って…」
「こんなふうに?」
「あっ…!やっ…もう、そこ…いやあ」
「不破にもそういうふうに言うの。不破は許してくれないでしょう」
真理は唇を噛んで頷いた。
「許して…くれない…お願いしないと…」
「真理はどんなふうに可愛くお願いするの」
「…やぁ、あ、あん…んっ…あぁ」
馨の舌は自白を促すように首筋を舐める。
その間も尖って敏感になった乳首を指で刺激するのをやめない。
「…し、下も触って…って」
「下?下ってどこのこと?」
真理は口を固く結んで、イヤイヤをする。
「言って、真理。言わないと、触ってあげられないよ」
「………××××」
恥ずかしいことを口にすることで、全身が火照る。
馨に触って貰うのを待っているそこは、すでに充分に存在感を示していた。

「よく言えました。触ってあげてるから、どこにあるのか、真理が教えて。オレの手をそこに、持っていって」
真理は自分の胸で遊ぶ馨の手を握って、部屋着にしているスウェットのズボンの上から自分の性器に触れさせた。

「はあん…」
馨の掌を上に置いただけでもう、滴が下着を濡らした感触があった。
早く馨の手で扱いて欲しくて、真理は上から握った馨の手を自分の股間に押し付けた。

「あっ…馨っ、早く…ここ…擦って」
「もうこんなに硬くなってる。早いね。不破はちゃんと愛してくれなかったの」
耳朶を舐めながら言って、馨は布越しに軽く、全体を撫でた。

「…あっ…、あん!もっと…馨…もっと強く」
布の上から撫でるだけの優しい刺激では物足りず、真理は馨の手を、自らスウェットのゴムの中に導いた。

下着の下に馨の手を入れ、ペニスに直接触らせる。
温かい大きな手に快楽の芯を包まれて満足気な吐息を吐き、顔だけで振り返り「キスして」と唇への愛撫も求める。

「真理は欲張りだね」
笑ってそう言いながらも、馨は欲望に正直になればなるほど、真理を愛しいと思う。
真理が満足するように、濃厚に舌を絡ませながら、右手で真理のペニスを揉んだ。

「…んっ…うんっ…はぁ…ん」
馨の膝の上で、快感を我慢出来ない真理は自然に腰を上下させている。
自ら快感を取り込もうとする姿は淫らだけども心を擽るように可愛い。

「真理、お尻少し持ち上げて、下、脱いじゃおうか」
「やっ…恥ずかしい」
「真理のここ、見たい。見せて…」

恥ずかしくて言葉で返事は出来ない。
振り返り、両手で馨の首にしがみついて腰を浮かせた真理の下着とスウェットを馨が脱がせた。
燦燦と陽光の注ぐ明るい部屋で、黒い陰毛や勃起した性器を晒されて他に誰も見ていないとわかっていても真理の身体が竦む。

「いや…馨…あんまりそこ見ないで」
「どうして。真理も見て。真理のここ、硬くて大きくなってる。先が濡れてるのはどうしたのかな」
内緒話をするように卑猥なことを囁く。

「いやだっ、恥ずかしい」
自分の性器を見てと言われて、逆に真理は目を背けるように馨の首に抱きついた。
「だめ、ちゃんと見て。真理が見ないと可愛がってあげない」
言いながら、先走りの液のぬめりを借りて先端を親指の腹でグリグリと刺激する。
「ひゃっ…あっ!」
「ほら、ここどうしてヌルヌルしているの。漏らしちゃったの」

真理はおどおどと、自分の股間を見た。
薄い茂みの下で固く勃ったものが馨の右手に握られ、紅色の先端をイヤらしく濡らしているさまは自分のだと思えないほど、淫らだった。

自分のそれを見ただけで身体中がカッと熱くなり、ドロッとまた先端から白いものが零れ、馨の指を濡らした。

「あっ…馨…」
「どんどん出てくるね、白いの。そんなに気持ちいい?」
「いいっ…気持ちいいっ…もっと…もっと触って」
「いいけど、真理はここよりイイところがあるでしょう」

ペニスを弄っていた手を、そこから下に潜り込ませるように馨は後ろの孔を探ってきた。
入り口を指の腹で幾度か撫でるだけで、愛撫に慣れたそこは収縮して馨の指を飲み込もうとする。
馨の膝の上で、真理の脚はそうしろと言われてもいないのに自然に開かれる。

