東京シンデレラ

フジキフジコ

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続・東京シンデレラ

2.もしかして初恋

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玄関で、高杉は三ノ宮先生を前に、キョトンとしていた。
「た、高杉じゃないか?!」
驚いて声をあげた先生を、眉を寄せて見て「誰だっけ?」と言った。

客として来た三ノ宮先生は、オレのサービスを固辞した。
「話がしたい」と言う先生を、オレはマンションに連れて来た。
先生はその日の三人目の客で、終わったらオレの仕事もあがりだったのだ。

そんな経緯で、午前2時半のリビングに、先生とオレと高杉がいる。
いつもなら高杉は寝ている時間だった。
「まだ起きてるなんて、珍しいな」
「ああ、締切が近いんだ。半分しか書けてなくて」
「マジか?!大丈夫なのか」
「なんとかなるって」

驚くべきことに、高杉は今、連載を抱えている。
なんと例の盆栽小説が、月刊誌の「ザ・盆栽」に採用されたのだ。
極少部数発行の、超マニア向けの雑誌ではあるが、これでなんとか自称小説家の自称が外れた。

オレと高杉の会話を、三ノ宮先生は目を白黒させながら、聞いていた。
「で、なんで三ノ宮先生がうちに?」
コーヒーを煎れて先生の前に出しながら、高杉がオレに聞いた。
「ばったり会ったんだよ」
「どこで?」
「ど、どこでって…」
先生をチラっと見ると、ひどく焦った顔をしている。
「帰り道に、マンションの近くで…」
オレは先生の名誉のために、思いやりのある嘘をついた。
「ふーん。こんな時間に、道で。偶然ってあるんだな」

「おまえたち、一緒に住んでるのか?そんなに仲良かったか?もしかして、ルームシェアとか?」
先生は、コーヒーを一口飲んで、やっと落ち着きを取り戻したように、聞いてきた。

オレは返事に困った。
シェアはしてない、家賃も生活費もオレが払っている。
この同居形態を何と説明するべきか悩んでいると、高杉はけろっとして答えた。
「オレが養ってもらってるんです、椎名に」
「えっ?」
先生はオレと高杉を交互に見て、もう一度、「ええっ?」と声をあげた。



***



三ノ宮先生は、オレにとっては、かなり良い印象のある教師だった。
高一のとき、副担任だった先生は、そのとき新任で校内で一番若い教師だった。
担当教科は化学で、よくシャツの上から白衣を着ていた。
派手さはないが、長身で、品の良いイケメンで、女子には人気があったように思う。
ただ残念なことに高杉光太郎というスーパースターがいたせいで、並のイケメンは話題にならない時代だった。

すぐには名前も思い出せなかったのに、先生が帰ったあと、オレはいろんなことを思い出した。
正直言って、高校生活にいい思い出なんかない。
だからオレは、先生のことも含めて、記憶を封じ込めていたのかもしれない。

そう思うくらい、三ノ宮先生とは、接点があった。
副担任というのもそうだけど、オレは化学部なるクラブに所属していて、三ノ宮先生はもちろん、顧問だった。
入学早々、隣の席だったクラスメイトに熱心に誘われて入部しただけで、ほとんど顔を出したことはなかったけれど、そのせいか、先生はオレのことを他の生徒よりは多少、気にかけてくれていたように思う。

保護者面談に保護者が来なかったときも、事情を確認しただけの担任と違って、三ノ宮先生は、話を聞いてくれた。

オレは先生に、両親が亡くなって、弟と一緒に親戚の家で世話になっていることを話した。
「おじさんもおばさんも、悪い人じゃない。だけど、親父が生きているとき、おじさんにも金を借りていて、結局、返してなくて。そんなに余裕のある生活じゃないから、気は遣う」
クラスメイトの誰にも言えなかったことを、オレは三ノ宮先生に話した。
別に先生がなにかをしてくれるってことはなかったけど、聞いてくれるだけで、少しだけ、楽になった。

白衣姿で教壇に立つ三ノ宮先生の姿を思い出す。
眼鏡の奥の優しい眼差しで、ただ見守るように教壇から、オレを見た。
ズキンと胸が痛んだ。
あれ、なんだこれ。

もしかして、あれはオレの初恋だったかもしれない。
5年も立っていまさら気づくなんて、どうかしてるけど。




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