23 / 24
続・東京シンデレラ
8.弁護士先生
しおりを挟む
睦月の助言もあって、オレは弁護士に相談することにした。
弁護士も、睦月が探してきてくれた。
病院に来てくれた弁護士の先生は、高杉にも負けず劣らずのイケメンで、どこかで見たことがあると思ったらテレビでも人気のカリスマ弁護士だという。
弁護士先生は、別の病院に入院している三ノ宮と示談交渉をして、留置所にいる高杉にも面会してくれたりと、オレが病院のベッドで寝ている間に精力的に動いてくれた。
三ノ宮はオレが強姦罪を告訴しなければ、高杉の傷害罪の告訴を取り下げると言ってるらしい。
もともとオレは告訴なんかするつもりはないので了承したのだが、弁護士先生の話だと高杉が頑なに納得しないらしい。
オレは高杉の説得を弁護士先生に頼んだ。
だいたいオレの方は軽い怪我だけ(それでも検査だなんだと2日入院)なのに対し、三ノ宮は鼻の骨が折れ、歯が何本か欠けるという大惨事だったのだ、告訴しないですむなら妥当だと思う。
オレがそう言うと、弁護士先生は「心に受けた怪我の方が、見えない分、重いんですよ。訴えることで少しでもあなたが楽になるならそうした方がいいんです」と言った。
親身になってそう言ってくれたのがわかるから、オレはちょっと嬉しくなって、言わなくてもいいことを言ってしまった。
「でもオレ、ソープで働いていて、男とヤルことなんて仕事でいつもしてるし、そんなにダメージないんですよ」
「あなたが自分の意思でしていることと、自由を奪われて身体を勝手されることは全く、違いますよ。しかも性的な暴力は一番、キツイんです。それは最もプライベートな部分で、人の尊厳にかかわる」
オレは弁護士先生の言葉に、真剣に耳を傾けた。
「それに、レイプはあなただけの問題ではなく、パートナーの問題でもあります。彼も、心に傷を負ったでしょう。あなたを守れなかったことに自責の念もあるでしょうから」
「守るって言っても、高杉はその場にいなかったんだから仕方ないです」
「理屈ではわかっていても、です。もし、わたしのワイフが誰かにレイプされたら、わたしはきっと相手を殺してしまうでしょうね」
にっこり笑いながらそう言った弁護士先生は俳優顔負けの魅力的な笑顔だったけど、その言葉に嘘はないとわかるような凄みがあった。
弁護士先生はオレが後悔しないように、いろんな話をしてくれた。
そのうえでオレはやっぱり告訴しないと決めた。
その理由は単純で、高杉を罪人にしたくなかったから。
刑務所なんかに行かせない、これからも一緒にいたかったからだ。
話がまとまって、帰り際に、弁護士先生はオレの頭にぽんと手を置いて、屈んで、オレの顔を覗きこんで言った。
「大丈夫。二人でなら、乗り越えられるよ」
ずっと、弁護士と依頼人という体で、年下のオレにも丁寧な言葉遣いで話してくれたけど、そのときは弁護士というより、まるで兄貴のような感じだった。
まあ、オレの兄貴にしてはイケメン過ぎるけど。
多分オレの顔は真っ赤になっていたと思う。
弁護士先生が同性婚をしていることは、先生が帰ってから睦月に聞いた。
あんなにカッコ良くて、女に不自由しそうにない人が、男と結婚かあ。
なんとまあ、世の中には不思議なことがあるもんだ。
***
オレが退院して部屋に戻ってすぐ、高杉も勾留されていた警察署から戻って来た。
「お帰り」
玄関で出迎えると、高杉は涙目になって抱きついてきた。
「椎名…椎名…」
「バカだな…なんで、おまえが泣くんだよ…」
オレたちはしばらく玄関先で抱き合って、泣いた。
オレは高杉にずっと気になっていたこと、あの日、なんで早く帰って来たのか聞いた。
「駅前でマリちゃんに会ったんだよ」
「マリちゃん?」
「そう、マリちゃん。駅前の進学塾の前で。息子の進路相談してたんだって。あそこ、三ノ宮が講師してる塾だろ?何気に評判聞いたら、三ノ宮先生なら昨日辞めたわよ、って」
「辞めた?」
「三ノ宮、前の学校、男子生徒に睡眠薬飲ませていたずらしたのがバレてくびになったんだって。塾でもそのことが発覚したらしい。あと、その男子生徒の示談金で借金つくって、経済的にもヤバいらしいって教えてくれてさ。そのこと、おまえは知らないだろうと思って家に戻ったんだ」
「そんなこと、電話でも良かったのに」
「それ聞いて、なんか嫌な予感がしたんだ。結局、間に合わなかったけど」
そう言って、高杉はまた自分を責めるような表情をした。
こんな表情はもうさせたくない。
自分の心の傷より、心が痛い。
「高杉…記憶を上書きしよう。さっさと忘れるために、セックスしよう、今から」
「い、いまから?」
「うん、いまから。最高のセックスをしよう」
オレとおまえでしか出来ないセックスを。
