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第七章≪過去≫

6.手がかり

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子供の頃に住んでいた家に行ってみよう、と翔平に言われて、そうすることにしたけど、住所を探すのは意外に難しかった。

「ないなあ。昔の年賀状とか、電気代の領収書とかあれば、わかりそうだけど」

日曜日、わたしは翔平と、団地に住んでいたときの荷物を預けているレンタル倉庫に来ていた。
「いつでも行っていい」と、鍵は兄から、預かっていた。

倉庫は思っていたよりずっと広くて、ソファなんかは普通に座れるように置かれていた。
タンスやベッドは寄せられていたけど、タンスの中身の洋服は衣装ケースに、書類は、段ボールに入れられていて、きちんと整理されていた。

兄が質のいい業者さんを選んだのだろう。
しばらくわたしは、目的も忘れて、お父さんとお母さんの思い出に浸った。
団地の家の匂いがして、目を閉じれば、懐かしい家のリビングにいるようだった。

翔平も、わかってくれているように、わたしを急かさなかった。

「写真も、花音が団地に越してきてからのしか、ないんだよな。なんだか徹底して、隠してるみたいだ」
翔平が、小さな箱に入っている写真を見ながら言った。

「あれ、どうして写真がそんなところにあるんだろ。お母さん、几帳面だから写真はいつも、きちんとアルバムに貼ってたのに」
「同じような写真があると、アルバムに貼らないでよけたりするだろ?ようするにボツ写真だよ。だけど、捨てられないってことじゃないかな。ん?この写真、どこで撮ったんだろ。牧場かな」

翔平がわたしに渡した写真には、お父さんとお母さんと、中学生になったばかりのわたしの三人が写っていた。

「これ、富士山の近くの牧場だよ。2年に一度、わたしの診察をかねて、山梨に日帰り旅行をしたの」
「診察って、花音、どこか悪かったのか」
「えっと、喘息?わたし、子供の頃、喘息がひどかったらしくて」
「喘息?花音が喘息だったなんて、聞いたことないな。どんな病院に通ってたんだ?」
「病院の名前は覚えてないけど、先生の名前は珍しいから、覚えてるの。小鳥が遊ぶって書いてタカナシって読むんだって。小鳥遊先生はお母さんと同じくらいの年齢の女の先生で、病院は、山の中っていうか、森の中にあって、ペンションみたいな素敵なところだった。庭には花壇があって、いつも春先に行ったから、お花がたくさん、咲いていて、入院患者さんたちが散歩してた。そういえば、お父さんたちが亡くなってから診察、行ってないけど、行った方がいいのかな」

翔平は、なんだか難しい顔をした。
「最後に病院に行ったのって、いつ?」
「高2の春、だったかな」
「じゃあ、もう2年は過ぎてるな」

言いながら、翔平はスマホを操作して何かを調べた。

「花音、その病院…精神科だ。で、小鳥遊先生は、有名な催眠療法のドクターだ」
「え?」
「行ってみよう、その病院に」



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