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第四章≪事件≫
1.悪い知らせ
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それは、授業中だった。
担任の先生が教室に来て「結野、来なさい」と言った。
「え?」
わたしの反応が鈍かったせいか、先生は厳しい顔で「お兄さんが事故に遭われたそうだ」と、促した。
わたしは驚いて、よろめきながら、先生の元に走り寄った。
「事故って、先生、兄は無事なんですか」
「とにかく、来なさい。叔父さんが迎えにきてる。病院に連れて行ってくれるそうだ」
「叔父さん?」
先生について、職員室の隣にある来客室に入ると、お父さんたちのお葬式で会った、北海道の叔母さんの旦那さんが、いた。
予想もしていなかった人が現れて、なにかとても悪いことが起きたんだと、思った。
「花音ちゃん」
「お、叔父さんが、どうして?」
先生はわたしに、「この方は結野の叔父さんで間違いないね?」と、聞いた。
わたしは不思議に思いながらも「はい」と、返事をする。
「じゃあ、早く。いきなさい」
下駄箱に向かいながら、叔父さんが言った。
「奏君の持ち物の中に、清子の携帯の番号があったらしくてね。警察から清子に連絡があったんだ。ぼくはたまたま東京に出張に来ていて、清子から、花音ちゃんを病院に連れて行くように頼まれた」
清子、というのは北海道の叔母さんの名前だった。
「兄は、お兄ちゃんは大丈夫なんですか?」
「トラックと衝突したそうだ。意識がない状態らしい」
わたしは足がガクガク震えて、上手く走れなかった。
校舎の裏の駐車場まで、叔父さんに肩を抱かれるようにして移動して、叔父さんの車の助手席に乗った。
「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」
祈るように、両手を組んで、お兄ちゃん、と呼び続けた。
あの日、未来ちゃんと出かけて楽しかった気分のまま団地に帰ると、団地の人たちと警察の人がわたしの家の前にいて、隣の部屋のおばさんがわたしに走り寄って「花音ちゃん!お父さんとお母さんが事故に遭ったのよ」と叫びながら、肩を揺さぶった。
あの日のことはあまり覚えてないのに、いま、おばさんに肩を揺すられた感覚まで蘇る。
警察の人の車で病院に行った。
お父さんもお母さんも、顔まで白い布を被されていた。
一緒に来てくれた未来ちゃんが大声で泣いていた。
信じられなかった。
「ご両親に、間違いないですか?」
聞かれても、わからなかった。
信じたくなかった。
身体がぶるぶる震えて、震えが止まらない。
神様、お願いします。
お兄ちゃんを、連れていかないで。
たった一人の、わたしの家族を奪わないで。
お父さんとお母さんを奪って、お兄ちゃんまでなんて、酷すぎるよ。
どうか、お願いします。
組んだ両手を額に押し当てて、目を瞑っていた。
どれくらい車で走ったのか、時間の感覚はまったく、なかった。
車のエンジンが止まって、病院に着いたのかと、顔をあげると、そこは薄暗い駐車場だった。
「叔父さん、ここはどこ?病院?」
横を向いて、そう聞いた瞬間に、鼻と口を布で押さえつけられた。
「んっ!」
刺激臭がして、頭がくらくらして、わたしは意識を失った。
担任の先生が教室に来て「結野、来なさい」と言った。
「え?」
わたしの反応が鈍かったせいか、先生は厳しい顔で「お兄さんが事故に遭われたそうだ」と、促した。
わたしは驚いて、よろめきながら、先生の元に走り寄った。
「事故って、先生、兄は無事なんですか」
「とにかく、来なさい。叔父さんが迎えにきてる。病院に連れて行ってくれるそうだ」
「叔父さん?」
先生について、職員室の隣にある来客室に入ると、お父さんたちのお葬式で会った、北海道の叔母さんの旦那さんが、いた。
予想もしていなかった人が現れて、なにかとても悪いことが起きたんだと、思った。
「花音ちゃん」
「お、叔父さんが、どうして?」
先生はわたしに、「この方は結野の叔父さんで間違いないね?」と、聞いた。
わたしは不思議に思いながらも「はい」と、返事をする。
「じゃあ、早く。いきなさい」
下駄箱に向かいながら、叔父さんが言った。
「奏君の持ち物の中に、清子の携帯の番号があったらしくてね。警察から清子に連絡があったんだ。ぼくはたまたま東京に出張に来ていて、清子から、花音ちゃんを病院に連れて行くように頼まれた」
清子、というのは北海道の叔母さんの名前だった。
「兄は、お兄ちゃんは大丈夫なんですか?」
「トラックと衝突したそうだ。意識がない状態らしい」
わたしは足がガクガク震えて、上手く走れなかった。
校舎の裏の駐車場まで、叔父さんに肩を抱かれるようにして移動して、叔父さんの車の助手席に乗った。
「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」
祈るように、両手を組んで、お兄ちゃん、と呼び続けた。
あの日、未来ちゃんと出かけて楽しかった気分のまま団地に帰ると、団地の人たちと警察の人がわたしの家の前にいて、隣の部屋のおばさんがわたしに走り寄って「花音ちゃん!お父さんとお母さんが事故に遭ったのよ」と叫びながら、肩を揺さぶった。
あの日のことはあまり覚えてないのに、いま、おばさんに肩を揺すられた感覚まで蘇る。
警察の人の車で病院に行った。
お父さんもお母さんも、顔まで白い布を被されていた。
一緒に来てくれた未来ちゃんが大声で泣いていた。
信じられなかった。
「ご両親に、間違いないですか?」
聞かれても、わからなかった。
信じたくなかった。
身体がぶるぶる震えて、震えが止まらない。
神様、お願いします。
お兄ちゃんを、連れていかないで。
たった一人の、わたしの家族を奪わないで。
お父さんとお母さんを奪って、お兄ちゃんまでなんて、酷すぎるよ。
どうか、お願いします。
組んだ両手を額に押し当てて、目を瞑っていた。
どれくらい車で走ったのか、時間の感覚はまったく、なかった。
車のエンジンが止まって、病院に着いたのかと、顔をあげると、そこは薄暗い駐車場だった。
「叔父さん、ここはどこ?病院?」
横を向いて、そう聞いた瞬間に、鼻と口を布で押さえつけられた。
「んっ!」
刺激臭がして、頭がくらくらして、わたしは意識を失った。
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