弁護士も、睦月が探してきてくれた。
病院に来てくれた弁護士の先生は、高杉にも負けず劣らずのイケメンで、どこかで見たことがあると思ったらテレビでも人気のカリスマ弁護士だという。
弁護士先生は、別の病院に入院している三ノ宮と示談交渉をして、留置所にいる高杉にも面会してくれたりと、オレが病院のベッドで寝ている間に精力的に動いてくれた。
三ノ宮はオレが強姦罪を告訴しなければ、高杉の傷害罪の告訴を取り下げると言ってるらしい。
もともとオレは告訴なんかするつもりはないので了承したのだが、弁護士先生の話だと高杉が頑なに納得しないらしい。
オレは高杉の説得を弁護士先生に頼んだ。
だいたいオレの方は軽い怪我だけ(それでも検査だなんだと2日入院)なのに対し、三ノ宮は鼻の骨が折れ、歯が何本か欠けるという大惨事だったのだ、告訴しないですむなら妥当だと思う。
オレがそう言うと、弁護士先生は「心に受けた怪我の方が、見えない分、重いんですよ。訴えることで少しでもあなたが楽になるならそうした方がいいんです」と言った。
親身になってそう言ってくれたのがわかるから、オレはちょっと嬉しくなって、言わなくてもいいことを言ってしまった。
「でもオレ、ソープで働いていて、男とヤルことなんて仕事でいつもしてるし、そんなにダメージないんですよ」
「あなたが自分の意思でしていることと、自由を奪われて身体を勝手されることは全く、違いますよ。しかも性的な暴力は一番、キツイんです。それは最もプライベートな部分で、人の尊厳にかかわる」
オレは弁護士先生の言葉に、真剣に耳を傾けた。
「それに、レイプはあなただけの問題ではなく、パートナーの問題でもあります。彼も、心に傷を負ったでしょう。あなたを守れなかったことに自責の念もあるでしょうから」
「守るって言っても、高杉はその場にいなかったんだから仕方ないです」
「理屈ではわかっていても、です。もし、わたしのワイフが誰かにレイプされたら、わたしはきっと相手を殺してしまうでしょうね」
にっこり笑いながらそう言った弁護士先生は俳優顔負けの魅力的な笑顔だったけど、その言葉に嘘はないとわかるような凄みがあった。
弁護士先生はオレが後悔しないように、いろんな話をしてくれた。
そのうえでオレはやっぱり告訴しないと決めた。
その理由は単純で、高杉を罪人にしたくなかったから。
刑務所なんかに行かせない、これからも一緒にいたかったからだ。
話がまとまって、帰り際に、弁護士先生はオレの頭にぽんと手を置いて、屈んで、オレの顔を覗きこんで言った。
「大丈夫。二人でなら、乗り越えられるよ」
ずっと、弁護士と依頼人という体で、年下のオレにも丁寧な言葉遣いで話してくれたけど、そのときは弁護士というより、まるで兄貴のような感じだった。
まあ、オレの兄貴にしてはイケメン過ぎるけど。
多分オレの顔は真っ赤になっていたと思う。
弁護士先生が同性婚をしていることは、先生が帰ってから睦月に聞いた。
あんなにカッコ良くて、女に不自由しそうにない人が、男と結婚かあ。
なんとまあ、世の中には不思議なことがあるもんだ。
***
オレが退院して部屋に戻ってすぐ、高杉も勾留されていた警察署から戻って来た。
「お帰り」
玄関で出迎えると、高杉は涙目になって抱きついてきた。
「椎名…椎名…」
「バカだな…なんで、おまえが泣くんだよ…」
オレたちはしばらく玄関先で抱き合って、泣いた。
オレは高杉にずっと気になっていたこと、あの日、なんで早く帰って来たのか聞いた。
「駅前でマリちゃんに会ったんだよ」
「マリちゃん?」
「そう、マリちゃん。駅前の進学塾の前で。息子の進路相談してたんだって。あそこ、三ノ宮が講師してる塾だろ?何気に評判聞いたら、三ノ宮先生なら昨日辞めたわよ、って」
「辞めた?」
「三ノ宮、前の学校、男子生徒に睡眠薬飲ませていたずらしたのがバレてくびになったんだって。塾でもそのことが発覚したらしい。あと、その男子生徒の示談金で借金つくって、経済的にもヤバいらしいって教えてくれてさ。そのこと、おまえは知らないだろうと思って家に戻ったんだ」
「そんなこと、電話でも良かったのに」
「それ聞いて、なんか嫌な予感がしたんだ。結局、間に合わなかったけど」
そう言って、高杉はまた自分を責めるような表情をした。
こんな表情はもうさせたくない。
自分の心の傷より、心が痛い。
「高杉…記憶を上書きしよう。さっさと忘れるために、セックスしよう、今から」
「い、いまから?」
「うん、いまから。最高のセックスをしよう」
オレとおまえでしか出来ないセックスを。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる