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遊佐江梨子

【1】お願い

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遅れて待ち合わせ場所のカフェに行くと、一番隅の目立たない席に美紗都は座っていた。
そんなところを選ぶところが美紗都らしい。
「久しぶりね」
向かいに座って、言う。

髪を後ろでひとつに縛って、ごく薄い化粧をしている。
地味だと思う。
けれど、美紗都は変わった。
薄幸そうな顔立ちの中に、芯の強さを感じる。
半分閉じたような瞼や目元に、滲むような色気があった。

半年前、4人で食事をしたときにはこんな色気はなかった。
美紗都から女のエロスを引き出したのは、弘樹だろうか。
それとも、和也か。

「話って、なに」
美紗都は単刀直入に聞く。
わたしと、たわいない世間話などする気はないというように。
「弘樹に言われたわ。セカンドパートナーをやめたいって」
「そう」
自分には関係ない、そんな素っ気ない返事だ。

「やめるのは、構わない。でも、お願いだから、一度でいいから、わたしの夫と寝てくれない?」
やっと美紗都が、表情を変えた。
驚いている。
当然の反応。
「なにを言ってるの。出来るわけないでしょう、そんなこと!」
「やってもらわなきゃ、困るわ。だって、フェアじゃないでしょ?これから元の夫婦の形に戻るために、罪悪感を残したままでは、いられないのよ」
「勝手なこと言わないで!」
怒る美沙都は、無表情のときより美しいと思った。

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