「…あ…指、入れて…お尻に…か、おる…お願い…」
首を仰け反らせ、閉じた瞼を震わせて身体の内側への刺激をねだる。
あまりに魅惑的な真理の乱れて男を誘う様に、馨は感嘆する。

この身体は何度抱いても抱き飽きるということがない。
だから自分は真理を手放すことが出来ない。
そしてまた不破もそうなのだろうと思う。

魔性、という言葉が浮かんだ。
真理の魅力はまさにそれだ。
男を狂わせ骨抜きにさせる。
もしかしたら自分も不破も破滅に向かっているのかもしれない。
それでも構わない。
真理を愛し、そして、愛されたいと思う。

「入れるよ。入っていく…中、熱いね。どう?」
「あっ…入って…る。馨の…綺麗な指が…お尻の中に…入ってる。…あっ…かき回して…そこ…んっ…気持ち、いい…いいっ…あんっ…」

額を馨の肩に押し付けるようにして艶かしい声をあげる。
左手でしがみつくように馨の首に回し、右手は馨の身体をさわさわと撫でた。

鼻先を押し付けて馨の胸元から香るフレグランスの匂いを嗅ぐと頭の芯がぼうとなる。
そういえば馨はゴージャスな真昼のリビングルームに相応しく、ネルシャツの上に質のいいカシミアの薄いセーターを着ていて、着衣に少しも乱れがない。

その馨の膝の上にいる自分はボタンを全開にしたシャツ一枚を身につけ、下半身はむき出しの状態だ。

この清潔な部屋の中で自分だけが淫らな存在だと思うと、真理は自分が馨のオモチャか愛玩動物にでもなったような気がして、思うさまに貪っても許されるのだと思える。

「…あ…馨…馨…か、おる…」
瞼を閉じて、快感を追いかけながらうわ言のように馨の名前を呼ぶ。
それがもっと強い刺激をもたらす秘密の呪文だと知っているから。
「お尻が…ああン、気持ちいい…」

「もっと気持ちいいことしてあげる」
真理の耳の中にそう囁いて、馨は真理をソファーに仰向けに横たえた。
脇腹から腰を軽く撫でたあと、真理の両脚を持ち上げる。

「真理、手伝って。自分の脚を持って」
「えっ…」
赤ん坊がオムツを替えるときのような恥ずかしい格好になるが、真理にはもう拒むことなど考えられない。
両手で自分の脚を持って、馨の目の前に、はしたない穴を晒す。

「馨…こんなの、恥ずかしいよ」
「ふふ、本当、真理の恥ずかしいところが、よく見えるよ。ここも恥ずかしがって、ヒクヒクしているね」
「いじわる…」

馨は微笑みながら、真理の白く柔らかい尻を撫でる。
「そんなこと言うと、気持ちいいことしてあげないよ」
「やっ…して」
「ここはなにをして欲しいんだろうね」
言いながら、馨は指で真理の後孔を広げる。

「あ…っ…ん」
「よく見えるよ。真理のここはピンク色で奇麗だ。ねえ、不破はここも舐めてくれるの」
「…はぁ…んっ、不破は…舐めて…くれ…る…」
「だろうね。襞も、中にも、舌を入れて舐めてもらったんだ。こんなふうに」

言いながら馨は顔を真理のそこに近付けた。
馨が広げた孔に熱い息が触れる。
真理はビクンと大きく身体を震わせた。

「ああん!やだぁ、やっ、馨…息…やめ…くすぐったい」
「じゃあ、これはどう」
「あっ!ああ!あん!」
不意にそこに温かく濡れた感触が押し付けられる。
馨が舌先でその部分を舐めている。
馨が動くたびに、馨の柔らかな髪が内腿を擦る。
優しい愛撫は蕩けるように気持ちがいい。

「…あ、ん…馨、気持ち、いい…ん、やめないで…もっと…そこ…舐めて…」
馨は舌先を孔の中まで潜らせて、入口の内壁を舐めた。
そうされると、切ないような快感が背筋を走って、足の指先まで感じてぶるぶる震えてしまう。

「あぁ…イイっ!も、イキそう…馨っ!」
真理のペニスは限界まで張詰め、ダラダラと先走りの滴を零していた。
「××××も触って…っ、扱いて、馨、いかせて…お願いっ」

自分の手を使えない真理は、腰を振りながらねだった。
「ダメだよ、真理。まだイカないで。一緒にいこう」
「…や、やだ。…もう、イキたいっ、イカせて、馨…」
「真理はオレの、欲しくないの?」
そう言うと馨は真理の尻に、股間を押し付けた。
馨のそこがスラックスの下で硬くなっているのがわかる。

「あっ…ん」
「オレのは真理の中に入りたくて、こんなになってるんだよ」
ファスナーを下ろす音がしたあと、馨のペニスが直に尻に触れた。

押し付けられた肉の感触に、それを入れられたときのことを想像して身体が勝手に期待する。
内側にその容量とその熱を加えられたいと熱望する。

なんて破廉恥な身体だろうと思いながら真理は、それを馨が望むのならば、いくらでも破廉恥になれると思う。

「欲しい…ん、挿れて…馨の××××、オレの中に、挿れて…」
「挿れてあげるから、自分でここ、広げてもっと奥まで見せて」
「…えっ…」

躊躇いながらも真理は自分の両手を脚から尻に伸ばし、双丘を広げるように左右から引っ張った。

「ああ、奥までよく見える。赤く熟してオレを欲しがっているよ。可愛い、真理…真理…」
愛しさを込めて名前を呼びながら、馨は手早くラブローションを塗った自身の先端をゆっくり挿入する。

指と舌で丁寧に解したそこは、喜んで馨の雄を飲みこんでいく。
「…入っていくよ…真理の中に」
「あっ!あん!はぁあ!馨!」
「…つっ」
ズブズブと飲みこんで締めつけてくる熱い内壁の心地良さに、馨の唇からも艶かしい吐息が零れる。

「はあ…すごい、真理…気持ちいいよ。オレのに、絡みついてくるみたい」
根元まで挿入して真理の中を味わいながら、馨は着ていたセーターとシャツを忙しく脱いだ。
真理の隅々まで感じるには衣服は邪魔になる。
肌と肌で触れ合って、熱さを確かめたい。

「…オレも…馨…すごくいい。ねえ、動いて、中を擦って。激しく…して」
「いいよ」
馨は真理の両足を持って、ゆっくり腰をグラインドさせた。
一度再奥まで埋めたペニスをギリギリまで出してまた押し込む。
緩急のリズムをつけて、その動作を繰り返す。
奥を突くたびに、真理は大きく喘いだ。
「あっ!、あん!あっ、いい!馨のが…奥にあたって…気持ちいい…んっ!」

少しでもこの瞬間を長く味わいたくて、真理は自分でペニスの根元を押さえて放出をたえた。
慣れた身体は後ろへの刺激だけで射精出来るようになっているから、前を刺激しなくても出してしまいそうだった。
カラダで自分以外の肉体の存在を感じ、内側への摩擦によってのみ得られる禁断の快楽をもっとずっと、苦しいくらい味わっていたい。

「…真理、もういいから…手をどけて」
腰を使いながら薫は自分の性器を握る真理の手を避けさせ、そっと真理のペニスを握った。

「ああん!馨!馨!」
馨は自分のペニスの出し入れとリズムを合わせるように真理のそれを扱く。
真理の出した液とラブローションが混ざり合いヌルヌルのそこを、激しく追い立てる。
前と後ろから快感の波が押し寄せてきて、真理は身体中を震わせた。

「いやあ!死んじゃう!死んじゃう!…馨っ、イッちゃう!」
「イってもいいよ…真理」
「はうっ!んっ……あっ、ん…」

馨の手で絞りとられるように真理のペニスから白い液が放たれた。
その瞬間の強い、痙攣のような締め付けに馨も真理の中に放つ。
内部に熱い迸りを感じて、身体だけでなく心の中までも満たされる。

馨が、自分の身体の中でイッた。
そのことが誇らしくて嬉しい。
世界で一番優しい男に、こんなにも愛されているのだと実感出来ることが。

「真理……」
まだ繋がったまま、馨が抱きしめてくる。
二人とも乱れた呼吸を合わせるように息をつく。
「まだ…君の中にいる。こうしているといつもね、なんだかオレが君に抱かれているって気がするんだ。熱くて蕩けそうな気持ちのいいところで包まれて、許容されている気がして、とても安らぐ」
「オレも、同じだよ。繋がると、不足しているものが満たされるような気がする。すごく安心する」
「真理…」

指を重ねて、絡め、キスした。
汗の味がすると言ってクスクス笑いだした真理を強く抱きしめて馨も笑う。
真昼のリビングに愛し合う二人の幸福そうで無邪気な笑い声が満ちた。


しおりを挟む

処理中です...